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 昭和57年版 犯罪白書 第4編/第2章/第4節/4 

4 少年・家庭への浸透

 IV-50表は,昭和47年以降10年間における覚せい剤事犯の検挙人員中に占める少年の状況を示したものである。少年の検挙人員は,毎年,増加を続け,昭和56年には2,591人に達している。また,少年の対前年増加率は,50年以降,常に全検挙者の増加率を上回っており,56年は,全検挙者の10.5%に比べて,26.6%と極めて高くなっている。更に,全検挙者中に占める少年の検挙人員の比率も,47年は1.6%にすぎなかったが,その後上昇を続け,55年に10%を超え,更に,56年には11.6%に達しており,覚せい剤が,急速に少年層に浸透していることを示している。少年院における在院者の調査によれば,覚せい剤濫用者は,暴力団と関係のある者が多いとされている(本章第2節2少年院在院者の特質参照)。このことからも,少年の覚せい剤濫用は,覚せい剤の供給源が,暴力団と関係している場合が多いこともあって,暴力団と接触を深める者の増加,あるいは覚せい剤の入手価格が高価であることから,覚せい剤の入手資金を得るための非行の増加等問題が多い。

IV-50表 覚せい剤事犯少年の検挙人員(昭和47年〜56年)

 IV-51表は,最近5年間における覚せい剤事犯による女子の検挙人員中に占める主婦の状況を示したものである。女子の検挙人員の増加とともに,主婦の検挙人員は逐年増加しており,昭和56年には,52年の約2倍の507人となっている。

IV-51表 女子覚せい剤事犯検挙人員(昭和52年〜56年)

 前述した法務総合研究所で行った刑務所における調査に基づいて,主婦の覚せい剤使用事犯の実態を分析することとする。調査対象は,覚せい剤事犯女子受刑者586人であるが,このうち,自己使用の主婦は82人である。しかし,暴力団と関係のある者が50人いるので,これを除いた主婦32人及び主婦に準ずる者として暴力団と関係のない無職の者72人の合計104人についての調査結果を見たのが,IV-52表である。104人の調査対象者の約9割の者が,人から勧められたり,強制されたり,だまされたりして,使用を始めている。使用を勧めた相手は,知人が44.0%,配偶者や愛人が26.4%,暴力団に関係のある者が16.5%であり,使用の場所は,自宅が45.2%と半数に近く,旅館やモーテルが19.2%となっている。また,76.0%の者が,無償で使用している。使用の動機では,一度やってみたかったとか刺激が欲しかったとの好奇心による者が最も多く,次いで,病気やけがの痛み止めとして使用した者となっている。使用継続の理由を見ると,薬効消失に伴う疲労感を除くため,あるいは,元気を出すために使用を続けた者が最も多く,気持良さが忘れられないために使用を継続した者は,比較的少ない。覚せい剤の使用を継続するために要した金額は,100万円を超える者が,3分の1を超えており,入手資金を得るために,半数近くの者が,家庭からの金品持出しや,覚せい剤の密売,売春等の犯罪や家庭崩壊につながるような方法をとっている。したがって,家庭に悪影響を及ぼした者も多く,ついには,家出や離婚という最悪の事態に至った者も16.4%に達している。この調査からも,家庭の主婦の覚せい剤とのかかわりあいは,家庭崩壊につながるものであることがうかがえる。

IV-52表 女子覚せい剤事犯受刑者の使用状況構成比

 少年及び家庭の主婦に対する覚せい剤の浸透の現状は,極めて憂慮される問題と言えよう。