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 昭和58年版 犯罪白書 第2編/第4章/第2節/1 

第2節 イギリス(連合王国)

1 概  観

 イギリスでは,犯罪は,訴訟上の手続きにより,正式起訴状により起訴され得る犯罪(indictable offence以下「正式起訴犯罪」という。)と略式手続によってのみ審理し得る略式起訴犯罪(summary offence)との二つに大別される。このうち,正式起訴犯罪が,ほぼ我が国の刑法犯に相当する。本節では,今回入手したイングランドとウェールズの公的統計資料に基づき,暴力犯罪について述べるが,統計資料では,暴力犯罪として特別の範ちゅうが設けられていないので,ここでは,殺人,強盗,強姦及び傷害を中心に,イギリスにおける暴力犯罪を見ることとする。
 II-67表は,最近5年間における暴力犯罪の認知件数の推移について見たものである。殺人及び傷害は一貫して増加傾向にあり,1981年の認知件数は,1972年以降いずれも最高の数値となっている。強姦は減少傾向にあって,1981年の認知件数は,1972年以降最低の数値となっている。強盗は近年減少していたが,1980年から1981年にかけて激増し,1981年では1972年の約2.3倍に達している。正式起訴犯罪全体に占める暴力犯罪の比率は,ここ5年間では,4%台で推移している。

II-67表 暴力犯罪の認知件数イギリス(1977年〜81年)

II-68表 銃器使用事犯の認知件数イギリス(1977年〜81年)

 銃器使用事犯の状況を見ると,イギリスでは,1968年の銃器等取締法(The Firearms Act 1968)により,許可なく銃器等の火器を所持することを禁じているが,銃器使用事犯は,逐年,増加の一途をたどっている。II-68表は,最近5年間における銃器使用事犯の推移を罪名別に見たものである。正式起訴犯罪全体で,銃器使用事犯は逐年増加し,1981年には1977年の約1.5倍に当たる8,067件の多くを数えている。これを罪名別に見ると,強盗の銃器使用事犯件数は増加傾向にあり,1981年における強盗事犯の9.3%が銃器使用事犯である。最近5年間における殺人及び強盗の使用銃器種類別の推移を見てみると,殺人では各年次とも散弾銃によるものが最も多く,1981年には使用銃器の61.8%を占めている。強盗では各年次ともピストルによるものが最も多く,1981年には52.9%を占めており,次いで,散弾銃によるものが9.3%となっている。銃器使用事犯により,1981年には2,765件の被害が発生し,その内訳は,死亡34件(1.2%),重傷296件(10.7%),軽傷2,435件(88.1%)となっている。強盗事犯における銃器の使用場所では,各年次とも店舗が最も多い。1981年について見ると,店舗579件(30.6%),公道234件(12.4%),郵便局218件(11.5%),ガレージ,ガソリンスタンド184件(9.7%)などとなっている。
 以上,見てきたように,イギリスにおいては,暴力犯罪の認知件数に増加傾向が認められる上,銃器使用事犯が増加していること,後述のとおり検挙率が低下傾向にあることなどから,暴力犯罪の現状には,楽観を許さないものがあるようにうかがえる。