IV-31表は,法務総合研究所が行った調査により,昭和56年8月1日現在全国少年院在院者の薬物(シンナー等有機溶剤及び覚せい剤をいう。)濫用状況を見たものである。在院者総数3,652人のうち,薬物濫用経験のある者は81.1%(2,962人)を占めており,少年院在院者には多数の薬物濫用者が存在していることを示している。薬物濫用の内訳を見ると,有機溶剤濫用者が2,887人(79.1%),覚せい剤濫用者が1,285人(35.2%)で,前者は後者の約2.2倍である。次に,男女別に濫用者の占める比率を見ると,男子では,有機溶剤濫用者78.3%,覚せい剤濫用者32.9%,女子では,それぞれ,85.0%,52.8%で,有機溶剤,覚せい剤共に女子のほうが濫用者の占める比率は高い。また,覚せい剤濫用者1,285人のうち,1,210人は有機溶剤濫用を経験している者によって占められており,その比率が94.2%という高率を示していることが注目される。以下,これら薬物濫用者の特質を概観すると,次のとおりである。
IV-31表 少年院在院者の薬物濫用者人員
(1) 年齢,職業,知能指数
上記の在院者を,薬物濫用のない者(以下「未経験群」という。),有機溶剤のみを濫用している者(以下「有機群」という。),及び有機溶剤と覚せい剤の両方を濫用している者と覚せい剤のみを濫用している者(以下「覚せい剤群」という。)の3群に区分し,男女別に,年齢層別及び学職別構成比を見ると,IV-5図のとおりである。
男女とも,有機群に低年齢の者が多く,未経験群,覚せい剤群の順に高年齢化する傾向が認められるが,女子については,覚せい剤群では年長少年(18歳以上)の占める割合は29.8%で,男子の場合(66.4%)より低く,中間少年(16歳・17歳)と年少少年(14歳・15歳)が約7割を占めており,有機群では,年少少年が約5割で,これに中間少年を加えると9割を超えるなど,女子非行全般の低年齢化傾向が,女子の薬物濫用者に及んでいる。
学職別構成比を見ると,各群すべてに無職の者が5割以上を占めており,なかでも,女子覚せい剤群に占める無職の者の比率(65.1%)が最も高い。有職者の占める比率は,女子に比べて男子が高く,男子3群はほぼ同率(30%台)であるが,女子では,有機群(9.5%),未経験群(14.6%),覚せい剤群(20.2%)の順に高い。なお,女子覚せい剤群有職者の約8割は飲食店関係のサービス職業従事者である。学生・生徒の大部分は,中学在学中の者で占められており,男女共にその比率は,有機群が最も高いが,男子覚せい剤群に占める中学在学中の者の比率が1.5%であるのに対して,女子のそれが14.2%であることが注目される。
IV-5図 薬物濫用経験別在院者の年齢別及び学職別構成比
前図と同様の区分によって,知能指数別構成比を見ると,男子では,IQ69以下の者の占める比率は未経験群,IQ100以上の者のそれは覚せい剤群が最も高いなど,未経験群,有機群,覚せい剤群の順に知能指数が高くなる傾向が認められる。女子では,IQ69以下の者の占める比率は,有機群が最も高く,男子とやや異なる一面もあるが,IQ100以上の者の占める比率は,未経験群,有機群,覚せい剤群の順に高くなっており,男子と似た傾向も認められる。
(2) 問題行動歴
IV-32表は,前図と同様の区分により,問題行動歴別構成比を見たものである。家庭内暴力を経験している者の比率は,男子に比べて女子が,未経験群に比べて濫用群が高い。
学校内(対教師)暴力を経験している者の比率は,女子に比べて男子が高く,男女共に,覚せい剤群が最も高く,有機群,未経験群の順に低くなっている。
暴走族経験について,その比率の最も高いのは,女子有機群(89。1%)で,同覚せい剤群(88.1%),男子覚せい剤群(84.4%),同有機群(77.2%)の順になっており,その比率は,未経験群(男子36.4%,女子43.8%)の2倍以上となっており,暴走族と薬物濫用が結び付きやすい傾向を示している。
暴力組織との交友又は加入経験のある者の占める比率は,覚せい剤群(男子47.2%,女子69.3%)が他群より著しく高く,特に,未経験群の比率に比ベると,男子が約5倍,女子が約4倍となっており,覚せい剤群と暴力組織との関連の深さを示唆している。
IV-32表 薬物濫用経験別在院者の問題行動歴別構成比
IV-33表 薬物濫用経験別在院者の引受人別構成比
(3) 引受人
IV-33表は,前表と同様の区分により,引受人別構成比を見たものであるが,実父母が引受人である者の比率は,男子3群,女子未経験群では,ほぼ50%であるのに対し,女子覚せい剤群では35.8%,同有機群にいたっては,わずか27.9%にすぎず,女子薬物濫用群の保護環境の劣悪さを示唆している。
(4) 薬物濫用の態様
IV-34表は,薬物濫用の開始時期,程度,勧誘者,薬物の入手先,濫用による体調の変化などを,有機群・覚せい剤群別及び男女別に見たものである。有機群の有機溶剤濫用開始時期は,男子(60.5%),女子(76.2%)共に中学時に集中しているのに対し,覚せい剤群の覚せい剤濫用開始時期は,男子(56.0%),女子(45.9%)共に中卒後17歳までが最も多い。ちなみに,覚せい剤群1,285人中有機溶剤と覚せい剤の両方を濫用している1,210人について,その濫用開始時期を見ると,小学生あるいは中学生の時に有機溶剤の濫用を開始した者は77.2%であるのに対して,覚せい剤は21.1%にすぎず,18歳を過ぎて有機溶剤の濫用を始めた者はわずか1.3%であるのに対して,覚せい剤は23.6%であり,有機溶剤と覚せい剤の両方を濫用している者の多くは,まず,有機溶剤の濫用を経験して覚せい剤の濫用に移行している。
濫用の程度は,ほとんど毎日の者が各群共に3割以上,週2,3回の者を含めると,男子覚せい剤群(58.7%)を除き,各群共に6割以上を占めており,濫用の頻度はかなり高い。
濫用の勧誘者は,有機群では,男子(62.6%),女子(49.0%)共に友人が,覚せい剤群では,男子(41.2%),女子(62.8%)共に暴力団員が最も多い。また,薬物の入手先を見ても,有機群の,男子では薬局・文具店等(40.4%),女子では友人(57.1%),覚せい剤群では,男子(73.4%),女子(77.1%)共に,暴力団員・売人が最も多い。これらの事実は,有機溶剤濫用が身近な友人等を通じて始められたのに対して,覚せい剤濫用は,暴力団との接触を通して開始するに至ったことが分かる。また,薬物濫用によって,体調の悪化を訴えている者は,濫用者の4割以上(有機群42.0%,覚せい剤群47.4%)を占めており,薬物濫用が,少年達の身体に少なからぬ悪影響を与えている。
IV-34表 薬物濫用の態様別構成比