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 昭和57年版 犯罪白書 第1編/第1章/第2節 

第2節 特別法犯の概況

 昭和56年における特別法犯の検察庁新規受理人員(検察庁間の移送,家庭裁判所からの送致及び再起の人員を含まない。)を罪名別に見ると,I-15表のとおりである。56年の新規受理人員総数は213万1,067人であるが,道交違反の199万1,289人(構成比93.4%)を除くと,13万9,778人である。これを前年と比較すると,総数では1万764人(0.5%)増加しているが,その内訳を見ると,道交違反は3万753人(1.5%)増加しているものの,道交違反を除く特別法犯では1万9,989人(12.5%)減少している。
 道交違反を除く特別法犯が前年より減少した主な理由は,公職選挙法違反の減少によるものである。昭和55年には,衆議院議員総選挙,参議院議員通常選挙等全国的規模の選挙が行われたのに対し,56年には,地方選挙(知事選7,市長選136)等が行われただけであったことを反映し,公職選挙法違反の新規受理人員は,前年の1万9,161人から2,372人に激減している。56年の選挙犯罪で特異なものとしては,当選人の出納責任者による後援会組織を利用した高額買収事犯,建設業者による同業者と共謀しての架空転入,詐欺投票事犯などがある。

I-15表 特別法犯の検察庁新規受理人員(昭和55年,56年)

 道交違反を除く特別法犯の中で最も多いのは,覚せい剤取締法違反の3万4,170人(24.4%)で約4分の1を占め,以下,風俗営業等取締法違反の1万2,130人(8.7%),外国人登録法違反の8,629人(6.2%),毒物及び劇物取締法違反の7,140人(5.1%),銃刀法違反の7,045人(5.0%)と続いている。

I-16表 保安関係特別法犯の検察庁新規受理人員(昭和52年〜56年)

 道交違反では,道路交通法違反が192万236人で96.4%を占め,自動車の保管場所の確保等に関する法律違反は7万1,053人(3.6%)を占めるにすぎない。
 I-16表は,最近5年間における保安関係の特別法犯の動向を見たものである。銃刀法違反,火薬類取締法違反及び酒酔い迷惑防止法違反は一貫して減少を続けているが,軽犯罪法違反は,昭和54年から3年連続増加している。
 I-17表は,最近5年間における財政経済関係の特別法犯の動向を見たものである。昭和56年における所得税法違反,法人税法違反及び関税法違反は前年より増加しているが,出資の受入等取締法違反及び宅地建物取引業法違反は,前年より減少している。

I-17表 財政経済関係特別法犯の検察庁新規受理人員(昭和52年〜56年)

 ここで,所得税法違反及び法人税法違反について,最近5年間の法人・個人別処理状況を見ると,I-18表のとおりである。所得税法違反は,その性質上個人がほとんどを占めているが,法人税法違反は,法人の代表者等が法人の業務に関し,違反行為をした場合に,行為者のほか法人も処罰されるもので,昭和56年においては94法人が処罰されている。
 国税庁の資料により,昭和56年4月から57年3月までの1年間における告発件数,脱漏所得額,脱税額等を示したのが,I-19表である。所得税法違反及び法人税法違反の総数では,告発件数は,前年度と同数の167件であるが,脱漏所得総額は,前年度より81億6,300万円増の392億6,900万円,脱税総額は,前年度より85億2,500万円増の289億5,900万円で,いずれも査察制度開始以来の最高の数値となっている。

I-18表 所得税法違反及び法人税法違反事件の法人・個人別処理状況(昭和52年〜56年)

 更に,各税法違反ごとに見ると,所得税法違反は,告発件数69件,脱漏所得額229億4,700万円,脱税額202億9,700万円で,告発件数は前年度より5件減少しているが,脱漏所得額及び脱税額は,前年度より大幅に増加している。法人税法違反は,告発件数98件,脱漏所得額163億2,200万円,脱税額86億6,200万円で,告発件数は前年度より5件増加しているが,脱漏所得額及び脱税額は前年度より減少している。1件当たりの脱漏所得額,脱税額を見ると,総数では,それぞれ,2億3,500万円,1億7,300万円,所得税法違反では,それぞれ,3億3,300万円,2億9,400万円,法人税法違反では,それぞれ,1億6,700万円,8,800万円となっており,1件当たりの脱漏所得額及び脱税額とも,所得税法違反が法人税法違反を大幅に上回っている。

I-19表 所得税法違反及び法人税法違反の告発件数・脱漏所得額・脱税額(昭和56年度)

 次に,所得税法違反及び法人税法違反の両者を併せて脱税した業種を見ると,製造業が41件と最も多く,以下,医療業の19件,卸売業及び小売業の各13件がこれに続いている。脱税の手口について見ると,製造業及び卸売業では売上除外と架空原価の計上が,医療業及び小売業等では売上除外がそれぞれ主体となっている。
 脱税によって得た不法利益の隠匿方法について見ると,その大半は預・貯金,有価証券,不動産等であるが,預金による場合は仮名預金,無記名預金が圧倒的に多い。特異な形態のものとしては,大量の金地金を保有していたもの,多額の現金,宝石を保有していたもの,多数の美術品(絵画,陶芸品)や競走馬を取得していたものなどがある。
 I-20表は,最近5年間における風俗関係の特別法犯の動向を見たものである。売春防止法違反及び児童福祉法違反は,いずれも減少傾向にあり,昭和55年まで増加傾向にあった風俗営業等取締法違反は56年には減少し,54年に急増した職業安定法違反は,55年,56年と連続して減少している。
 最後に,法務省刑事局の資料により,昭和52年以降の5年間における労働者保護法規違反の検察庁新規受理人員を見ると,I-21表のとおりである。労働基準法違反及び労働安全衛生法違反は逐年減少しているが,減少傾向にあった船員法違反は,56年には前年より増加している。労働者保護法規違反としての職業安定法違反は,職業紹介事業等に関する違反であるが,54年に急増した後は減少傾向にある。

I-20表 風俗関係特別法犯の検察庁新規受理人員(昭和52年〜56年)

I-21表 労働者保護法規違反の検察庁新規受理人員(昭和52年〜56年)

 ここで,労働基準法違反及び労働安全衛生法違反について,その違反条項を見ると,労働基準法違反では,昭和56年の新規受理人員1,548人中,第24条(賃金の支払に関するもの)違反が736人(47.5%)を占め,次いで,第62条(深夜業に関するもの)違反が457人(29.5%)であり,この両者で約8割を占めている。次に,労働安全衛生法違反では,56年の新規受理人員1,861人中,第20条(事業者は,機械等による危険,爆発性の物等による危険,電気等のエネルギーによる危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。)違反が627人(33.7%),第21条(事業者は掘削,採石等の業務における作業方法から生ずる危険,労働者が墜落するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。)違反が554人(29.8%),第61条(事業者は,クレーンの運転その他の業務には,資格を有する者でなければ,当該業務につかせてはならない。)違反が306人(16.4%)などとなっている。