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 昭和59年版 犯罪白書 第2編/第2章/第1節/2 

2 手口別動向

 ここでは,昭和34年以降における窃盗認知件数を手口別に概観し,併せて,最近の特徴的な動向を見ることとする。II-16表は,34年以降における窃盗の主要手口別認知件数及び手口別構成比を見たもので,II-3図はこれを図示したものである。まず,窃盗のうちでも悪質な侵入盗の推移を見ると,認知件数では,34年から42年の間は32万件前後で推移し,その後上昇して46年に約36万2,000件と頂点に達し,以後全体的に減少傾向を続け,58年には約29万8,000件と46年の約8割に減少している。構成比では,47年の35.7%を頂点として,以後ほぼ低下傾向を示し,58年には過去25年間最低の22.3%まで低下している。侵入盗のうちでも特に悪質な忍込みの動向を見てみると,認知件数では34年の7万8,424件を頂点として,以後おおむね減少傾向を示し,58年には3万5,145件と34年の約45%に激減している。また,構成比で見てもその低下傾向は明らかである。空巣ねらいは,認知件数,構成比とも44年を頂点として以後減少,低下傾向にある。

II-3図 窃盗の主要手口別認知件数の推移(昭和34年〜58年)

 自転車盗について見ると,認知件数は,昭和45年までおおむね減少傾向を示したが,46年以降ほぼ一貫して増加し,58年には前年より若干減少したものの,34年以降第2位に当たる26万1,270件を数えている。構成比は54年から若干低下気味であるが,依然高い水準にある。
 オートバイ盗は,昭和44年以降,認知件数及び構成比ともほぼ一貫して増加,上昇しているが,特に,最近の激増ぶりには目を見張るものがある。
 車上ねらいは,昭和49年以降一貫して増加し,58年には認知件数約16万件,構成比12.1%と過去最高に達している。
 万引きについて認知件数の動向を見てみると,昭和39年に約14万件と頂点に達し,その後,44年まで減少を続けたが,以後56年の約13万件までおおむね増加し,その後,若干減少傾向を見せているものの,58年には11万9,946件となお高い水準にある。
 その他の手口を見てみる。職業犯的色彩の濃厚なすりは,昭和40年までは3万件弱で横ばい状態であったが,41年以降おおむね減少傾向にあり,58年には1万6,632件と最多発時の半分近くに激減している。
 その他,最近,自動販売機荒しと公衆電話機荒しの激増ぶりが注目を集めているが,自動販売機荒しは,昭和51年以降一貫して増加し,58年には2万8,649件と49年の2.9倍,公衆電話機荒しも,58年には7,842件と54年の約3倍といずれも激増している。
 以上,手口別に見た場合,昭和46年,47年に認知件数及び構成比がそれぞれ最高を極めた悪質な侵入盗がそれ以後おおむね減少,低下傾向にあるのに対し,逆に,自転車盗,オートバイ盗及び車上ねらい等は激増傾向を示し,万引きが10万件ないし12万件台の比較的高水準を維持していることなどを特徴として指摘できる。48年末の石油ショック・の発生を契機として,我が国の経済が,高度成長から安定成長へ移行したのと軌を一にしたように,窃盗の認知件数は激増しているが,その主たる原因は,自転車盗,車上ねらい等手口が単純である比較的軽微な事犯の増加によるところが大きいと言える。
 ここで,自転車盗,オートバイ盗,車上ねらい及び万引き等が多発する背景を見てみる。我が国の自動車保有台数は,戦後のモーダリゼーションによって爆発的に増大し,昭和49年と58年を比較しでも,いわゆる四輪車以上の車種で約2,870万台から約4,540万台に増加しており,オートバイ(原付自転車を含む。)の保有台数も,同じ期間に約860万台から約1,640万台になった(警察庁交通局の資料による。)。また,住宅の郊外分散の結果,自転車が郊外居住者の必需品になったこと,レジャー・ブームによる自転車に対する需要の増加などの理由から,自転車保有台数は,同じ期間に約4,200万台から約5,500万台に増加するとともに(日本自転車工業会の資料による。),駅前等に放置されるものも多くなっている。他方,販売業務の省力化に伴ってスーパーマーケットなどセルフサービス販売方式の店舗は,49年の約1万2,000店舗(売場面積約760万m2)から57年の約2万2,000店舗(同約1,700万m2)に増加している(通商産業省の資料による。)。このような事情は,自転車盗,オートバイ盗,車上ねらい及び万引きの機会を増加させるものであり,最近におけるこの種犯行の増加の一因であろう。 次に,窃盗被害状況について昭和34年以降の推移を見てみると,認知件数1件当たりの平均被害額は,34年の1万6,350円からおおむね増加傾向を示し,58年には最高の7万706円になっている。しかし,消費者物価指数を考慮に入れると,その実質的な被害額は45年まではおおむね上昇傾向にあるが,以後はおおむね低下傾向にある。このように消費者物価指数を考慮した1件当たりの被害額が近年低下傾向にあること自体,比較的軽微な窃盗の増加を裏付けるものと言えよう。