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3 保険金目的の殺人・放火 我が国においては,近年,国民の間に生活防衛手段としての保険に対する認識が高まり,その普及には著しいものがある。このような保険制度の普及を背景として,生命保険金の取得を目的とした殺人事件,火災保険金の取得を目的とした放火事件などが増加し,社会の注目を集めるに至っている。そこで,最近における生命保険金目的の殺人事件及び火災保険金目的の放火事件について,警察庁刑事局及び法務省刑事局の資料に基づき,その概要を紹介することとする。
(1) 生命保険金目的の殺人事件 昭和47年以降における生命保険金の取得を目的とした殺人事件の検挙件数,検挙人員及び殺害人員は,I-70表のとおりであり,検挙件数,検挙人員共に54年及び55年に著しい増加を見せている。56年は検挙件数が4件に減少しているものの,今後の動向が注目される。 これらの事件の犯行手段・方法を見ると,交通事故を偽装するものが圧倒的に多い。例えば,犯人の運転する自動車の助手席などに被害者を同乗させて,湖や池に転落させ,被害者を溺死させるもの(福岡地検,津地検),あらかじめ被害者を殴打するなどして意識不明に陥らせた上,被害者を自動車もろとも海に転落させて溺死させるもの(佐賀地検),自動車の故障の点検をしてくれと被害者を欺いて車両の下にもぐり込ませた上,れき過して殺害するもの(福岡地検)などがある。 I-70表 保険金目的の殺人事件(昭和47年〜56年) 保険金目的の殺人事件の中には,当初は単純な事故死あるいは交通事故死として処理されていたところ,その後の綿密な捜査により,保険金目的の殺人事件と判明したものもかなりある。このようなことから見て,事故死を装った巧妙な手口による未発覚の事件が相当数あり得ると考えられる。次に,共犯の有無について見ると,この種事犯は,通常の殺人事件に比べ,共犯事件が多く,しかも,主犯が直接殺人の実行行為をするものは比較的少ない傾向にある。 主犯と被害者との関係は,被害者が被雇用者であるもの,親族であるもの及び主犯と被害者との間に金銭貸借関係のあるものなどが多い。 保険の契約関係について見ると,保険契約者は,犯人あるいは犯人の経営する会社が多く,また,保険金受取人は,犯人若しくはその知人,又は犯人の経営する会社が多い。保険契約から犯行までの期間では,3か月未満という短期間のものがかなりある。また,保険金額は,1億円を超えるものも相当数に上り,高額化の傾向がうかがえる。 保険金の騙取に成功した事例は,昭和47年以降の64件中15件(23.4%)であり,なかには,1億円を超える保険金を騙取した事例もある。 検挙された犯人の属性を見ると,性別では男,年齢層では30歳代・40歳代が多く,職業では自営業者が多く見られる。 犯行の動機については,多額の負債の弁済のためや事業の運転資金欲しさというのが圧倒的に多い。 昭和56年中に検挙された主な事例としては,保険金騙取を目的としたマニラ市内における殺人事件(被疑者2人が共謀して,被害者をマニラ市内に呼び出し,かねて殺害を依頼していた現地人に殺害させ,保険金4,099万円を騙取したもの。横浜地検),交通事故偽装による保険金目的の替え玉殺人事件(被疑者3人が共謀して,被疑者の1人に年齢,背丈等が類似する他の男を殺害し,被疑者の1人が死亡したものとして保険金を騙取しようとしたもの。佐賀地検)などがある。 I-71表 保険金目的の放火事件(昭和47年〜56年) (2) 火災保険金目的の放火事件I-71表は,昭和47年以降の火災保険金の取得を目的とした放火事件の検挙件数,検挙人員を見たものである。検挙件数は,54年に最高の28件を記録したが,55年は22件,56年は15件と減少している。 これらの事件の犯行手段を見ると,灯油,ガソリンを使用するもの,紙類にマッチ,ライターで放火するものが多く,なかには,ローソク,蚊取線香等を利用して時限発火装置を作り,犯行時のアリバイ工作を講じているものもある。 検挙された事件について,共犯事件の割合を見ると,一般の放火事件に比べると,保険金目的の放火事件の方が高い。 対象物件は,犯人所有の一般住宅が多いが,その他ではアパート,倉庫などがある。 保険契約から犯行までの期間を見ると,1か月未満という極めて短期間のものがかなりあり,なかには,犯行の2日前に火災保険契約を結んだばかりのものもある。保険金額について見ると,5,000万円を超えるものが相当数に上り,なかには,4億円を超えるものもある。 保険金の騙取に成功した事例は,保険金目的の殺人事件よりも多く,なかには,3億円を超える保険金を騙取した事例もある。 検挙された犯人の属性を見ると,保険金目的の殺人事件の場合と同様,性別では男,年齢層では30歳代・40歳代,職業では自営業者が多い。 犯行の動機について見ると,前同様,多額の負債の弁済のためや事業の運転資金欲しさというのが大半を占めている。 昭和56年中に検挙された主な事例としては,保険金目的の時限発火装置による放火事件(被疑者は,3,100万円の保険に加入している自己所有の二階建家屋を焼倣し,保険金を取得しようと企て,階下8畳間に数時間経過後にローソクの火が順次,固型燃料,新聞紙,型枠から家屋に燃え移るように時限発火装置を設置し,ローソクに点火して同所を立ち去り,家屋を焼燬したもの。金沢地検)などがある。 |