IV-59表は,昭和52年以降5年間における覚せい剤事犯新受刑者の分類級別人員を見たものである。男子受刑者では,B級に判定された者が最も多く,各年とも70%前後で推移しており,56年は68.2%となっている。これを56年の覚せい剤事犯を除く男子新受刑者でB級に判定された者の比率59.0%と比べると,著しく高率であり,覚せい剤事犯新受刑者には,暴力団関係者など犯罪傾向の進んでいる者が多いことを示している。女子受刑者では,A級に判定された者が最も多く,56年では55.4%であるが,A級受刑者の占める割合は,53年以降低下してきており,B級に判定される者の割合が上昇する傾向が見受けられる。
IV-59表 覚せい剤事犯新受刑者の男女別収容分類級(昭和52年〜56年)
覚せい剤事犯受刑者の激増,特に,暴力団関係者などの犯罪傾向の進んでいる受刑者の増加にかんがみ,行刑施設においては,それらの受刑者に対して種々の処遇を試行し,処遇方策の強化,充実に努力している。すなわち,覚せい剤事犯受刑者に対しては,覚せい剤とのかかわりあいの程度並びに犯罪傾向の進度,性別,年齢等に応じて,最も適当と認められる処遇を計画的かつ継続的に実施するよう努めている。その処遇は,覚せい剤事犯による再犯防止を目的として,覚せい剤使用の心身に及ぼす害悪性及び覚せい剤の社会的危険性を理解させるとともに,覚せい剤にかかわるに至った個別的な問題点の解明と改善に努めさせ,覚せい剤との関係を断つ強固な意志を培わせるよう配慮されている。IV-60表は,特定のB級施設及び女子施設で試行している処遇の実例を紹介したものであるが,その他の行刑施設において試行している処遇の概要は次のとおりである。処遇方法としては,営利的事犯者と非営利的事犯者とに分けて集団を編成し,各事犯者の特性に応じた適切な処遇を行い,あるいは,自己使用者を中心として,薬物嗜癖のある者を集めて処遇群を編成し,薬害について特別指導を実施するなどである。更に,それらの処遇は,視聴覚教材の活用,部外者による講話,集団討議及び個別的な面接指導等によって行われている。昭和56年7月1日から同年12月末日までの6か月間に実施された特別処遇の回数は,全国の行刑施設で延べ4,574回,その処遇を受けた受刑者数は,延べ1万3,455人に達している。
IV-60表 覚せい剤事犯受刑者に対する処遇実例
また,一般受刑者に対する覚せい剤の害悪についての啓発活動も,活発に実施しており,更に,覚せい剤事犯受刑者に対する,より効果的な処遇の技法を開発する研究も行われている。
覚せい剤事犯受刑者の再犯防止には,暴力団からの離脱,帰住先の環境調整等解決すべき問題は多いが,最も重要なことは,受刑者が自ら覚せい剤と関係を断つという強固な意志を持つことであり,そのためには,処遇内容の充実を図り,それに基づく継続的な根気強い指導が必要である。