前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和58年版 犯罪白書 第2編/第4章/第1節/1 

第1節 アメリカ合衆国

1 概  観

 アメリカ合衆国では連邦及び各州で法制が異なり,犯罪類型が統一されていないことから,連邦司法省犯罪捜査局(FBI)がアメリカ国内での犯罪の傾向と分布を測定する指標として,殺人,強姦,強盗,傷害,不法侵入,窃盗,自動車盗及び放火の8犯罪を指定し(指標犯罪と称されている。),全国的集計を行っている。このうち,FBIでは,殺人,強姦,強盗及び傷害を暴力犯罪として分類しているので,ここではこの分類に基づいて記述する。

II-62表 暴力犯罪の認知件数アメリカ(1977年〜81年)

 II-62表は,最近5年間の暴力犯罪の認知件数の推移を見たものである。統計的基礎が同一である1958年以降における暴力犯罪の認知件数の推移を見ると,1980年までは暴力犯罪全体,各犯罪ともほぼ一貫して増加傾向にあったが,1981年には殺人,強姦及び傷害は前年より若干減少した。しかし,それでも1979年の数値を上回っており,1977年の認知件数と比較すると暴力犯罪全体で1,3倍,殺人で1.2倍,強姦で1.3倍,強盗で1.4倍,傷害で1.2倍に増加している。なお,暴力犯罪が指標犯罪中に占める比率も,逐年わずかながら増加しており,1981年では9.9%となっている。
 II-63表は,殺人及び強盗の犯行における使用凶器を,最近5年間について見たものである。各犯罪の使用凶器の内訳は,最近5年間,さほど変化が見られないが,いずれも銃器の割合が最も高く,各年とも殺人で60%強,強盗で40%程度で推移している。銃器に対しては,連邦の1968年の銃器取締法(Gun Control Act)をはじめとして,各州法による規制がなされているが,銃器の所持等について一部の州が許可制をとっているほかは,原則として届出制となっている。

II-63表 凶器の使用状況等アメリカ(1977年〜81年)

 以上,アメリカにおける暴力犯罪については,1981年には強盗を除き前年より若干減少を示したものの依然として量的には高い水準にあること,強盗はなお増加傾向にあること,銃器が犯行の手段として使用される場合が極めて多いことなどを特徴として指摘できよう。暴力犯罪問題は,アメリカが直面する最も重要な課題の一つとなっており,各種の世論調査でも,市民生活を脅かすものとして強い関心を集めている。このため,連邦政府では,1981年4月,暴力犯罪に関する特別委員会を開いて,対応策を審議させている。