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 昭和56年版 犯罪白書 第4編/第3章/第4節/2 

2 少年司法制度

 ドイツ連邦共和国の少年司法制度は,少年裁判所法(1953年,1974年)等によって定められている。刑事責任年齢は,我が国と同じく14歳であるが,18歳未満を少年,18歳以上21歳未満を青年,21歳以上を成人とし,少年による犯罪は,原則として少年裁判所(Jugendgericht)の管轄とされ,青年及び成人による犯罪は通常の刑事裁判所の管轄であるが,青年については,「行為時におけるその道徳的及び精神的発育からみて,まだ少年と同等であることが明らか」と評価されるなど一定の事由があるときは,少年裁判所法が適用され,少年と同様の手続及び処遇がなされる(少年裁判所法第105条ないし第109条)。
 少年裁判所は,簡易裁判所,地方裁判所刑事裁判部など通常の裁判所の裁判官のうち,少年事件の裁判に適した資質・経験をもつ少年裁判官(及び参審員)によって構成され,事物管轄によって,少年係裁判官,少年参審裁判所及び地方裁判所少年裁判部の3種類に分けられ,通常の刑事裁判所の特別部のような形式になっている。
 少年(少年裁判所法が適用された青年を含む。以下,本項で同じ。)の刑事訴追は,成人の場合と基本的に同じであり,警察から送致された少年事件について,少年係検察官が捜査し,起訴・不起訴を決定するが,少年事件については起訴猶予の権限が成人事件よりも広く認められている。
 少年裁判所における審理手続は対審構造をとり(ただし,簡易少年手続では,検察官の審理関与の義務はない。),有罪が認定された少年に対しては,教育処分(ErziehungsmaBregel),懲戒処分(Zuchtmittel)又は少年刑(Jugendstrafe)等の処分がなされる。
 教育処分は,少年の生活態度を規制し,教育を促進するための処分であり,指示(居住,交際,喫煙等に関する指示など)の賦与,教育援助及び教護の措置(少年福祉法上の措置)の3種類がある。
 懲戒処分は,「少年刑は必要でないが,少年に対し犯罪行為についての責任を自覚させる」ためになされる処分であり,戒告,義務の賦課(損害賠償,被害者に対する陳謝及び公共施設への一定金額の支払)及び少年拘禁(Ju-gendarrest)の3種類がある。少年拘禁には,休日拘禁(週の休日について1回ないし4回科される拘禁),短期拘禁(6日以内の継続的な拘禁)及び継続拘禁(1週間ないし4週間の継続的な拘禁)の3種類がある。懲戒処分は,刑としての法的効果がなく,前科簿にも記載されない。
 少年刑は少年に対する刑罰であり,定期刑(6月ないし10年)と不定期刑(短期6月以上,長期4年以下)がある。なお,同国には少年院制度がないため,少年刑の短期6月と少年拘禁の長期4週間の中間を埋めるべき施設内処遇ができないことが指摘されている。
 少年裁判所法には,教育処分の優先性及び少年刑の補充性(少年刑は,教育処分又は懲戒処分が少年の教育のため不十分である場合,又は責任の重大性により刑罰が必要な場合においてのみ科せられる。)の原則など,少年司法における教育的理念が強く現われている(同法第5条,第17条)。
 以上のように,ドイツ連邦共和国の少年司法は,教育主義の理念,青年に対する中間的取り扱い,検察官先議,刑事手続における対審構造,少年処遇における手続の一元化(少年裁判所が教育処分,懲戒処分又は少年刑等を選択的に科し得る。),少年処遇の多様性などが特色として挙げられる。