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 昭和57年版 犯罪白書 第4編/第3章/第2節/2 

2 少年院在院者の処遇

 少年院における薬物濫用防止に関する教育は,薬物濫用の弊害等に関する知識を普及させるために実施されている啓発活動と,教育課程上,生活指導領域に位置づけられている薬物濫用防止教育に大別できる。前者は,在院者全員を対象に,後者は,薬物濫用が非行と密接に関連している問題性を持った在院者を対象に実施されている。

IV-61表 薬物濫用防止に関する教育の実施状況(昭和56年7月1日〜同年12月31日)

 IV-61表は,昭和56年7月1日から同年12月末日までの6か月間に,全国少年院で実施された薬物濫用防止に関する教育を,啓発活動及び薬物濫用防止教育別に見たものである。
 啓発活動の教育方法の特徴は,個別指導よりも集団指導を中心に実施され,グループ編成の平均人員が30人を超えていること,視聴覚教材(映画・VTR等)を利用した指導(以下「視聴覚教育」という。),講話等の方法で行われる頻度が高いことなどを挙げることができる。一方,薬物濫用防止教育のそれは,個別指導と集団指導とが共に重視され,グループ編成の平均人員が約8人と少人数であること,視聴覚教育,講話という方法よりも,作文・綴方,集団討議等及び個別面接が多用されていることなどを挙げることができる。このような,両者間に認められる教育方法上の相違点は,啓発活動が一般予防,薬物濫用防止教育が特別予防を目的として実施されているという両者の教育目的の違いを反映しているものと思われる。
 一般予防の立場から行われる啓発活動は,年間を通じて適宜実施されている。薬物濫用防止教育は,薬物問題を改善するための教育計画を作成し,特別の講座を設けて,計画的かつ継続的に実施することが必要であるため,種々の試みがなされ,その充実化への努力がなされている。

IV-62表 薬物問題特別講座の実施状況(昭和56年度)

 IV-62表は,薬物問題に関する特別講座を設けている45庁のうち,年間指導計画を作成し,薬物濫用防止教育を実施している40施設の状況を,グループ編成,指導時期,指導期間,週当たりの指導回数,1回の指導時間,指導方法の諸点から見たものである。
 グループ編成の基準は,シンナー等有機溶剤濫用者と覚せい剤濫用者を同じグループに編入している施設が大部分で,覚せい剤濫用者のみでグループを編成している施設は3庁である。
 指導時期は,中間期としている施設が28庁で最も多く,中間期から出院準備期としている施設が6庁,全期間としている施設が5庁,新入期から中間期としている施設が1庁である。
 通算指導時間は,平均すると,指導期間11.4週間,週当たり1.4回,1回につき約100分,すなわち,約26時間である。しかし,施設間の差は大きく,指導期間には2週間から32週間の幅があり,週当たりの回数は3分の1回から12回,1回当たりの指導時間は60分から180分と,施設によって大きく異なっている。このように施設間に違いが゜ある理由は,例えば,医療措置課程,特殊教育課程を設置している施設の通算指導時間が50時間を超え,短期処遇を実施する施設のそれが18時間程度であるように,対象者の問題の所在とその程度に応じて通算指導時間が定められていること,及び短期間に集中的に指導を実施する方法や,在院中の全期間を通じて行う方法等が試行されているように,施設間の教育方法についての考え方に差異があることなどによるものであろう。
 指導方法を見ると,視聴覚教育,講義,集団討議,作文・綴方等の方法が,ほとんどの施設で行われており,指導方法として定着している様子がうかがわれる。なお,これらの指導方法は,視聴覚教育又は講義によって,薬害の重大性などを認識させ,引き続いて,集団討議,又は作文・綴方,あるいは個別面接等を実施することによって,認識を深化させるといったように,複数の方法を組み合わせて実施している場合が多い。また,心理劇や体育訓練などが指導方法に導入されつつあるが,より効果的な教育方法を開発するための試みとして,今後の充実が期待されている。