前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和58年版 犯罪白書 第2編/第4章/第4節/1 

第4節 フランス共和国

1 概  観

 フランスでは,入手した公的統計資料で見る限り,暴力犯罪として特別の範ちゅうが設けられてはいないので,ここでは,殺人,強盗,強姦及び暴行・傷害を中心に,フランスにおける暴力犯罪を見ることにする。
 II-78表は,最近5年間における暴力犯罪の認知件数の推移を見たものである。
 まず,認知件数で見ると,暴力犯罪全体では一貫して増加し,1981年には1977年に比べ約1.3倍の8万129件の多くを記録するに至っている。罪名別に見ると,強盗の増加が最も顕著で,1981年には1977年の約1.5倍に達し,強姦がこれに次いでいる。また,暴行・傷害にも増加傾向が認められる。1981年における殺人の認知件数は前年より若干減少したものの,なお,過去最高を記録した前年に次ぐ数値である。
 犯罪発生率(人口10万人当たりの認知件数の比率)で見ても,1981年には暴力犯罪全体で148.8と,1977年の1.3倍に達しており,暴力犯罪の実質的な増加がうかがえる。全犯罪に占める暴力犯罪の比率はほぼ横ばい状態にある。
 II-79表は,最近5年間における殺人の手段・方法を見たものである。各年次とも銃器を用いた殺人の比率が最も高く,最低の1981年でも35.2%を占めている。フランスでは,銃器所持について事前許可制を採用しているものの,護身用銃器の所持を認めるなど,我が国に比べると規制が緩やかであり,このことが,銃器使用犯罪の多発に影響を与えているものと思われる。
 フランスでは,強盗を,銃器を用いた強盗と暴力を用いた強盗とに分類しているが,両種類の強盗とも増加が顕著で,社会に対する大きな脅威となっている。凶悪性の顕著な銃器を用いた強盗について,最近5年間における認知件数及びその態様の推移を見ると,II-80表のとおりである。認知件数は1980年に若干の減少を見たものの,おおむね増加傾向にあり,1981年には5,408件に達している。ちなみに,1963年と1972年における銃器を用いた強盗の認知件数は,それぞれ530件,1,823件であって,最近の激増ぶりがうかがえる。次に,態様の推移を見ると,1979年には,殺人及び殺人未遂を伴ったものがかなり増加したこと,1980年及び1981年には,殺人や殺人未遂を伴ったものは減少したものの,傷害を与えたものが激増していることなどが注目される。

II‐78表 暴力犯罪の認知件数フランス(1977年〜81年)

II-79表 殺人の手段・方法フランス(1977年〜81年)

 1980年版の警察統計(La criminaliteen France)によれば,最近のフランスにおける強盗を中心とした暴力犯罪の特徴の一つとして,次のような指摘がされている。すなわち,「犯罪経験が浅く,かつ,その犯罪手口も幼稚な新参者や年少者によって行われることが多く,したがって,手のこんだ巧みなものが少なくなり,より原始的な形をとる事犯が多くなっている。この原始的な形態の場合,相手や場所を選ばず,見境なく暴力を振るうため,ある意味では人身に対する危険性が大である上,彼らがこのような行為の繰り返しを通して,プロの犯罪者になっていくことが十分予想されるので,楽観を許されない現象とみられる。」というものである。
 なお,殺人,強盗,強姦などの暴力犯罪ではないが,フランスにおいては,爆発物事犯の続発が社会に大きな影響を与えているので,若干触れておく。II-81表は,最近5年間における爆発物事犯の認知件数を動機別に見たものである。1981年には前年より減少したが,なお,455件もの発生を見ている。

II-80表 銃器を用いた強盗の態様別件数フランス(1977年〜81年)

II-81表 爆発物事犯の動機別認知件数フランス(1977年〜81年)