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 昭和59年版 犯罪白書 第2編/第3章/第3節/2 

2 保険金目的の殺人

 調査の対象となった保険金目的の殺人事件は30件で,延べ被告人数は71人である。そのうち,22件(73.3%)が共犯事件である。
 II-7図は,主犯者と被害者の関係を見たものである。債務者が被害者となっている事件が最も多く11件(36.7%),親族姻戚関係者が被害者となっている事件が8件(26.7%)などとなっている。なお,その他の4件中2件は,主犯者が,自己を被保険者とする生命保険金を騙取する目的で,浮浪者等を殺害して自己が死亡したように偽装したという特異な事例である。
 次に,主犯者と他の共犯者との間の共犯関係の成立状況を見ると,被害者と直接の関係を有しない第三者が金銭的報酬を受ける約束の下に,殺人の実行行為の全部又は一部を引き受けている事件が14件(46.7%)を数えている。保険金を目的とする殺人は,それだけで最も凶悪,非人道的な犯罪であるが,これら14件の共犯者は,主犯者のように被害者との間に特殊な関係や確執も無いのに,ただ金銭的報酬を得ることだけを目的として,他人の殺害行為に加担しているのであり,しかも,それが職業的犯罪者ではない通常の一般人であることが,現代社会の危険な一面を示すものとして注目されよう。
 被害者を被保険者とする生命保険の契約と犯行との関係を見ると,たまたま生命保険契約が締結されていることに乗じた犯行が18件(60.0%),計画的に生命保険契約を締結した上での犯行が10件(33.3%),既に締結されている保険契約の受取人を変更した上での犯行が2件(6.7%)となっている。
 最後に,犯行の結果を見ると,被害者の殺害自体に失敗したものが8件(26.7%),殺害後保険金入手前に犯行が露見したものが12件(40.0%),保険金を入手したものが10件(33.3%)である。もっとも,保険金入手の目的を遂げたもののうちの1件は,債権者である主犯者が,債務者である被害者に対し自殺により支払われる保険金で債務の清算をするよう説得し,被害者もこれに同意したというもので,結局主犯者が嘱託殺に問われた特異な事例である。