国連麻薬委員会主催の第7回特別会議(1982年)への報告によると,アメリカでは麻薬等規制薬物の非合法な輸入,製造,販売,使用等の防止に種々の対策がとられているが,必ずしも十分な成果が得られていないようである。ヘロインの濫用は,数年来,全国的に減少傾向を示してきたが,最近,中東又は南西アジア方面からの密輸入の増加に伴い,特に,アメリカ北東部の大都市において濫用者が再び増加している。大麻は,自国における非合法な栽培のほか,主にコロンビア,ジャマイカ,メキシコから大量に密輸入されており,その濫用は全国的な広がりを見せている。コカインは,ぺルー,ボリビア,コロンビアからの密輸入が大部分である。1981年には,30トンないし40トンのコカインが密輸入されたと見積もられており,コカイン濫用による中毒性精神病及び事故死の増加が目立っている。このほか,覚せい剤,幻覚剤,睡眠剤の濫用も深刻な問題となっており,1980年は,規制薬物の密造工場が234件摘発されている。このうち,覚せい剤(アンフェタミン及びメタンフェタミン)密造工場の摘発件数が146件で過半数を占めている。
IV-65表薬物押収量アメリカ(1976年〜80年)
IV-65表は,国連経済社会理事会の報告書に基づきアメリカにおける薬物押収量を最近5年間について見たものである。1980年における押収量は,ヘロイン,コカイン,大麻,覚せい剤及び鎮静剤のいずれもが前年よりかなり増加している。
また,これら薬物事犯による検挙人員は,IV-66表のとおり,1980年は58万900人であり,前年より4.0%増加しているが,そのうち,大麻事犯による検挙人員が最も多く,69.8%を占めている。
IV-67表は,薬物事犯のうち,連邦犯罪として,連邦地方裁判所において有罪判決を受けた者の裁判結果を,最近5年間について見たものである。この表で,連邦犯罪として起訴された者の罪名は,主に,大麻税法,麻薬輸出入法等の租税法違反であるので,アメリカにおける薬物犯罪一般についての科刑状況を示すものとは言えないが,1978年は,有罪の判決を受けた者は5,817人となっている。このうち,70.8%に当たる4,119人は拘禁刑の判決を受けている。混合刑,不定期刑及び青年拘禁を除く拘禁刑の平均刑期は51.3月であり,保護観察の平均期間は38.6月である。
IV-66表 薬物事犯による検挙人員アメリカ(1976年〜80年)
IV-67表 連邦地方裁判所における薬物事犯者に対する科刑状況アメリカ(1974年〜78年)
IV-68表は,犯罪がどの程度薬物の影響下で行われているかを見るために,1978年中に地方刑務所(local jail)に収容された受刑者9万1,411人について,犯行時の薬物使用の有無を見たものである。受刑者総数の20.9%の者は,薬物の影響下で犯罪を起こしていることが分かる。濫用された薬物では,大麻が最も多く,次に,数種の薬物を混合使用していた者が多い。
IV-68表 犯行時の薬物使用の有無アメリカ(1978年)
IV-69表は,1978年に連邦の薬物中毒者治療施設に入院した22万2,300人の患者について,検挙歴の有無を見たものである。コカイン及び幻覚剤中毒患者のうち,おおむね60%の者に,また,ヘロイン,大麻及びアンフェタミン中毒患者のうち,おおむね50%の者に,それぞれ検挙歴があり,薬物濫用と犯罪性との関連が深いことを示唆している。
IV-69表 薬物中毒者治療施設入院者の検挙歴アメリカ(1978年)