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 昭和57年版 犯罪白書 第4編/第4章/第1節/1 

第1節 アメリカ合衆国

1 概  観

 アメリカにおける麻薬等薬物の規制は,歴史的には州の所管事項であり,その最初の立法例は,1877年のネバダ州が制定したあへん及びその派生物質の頒布と使用の規制に関するものである。連邦法では,1906年に制定された「純正食品及び薬物法」が麻薬等の危険性薬物規制の最初の法律であるとされているが,これは,主に,薬事行政上の規制を目的としたものであった。その後,麻薬の害悪が国際的にも認識され,1912年,国際あへん条約の成立に伴って,条約加盟国として国内法を整備する必要から,1914年に「ハリソン麻薬法」が制定され,国税当局の免許を得ることなく,麻薬の生産,輸入,製造,調剤,販売等に従事することが違法とされた。この法律は,その後50年以上にわたり,連邦レベルでの麻薬等の取締りの基本法であったが,本来,租税法であったため,取締りにはおのずから限界があった。
 一方,麻薬等の薬物に関する規制法は,1878年以降,各州でも制定され,また,「ハリソン麻薬法」も,効果的運用を図るために幾度か改正され,規制対象を拡大したり,罰則の強化を行うなどの対策がとられてきた。しかし,1960年代に入って,ヘロイン,大麻,アンフェタミン,LSD等の濫用が,都市部の若年層の間で急激に増加し,従来の対策に対し疑問が投げかけられるに至った。そこで,1970年に,従前の関係連邦法を廃止し,各州の州法との調和をはかる目的で「総合薬物濫用防止並びに規制法」(Comprehensive Drug Abuse Prevention and Control Act,以下「薬物規制法」という。)が制定された。この法律の制定とともに,薬物濫用者の治療に関する公衆衛生法が大幅に改正されたほか,1973年には,「薬物規制法」の執行機関として,司法省に薬物統制局(Drug Enforcement Administration)が設置された。
 現行の「薬物規制法」が規制の対象としている薬物は,その濫用の危険性と医学上の必要性の見地から5種類に分類されている。この法律の主な罰則内容を挙げると,あへん,ヘロイン,モルヒネ,コカイン等の麻薬を非合法に製造,販売,調剤し,又はこれらを目的とする所持は,15年以下の拘禁刑,又は2万5,000ドル以下の罰金を,LSD,大麻,アンフェタミン等の麻薬以外の薬物の場合は,5年以下の拘禁刑,又は1万5,000ドル以下の罰金を科すことができる。また,薬物事犯の前科を有する場合や21歳未満の者に対する非合法な販売に対しては,前記の刑の2倍まで加重することができる。なお,拘禁刑には,罰金を併科すことができるほか,拘禁刑を科す場合には,刑の執行後必ず一定期間保護観察に付することにしているが,その期間は,前科の有無によって2年ないし6年とされている。一方,非合法な製造,販売又は調剤を目的としない規制薬物の所持は,初犯者に対しては,1年以下の拘禁刑若しくは5,000ドル以下の罰金,又はこれを併科することができる。なお,再犯者に対しては,この刑の2倍を超えない範囲で刑を加重することができる。また,企業が違法に規制薬物の製造,販売等を反復した場合には,その企業に従事した者に対して,終身刑を含む10年以上の拘禁刑,又は10万ドル以下の罰金を科すことができ,更に,再犯者に対しては,20年以上の拘禁刑,又は20万ドル以下の罰金を科すことができる。