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 昭和56年版 犯罪白書 第4編/第2章/第3節/1 

第3節 少年院における処遇

1 概  況

 少年院は,家庭裁判所が保護処分の一つとして行った少年院送致の決定を受けた少年を収容し,これに矯正教育を授ける施設である。昭和56年4月1日現在,全国で60庁が設置されている。
(1) 少年院の運営
 少年院における矯正教育は,一般社会における少年非行の動向を踏まえ,収容される個々の少年が持つ問題の所在とその程度に応じ,教育上の必要性に照らして行われるものであり,近年,進歩の著しい処遇技術等をも十分活用したものでなければならない。
 この趣旨に基づき,少年院の運営は,処遇の個別化を基本理念とし,次の諸点を骨子として行われている。
 [1] 少年院を短期処遇を実施する少年院と長期処遇を実施する少年院に大別して運用し,特に,短期処遇の拡充を図る。
 [2] 家庭裁判所の少年処遇に関する意向をできるだけ処遇に反映させる。
 [3] 少年院の矯正教育と仮退院後の保護観察との有機的一体化を図る。
 [4] 処遇の個別化を推進し,在院期間の弾力化を図る。
 [5] 各少年院における処遇内容の特色化を推進する。
 [6] 関係諸機関及び地域社会との連絡協調を図る。
(2) 分類処遇制度
 少年院に収容される者の持つ問題は,近年,ますます多様化,複雑化しているが,これら収容者の個別的な教育上の必要に応じた処遇を展開するために,少年院を短期処遇を行う少年院と長期処遇を行う少年院とに分け,短期処遇を交通非行の有無によって区分するほか,長期処遇を行う少年院については,五つの処遇課程を設け,施設ごとに処遇内容に特色を持たせ,できるだけ共通した問題性を持つ少年を収容することによって,効果的に矯正教育が行われるようにしている。これが分類処遇制度であり,IV-18図は,その骨子を示したものである。なお,この分類処遇制度の基礎となる各少年院の収容区分は,少年院の収容状況及び収容少年の個別的な教育上の必要性などの変化に対応し,必要に応じて変更されているが,昭和55年には,大阪矯正管区管内の宇治少年院の収容区分が,短期施設から長期施設に変更され,東京矯正管区管内の愛光女子学園に,長期処遇の中の義務教育課程が併設された。分類処遇制度のうち,短期処遇及び長期処遇の概要は次のとおりである。

IV-18図 少年院分類処遇制度(昭和56年4月1日現在)

ア 短期処遇
 短期処遇は,非行の傾向がある程度進んでいるが,少年の持つ問題性が単純若しくは比較的軽く,早期改善の可能性が大きいため,短期間の継続的・集中的な指導と訓練により,その矯正と社会復帰を期待することができる少年を対象とし,開放的なふんい気の中で,規律ある集団生活を営ませながら,規範意識を体得させようとするものである。短期処遇は,収容期間を6か月以内とする一般短期処遇と,主たる非行が交通事犯に係る者を対象とし,収容期間を4か月以内とする交通短期処遇に区分される。短期処遇は,近年増加傾向にある享楽的志向や法規範軽視傾向のうかがえる少年に対する処遇として準備されたものであるが,その収容者数は逐年増加している。なお,一般短期処遇を行う少年院は,全国で20庁あり,そのうち女子を対象とした少年院は8庁である。交通短期処遇は,各矯正管区に1庁ずつ計8庁を,一般短期処遇を行う庁に併設している。
イ 長期処遇
 長期処遇は,短期処遇をもってしては矯正効果を十分挙げることが期待できない少年を対象とし,非行の原因となっている問題性及び今後伸長すべき長所等を明確にし,心身の発達状況,資質の特性,将来の生活設計等を総合的に検討して,少年の持つ問題性に対して,最も効果的な方法を重点とした処遇を行うものである。処遇課程としては,生活指導,職業訓練,教科教育,特殊教育及び医療措置の5課程が設けられている。その収容期間は2年以内であるが,円滑な社会復帰が可能になるよう処遇を行い,できるだけ早期に出院させることができるよう努めている。
(3) 収容期間
 IV-47表は,最近3年間における少年院出院者の平均収容期間を,短期処遇の区分及び長期処遇別に見たものである。一般短期処遇からの仮退院者の平均収容期間は5か月弱となっており,交通短期処遇からの仮退院者のそれは3か月弱,長期処遇のそれは,ほぼ1年となっている。

IV-47表 短期処遇の区分及び長期処遇別・出院事由別平均在院日数(昭和53年〜55年)

(4) 医療と給養
 身体疾患のある者及び精神病若しくはその疑いのある者など,専門的又は長期の医療を必要とする者は医療少年院に収容されるが,その他の患者は各少年院に配置されている医師の診療を受ける。しかし,少年院内で適当な医療を施すことができないときには,一般社会の病院に通院させたり,一時的に入院させたり,あるいは自宅その他適当な場所で適切な医療を受けさせている。昭和55年に全国少年院から出院した4,439人のうち,在院中に疾病によって医療を受けた者は1,328人である。その大半は短期間に治ゆしているが,医療少年院での長期にわたる治療を受けた者も含まれている。在院者の衣,食,住という基本的な生活条件については,衣類,寝具,その他日常生活に必要な物品等は少年院から貸与又は給与されているが,規律や衛生に害がないと認められる場合には,自己の物品の使用も許可されている。食糧の給与は,病気のため特別な食事をとらせる必要のある場合を除き,全員均等に給与されている。一般の在院者に対しては,主食につき,重量比で米75対麦25の割合の給与がなされ,その給与熱量は,1日当たり2,200カロリーである。給食内容については,年々改善されてきており,在院者1人1日当たりの副食予算額(ただし,材料費のみ)は,昭和56年度で256.76円となっているが,このほかに,誕生日や祝祭日の副食を彩るためそれぞれ50円,正月には600円が加算されており,一般社会における同年代の若者たちの食習慣に近づける努力が続けられている。