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2 各特別法犯の動向 特別法犯のうち,交通関係については本編第2章で,薬物関係及び外国人関係については第2編で,それぞれ取り上げるので,ここでは,公職選挙法違反,保安関係,財政経済関係,風俗関係及び労働者保護関係の各特別法犯について,その動向及び昭和58年における特徴を概観する。
(1)公職選挙法違反 前記のとおり,昭和58年における公職選挙法違反の検察庁新規受理人員は2万9,873人で,いわゆる衆参両院同時選挙が行われた55年の1万9,161人を大きく上回る数字となっている。これは,58年には,6月26日の参議院議員通常選挙(以下「参議院選挙」という。),12月18日の衆議院議員総選挙(以下「衆議院選挙」という。)のほか,4月10日及び同月24日の統一地方選挙等の全国的規模の選挙が行われたためである。 I-10表 特別法犯の検察庁新規受理人員(昭和57年,58年) I-11表は,統一地方選挙,参議院選挙及び衆議院選挙のそれぞれについて,公職選挙法違反検察庁新規受理人員を,違反内容別に前回選挙と比較して見たものである。昭和58年施行の各選挙についての受理人員総数は,いずれも前回選挙より大幅に減少しており,特に,参議院選挙では5分の1に激減している。なお,統一地方選挙では,改選議席数が前回より1,235議席(3.0%)減少し,立候補者数も1,702人(3.5%)減少している。また,違反内容を見ると,いずれの選挙にあっても,依然買収が最も高い比率を占め,58年は,統一地方選挙で91。7%,衆議院選挙で90.2%,参議院選挙で55.2%となっている。次に高い比率を示すのが文書違反であり(ただし,54年の統一地方選挙は例外),58年は,参議院選挙で28.1%,衆議院選挙で5.0%,統一地方選挙で2.9%となっている。I-11表 公職選挙法違反検察庁新規受理人員 I-12表は,参議院選挙について,前回昭和55年の全国区選挙・地方区選挙と新たに導入された今回58年の比例代表選挙・選挙区選挙とを対比して,公職選挙法違反検察庁新規受理人員を違反内容別に見たものである。まず,前回の全国区と今回の比例代表を比較すると,今回の比例代表の受理人員総数は実に96.1%(3,388人)減の139人となっている。買収は,96.8%(2,103人)減の69人で,総数に占める構成比も12.0ポイント低くなっている。一次に,前回の地方区と今回の選挙区を比較すると,選挙制度としては実質的に変わりがないと見られるのに,総数において47.6%(795人)減の876人となり,買収も58.8%(700人)減の491人となっている。ただ,戸別訪問だけは13.6%(9人)増の75人となっているのが注目される。なお,昭和58年施行の各選挙における特異な事例を見ると,統一地方選挙では,多額買収事犯の発生,ブラックジャーナリストに報酬を供与して対立候補者の中傷記事を掲載させた事例,寺院に対する御布施名目で現金供与の申込みをした事例等がある。参議院選挙では,比例代表選挙の名簿を提出できる政党としての要件を充足するために敢行された立候補届出文書の偽造,同行使事例,保育所の保母らが幼児を利用して犯した法定外文書頒布事例等がある。衆議院選挙では,賃金支払を仮装した買収事例,後援会内部の事務連絡文書を仮装した文書違反事例等があるほか,公職選挙法違反ではないが,賭金総額1億円を超える選挙賭博事例の発生も見ている。 I-12表 参議院議員通常選挙違反検察庁新規受理人員 I-13表は,昭和58年に施行された統一地方選挙,参議院選挙及び衆議院選挙に関する公職選挙法違反検察庁終局処理人員を違反内容別に見たものである。総数について見た起訴率は,統一地方選挙で最も高く63.3%となっており,衆議院選挙の58.0%がこれに次ぎ,参議院選挙の56.2%が最も低い。買収のうち公判請求された者は,統一地方選挙で8.8%の1,292人,参議院選挙で11.3%の36人,衆議院選挙で6.2%の440人となっている。I-13表 昭和58年施行3大選挙違反内容別検察庁終局処理人員 (2)保安関係I-14表は,最近5年間における保安関係の特別法犯の動向を見たものである。銃砲刀剣類所持等取締法違反及び火薬類取締法違反は一貫して減少を続け,軽犯罪法違反は昭和57年にいったん減少したものの58年には再び増加して過去5年間の最高となり,酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律違反は54年以来一貫して減少していたが,58年は前年に比べて若干の増加を示している。 1-14表 保安関係特別法犯の検察庁新規受理人員(昭和54年〜58年) (3)財政経済関係I-15表は,最近5年間における財政経済関係の特別法犯の動向を見たものである。昭和58年においては,所得税法違反,宅地建物取引業法違反及び不正競争防止法違反が前年より増加している。 I-16表は,昭和58会計年度における国税庁から検察庁へ告発した所得税法違反及び法人税法違反について見たものである。両者を合わせて見ると,告発件数は190件(前年比19件増),脱漏所得額は446億6,800万円(同7億7,300万円増)で,いずれも過去最高となっている。さらに,各税法違反ごとに見ると,所得税法違反は,告発件数71件(同13件増),脱漏所得額177億6,200万円(同33.2%増),脱税額147億9,900万円(同33.7%増)であり,法人税法違反は,告発件数119件(同6件増),脱漏所得額269億500万円(同12.0%減),脱税額148億1,000万円(同9.3%減)となっている。 I-15表 財政経済関係特別法犯の検察庁新規受理人員(昭和54年〜58年) I-16表 所得税法違反及び法人税法違反の告発件数・脱漏所得額・脱税額(昭和58会計年度) 告発された事件についてその違反業種を見ると,製造業が43件と最も多く,以下,遊技場34件,卸売業20件,特殊浴場14件等の順となっている。脱税の手口について見ると,製造業及び卸売業では売上除外と架空原価の計上が,遊技場,小売業及び医療業では売上除外が,それぞれ主なものであるが,遊技場経営者が自ら経営する多数店舗の一部を妻や父の経営名義として所得の帰属を分散させ,高い累進税率の適用を免れようとした事例も見られた。 脱税によって得た利益の隠匿形態について見ると,その大半は従来どおり,預貯金,有価証券,不動産等であるが,預貯金による場合は仮名のものが圧倒的に多い。特異な事例として,極めて多額の現金,金地金,絵画を保有していたもの,経済の国際化を反映して,国外で,定期預金をしたり,マンションを取得していたものがある。 (4)風俗関係 I-17表は,最近5年間における風俗関係の特別法犯の動向を見たものである。売春防止法違反及び風俗営業等取締法違反は,昭和56年から減少していたところ,58年には増加に転じており,ことに売春防止法違反は過去5年間の最高となっている。児童福祉法違反も,57年に引き続いて58年も増加し,やはり過去5年間の最高となっている。 これに対し,公営競技取締法規の違反(競馬法,自転車競技法及びモーターボート競走法の各違反で,その大部分は,私設馬券等の発売,いわゆるのみ行為及びその相手方となる行為に関するものである。)は,昭和57年に引き続いて更に減少し,58年は過去5年間の最低となっている。 I-17表 風俗関係特別法犯の検察庁新規受理人員(昭和54年〜58年) (5)労働者保護関係法務省刑事局の資料により,昭和54年以降の5年間における労働者保護法規違反の検察庁新規受理人員を見ると,I-18表のとおりである。労働基準法違反は,56年まで減少を続けていたが,57年に続いて58年も若干の増加を示し,労働安全衛生法違反は減少傾向を維持し,船員法違反は56年から連続して増加傾向にある。労働者保護法規違反としての職業安定法違反は,職業紹介事業等に関する違反であり,55年から減少傾向にあったところ,57年には若干増加し,58年は前年とほぼ同水準にある。 労働基準法違反及び労働安全衛生法違反について,その違反条項を見ると,労働基準法違反では,,昭和58年の新規受理人員1,622人中,24条(賃金の支払いに関するもの)違反が777人(47.9%)を占め,次いで,62条(深夜業に関するもの)違反が491人(30.3%)であり,この両者で約8割を占めている。次に,労働安全衛生法違反では,58年の新規受理人員1,760人中,20条及び21条(危険防止のため事業者の講ずべき措置に関するもの)違反が1,062人(60.3%),61条(一定の危険業務に無資格者を就労させることの禁止)違反が297人(16.9%)などとなっている。 I-18表 労働者保護法規違反の検察庁新規受理人員(昭和54年〜58年) |