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 昭和57年版 犯罪白書 第2編 /第2章/第2節/1 

第2節 裁  判

1 概  況

 最近5年間における確定裁判を受けた者の裁判結果を刑名別に見ると,II-10表のとおりである。確定裁判を受けた者の総数は,昭和53年から減少を続けていたが,56年は前年より4万3,360人(2.0%)増の218万4,095人となっている。これを刑名別に見ると,56年は死刑が前年の7人から3人へ,無期懲役が前年の40人から33人へと減少し,有期禁錮も前年より639人減の5,051人となっているが,有期懲役は,前年より1,654人(2.4%)増加して7万1,601人,罰金も前年より4万2,017人(2.1%)増加して207万9,519人となっている。有期懲役のうち,執行猶予が言い渡された者は4万541人で,執行猶予率は56.6%(前年は58.6%),有期禁錮のうち,執行猶予が言い渡された者は4,578人で,執行猶予率は90.6%(前年は89.9%)である。この両者を併せた執行猶予率は58.9%(前年は60.9%)となっている。罰金で執行猶予となった者は17人で0.001%にすぎない。また,全確定裁判に占める罰金,科料の比率は,それぞれ95.2%,1.1%である。無罪となった者は178人で全体の0.01%にすぎず,この比率は過去数年間変化はない。

II-10表 全事件裁判確定人員(昭和52年〜56年)

 II-11表は,昭和51年以降5年間に地方裁判所及び簡易裁判所が通常の裁判によって処理した結果を示したものである。55年における有期懲役及び同禁錮の執行猶予率は60.3%,執行猶予者中,保護観察に付された者は17.4%で,いずれも前年よりやや上昇している。無罪を言い渡された者は,前年の250人から186人へと64人減少し,無罪率も前年の0.3%から0.2%へと低下している。

II-11表 地方・簡易裁判所終局処理人員(昭和51年〜55年)

II-12表 罪名別地方裁判所終局処理人員(昭和55年)

II-13表 罪名別簡易裁判所終局処理人員(昭和55年)

 次に,昭和55年において地方裁判所及び簡易裁判所が,それぞれ通常の裁判によって処理した結果を罪名別に見ると,II-12表及びII-13表のとおりである。まず,地方裁判所について見ると,終局処理人員総数は,前年より448人(0.7%)増の6万5,369人となっている。これを罪名別に見ると,前年同様覚せい剤取締法違反が1万4,337人(21.9%)と最も多く,以下,業過9,828人(15.0%),道交違反9,219人(14.1%),窃盗4,954人(7.6%),傷害4,741人(7.3%),詐欺4,217人(6.5%)の順となっている。終局処理人員総数中に占める覚せい剤取締法違反の人員の比率を見ると,51年には11.6%であったものが,逐年上昇を続け,55年では21.9%と5分の1強を占めている。55年に死刑を言い渡された者は,前年より2人増の9人で,罪名別に見ると,殺人で4人,強盗致死で5人となっており,無期懲役を言い渡された者は,前年より6人増の40人で,罪名別では,殺人が16人,強盗致死23人,強盗強姦1人となっている。
 昭和55年の懲役・禁錮の執行猶予率は,全体では59.9%(前年は60.0%)であるが,公職選挙法違反(98.1%),競馬法違反(82.1%),業過(81.4%)などで高く,強盗(15.2%),窃盗(28.3%),殺人(29.4%)などで低くなっている。保護観察に付された者の実数が多いのは,覚せい剤取締法違反(1,750人),道交違反(1,110人),業過(719人),傷害(453人),窃盗(416人),詐欺(379人)の順である。無罪率は,前年同様0.2%であるが,殺人が1.0%,放火が0.7%と平均より高い比率を示している。
 簡易裁判所の終局処理人員総数は,前年より864人(4.8%)減の1万7,274人である。懲役言渡人員中,93.8%に当たる1万2,032人が窃盗であり,罰金言渡人員中,63.5%(1,596人)は業過及び道交違反によるものである。有期懲役言渡人員中,執行猶予となった者は8,046人(62.7%)で,そのうち,保護観察に付された者は1,893人(23.5%)となっている。無罪率は,平均0.3%(前年は0.5%)であるが,罪名別に見ると,業過が7.0%,道交違反が1.3%と高い無罪率となっている。
 昭和55年における家庭裁判所の懲役言渡人員は257人で,そのうち,99.2%(255人)は児童福祉法違反によるものであり,罰金言渡人員は181人で,その96.1%(174人)は児童福祉法違反及び労働基準法違反によるものである。
 昭和55年における控訴率を見ると,地方裁判所の裁判に対しては11.1%,簡易裁判所の裁判に対しては4.4%となっている。
 II-14表は,昭和55年中に控訴審,すなわち,高等裁判所が処理した結果を罪名別に見たものである。終局処理人員総数は,前年より783人減の7,868人で,そのうち,13.2%は控訴人より控訴が取り下げられて終局し,65.4%は控訴が棄却され,20.5%は原裁判が破棄されて,改めて裁判が言い渡され(破棄自判),0.5%は原裁判が破棄されて,更に審理を尽くすべく第一審に差し戻されている。これを罪名別に見ると,取下げは競馬法違反(28.6%),窃盗(22.0%)及び暴力行為等処罰法違反(21.0%)に多く,破棄自判は詐欺(34.5%)及び過失傷害(32.9%)に多い。破棄自判で無罪となる比率は,全体で0.5%であるが,放火(3.2%),恐喝(1.1%),殺人及び暴力行為等処罰法違反(各1.0%)などで高くなっている。

II-14表 罪名別控訴審終局処理人員(昭和55年)

II-15表 罪名別・刑期別地方裁判所有期懲役・禁錮言渡人員(昭和55年)

 昭和55年における控訴審の裁判に対する上告率を見ると35.7%で,控訴率に比べると著しく高くなっており,罪名別では,公職選挙法違反(57.6%),賭博・富くじ(53.3%),道路交通法違反(48.5%)が高く,強姦・わいせつ(18.4%),殺人(22,7%)が低くなっている。
 昭和55年中に上告審,すなわち,最高裁判所が処理した人員総数は2,297人(前年は2,671人)で,そのうち,350人(15.2%)は上告を取り下げ,1,940人(84.5%)は上告が棄却され,4人(0.2%)は原裁判が破棄されている。上告審で無罪となった者はない。
 昭和55年における地方裁判所の有期懲役及び同禁錮の言渡人員を罪名別に見ると,II-15表のとおりである。全体の55.2%(前年は55.6%)は刑期1年未満のものが占めており,刑期が3年を超えるものは前年同様3.9%にすぎない。刑期が10年を超えるものは,全体で122人(前年は114人)で,殺人で81人,強盗致死傷で19人,放火で9人,覚せい剤取締法違反で5人などとなっている。
 II-16表は,昭和55年に地方裁判所及び簡易裁判所において罰金に処せられた人員を罪名別・金額別に見たものである。総数では,10万円以上の罰金の者は2.9%(前年は2.7%)で,5万円未満の者が90.1%(前年は90.6%)を占めている。10万円以上の罰金の者の比率が高い罪名は,賭博・富くじ(19.9%),業過(16.2%)であり,100万円以上の罰金の者の96.7%(116人)は,各種税法違反によるものである。