第2節 イギリス(連合王国)
1 概 観 イギリスにおいて,薬物濫用が問題となったのは,1960年代に入ってからであり,それ以前は,主に大都市の一部の者の間で,あへんやコカインの使用による中毒者が認められるにすぎなかった。ところが,1960年代に入ると,あへん,ヘロイン,コカイン等の中毒者が,逐年増加してきたため,「危険薬物法」などが制定された。1968年には,開業医に対して,麻薬中毒者の通報を義務づけたが,同年末には,ヘロイン等の麻薬中毒者報告数は1,746人となり,その後も増加を続けた。しかも,1960年代の前半から,若年者の間でも,ヘロイン,コカイン等の中毒者が増加し,1971年末では,中毒者の54%が25歳以下の者で占められていた。そのほか,東南アジア産のヘロインの密輸入,国内製のアンフェタミンの増加,大麻又はヘロインとを併用する複数薬物濫用等,薬物問題が初めて社会問題化してきた。更に,ヘロインの処方は,鎮痛剤として公立の治療センターの医師に限ることとされる等の規制の強化により,薬物入手が一層困難となるに及び,ヘロインやコカインの中毒者が覚せい剤濫用に流れ,使用方法も従来と異なり注射によるようになったので,危険性が増大した。また,一部医師による過剰処方や横流し,あるいは,薬物入手のための処方せん盗・偽造,薬局荒しなど,薬物に関連する犯罪が増加した。そして,これら薬物事犯の有罪人員も,1965年の958人から,1971年には5,516人にまで急増し,法的規制の面でも見直しを迫られる状況に立ち至った。 このような事態に対して,イギリスにおいては,これまでの個別的な取締法規に替えて,1971年に,「薬物濫用に関する法律」(The Misuse of Drugs Act)が制定された。この法律は,規制薬物を列挙し,その輸出入,生産及び供給,所持,大麻栽培,規制薬物に関する開業医の処方や建物の提供等不法な活動などを禁止又は制限したほか,違反の取締り及び処罰等を定めている。 その主な点について触れると,第2条で,規制薬物を,濫用の際の危険性,有害性により三つのクラスに分類し,Aクラスは,あへん,ヘロイン,モルヒネ,LSDなどのほか,覚せい剤などBクラスに定める薬物の注射用製剤,Bクラスは,大麻,コデイン,覚せい剤(注射用製剤を除く。)など,Cクラスは経験上危険性が少ないとされる薬物としている。 違反の起訴及び処罰については,同法第25条及び第26条に規定されているが,これによると,A及びBクラスの薬物の不法製造,供給場所提供,供給目的の所持犯で,正式起訴の場合は14年以下の拘禁刑若しくは裁判所が定める額の罰金,又はこれの併科,Cクラスの薬物の場合は拘禁刑が5年以下である。また,供給目的以外の所持犯で正式起訴の場合,Aクラス薬物にあっては7年以下,Bクラスは5年以下,Cクラスは2年以下である。A及びBクラスの薬物の供給目的の所持犯で略式起訴の場合は,12月以下の拘禁刑若しくは400ポンド以下の罰金,又は併科と定めている。
|