前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和56年版 犯罪白書 第4編/第1章/第2節 

第2節 少年非行の特質と背景

 前節で述べたような,激増状況にある最近の少年非行は,どのような特質と背景をもっているかについて,共犯率,再犯者率,動機,家庭・経済状態,中学生・高校生の非行,女子少年の非行等の各方面から見ると,次のとおりである。
 非行少年の共犯率及び非行集団加入率を最近5年間について見ると,IV-10表のとおりである。共犯率は昭和55年において53.3%であり,非行集団加入率は8.3%である。少年非行の特質は,その集団化・グループ化にあると言むれているが(シンナー等薬物濫用集団,暴走族,少年暴力団など,グループ化によるいわゆるサブカルチャーの形成),我が国の少年非行は,その5割以上が共犯によって行われているように,このグループ化の特質を示しているが,他方,非行集団加入率が5年間を通じて約1割にすぎず,また,その比率は最近低下傾向を示している点から見て,非行の態様は組織的・持続的なものというより,むしろ友人・仲間同士の非組織的・流動的な結合関係に基づく一時的な共犯形態が多くなっているように思われる。

IV-10表 非行少年の共犯・非行集団との関係(昭和51年〜55年)

 非行少年の再犯者率及び再犯少年の前回処分別の主要な内訳を最近5年間について見ると,IV-11表のとおりである。再犯者率は低下傾向にあり,昭和55年では27.5%である。これは非行少年の7割以上が初犯者であること,したがって,非行前歴をもたない多数の少年が新たに犯罪に関与する傾向を示しているとともに,再犯者率の低下傾向は累犯状況の良好化を示していると一応は言えるであろう。しかし,再犯者率の低下は,増大する検挙人員との相対的な関係における低下にすぎないので,実際上は,むしろ再犯者の実数が5年間一貫して増加している事実(約3万3,000人から約4万6,000人へ1.4倍)のもつ意味が大きいように思われる。つまり,初犯者の非行が著しく増加していると同時に,再犯者による非行も着実に増加しているのである。再犯者の前回処分別内訳では,審判不開始・不処分が4割を超えており,その比率は5年間に41.3%から47.6%に上昇している。我が国の少年司法は,いわゆる全件送致主義をとっているため,諸外国のような警察限りの処分又は検察官の起訴猶予処分が行われない等の理由から,審判不開始・不処分が著しく多い(55年において,業過を除く一般保護事件について88.2%。第2章非行少年の処遇 第1節少年事件の検察・裁判参照)ことが特徴であり,したがって,再犯者の非行歴の多くが審判不開始・不処分であることはむしろ当然の結果とも言える。しかし,少年非行の多くは,少年期に特有な一過性の逸脱行動にすぎないという犯罪学の一般的な理解から見ると,最近の少年非行における再犯者の絶対数の増加は,警戒を要する現象のように思われる。

IV-11表 非行少年再犯者の前回処分別刑法犯検挙人員(昭和51年〜55年)

 少年が非行に走る動機について,少年非行の圧倒的多数を占める窃盗の検挙人員における最近5年間の動機別内訳から見てみると,IV-12表のとおり,昭和55年において,「利欲」が67.6%,「遊び」が25.4%,「困窮・生活苦」が0.7%であり,また,5年間に「利欲」と「遊び」の動機がおおむね増加傾向にあるのに対し,「困窮・生活苦」の動機は半減している。このデータは,最近の窃盗非行が万引き,オートバイ盗,自転車盗の3手口において最も多く,かつ,増加率が最も高いという前節で述べた動向と対応し,「利欲」(物質的欲望の充足)と「遊び」(スリルとスピード)が結合した,現代型非行の特質である享楽型化を示すものであろう。

IV-12表 非行少年の窃盗事犯犯行動機別構成比(昭和51年〜55年)

IV-13表 一般保護少年の保護者の状況別構成比(昭和40年,50年,53年,54年)

 非行少年の家庭の保護者及び経済状況について見ると,IV-13表及びIV-14表のとおり,実父母がそろい,経済的に普通以上の家庭の少年が約8割を占めており,豊かな社会における生活水準の向上に伴う,いわゆる「犯罪(非行)の一般化」という現代型非行の特質を示している。
 非行少年の学職別刑法犯検挙(補導)人員の最近10年間の推移を見ると,IV-6図のとおり,有職少年の非行の減少傾向に対し,中学生と高校生の非行の激増傾向が顕著であり,中学生の検挙(補導)人員は10年間に約4万5,000人から約9万人へ,高校生の検挙人員は約3万人から約6万人へ,それぞれ約2倍に激増している。

IV-14表 一般保護少年の保護者の経済的生活程度別構成比(昭和40年,50年,53年,54年)

IV-6図 非行少年の学職別刑法犯検挙・補導人員の推移(昭和46年〜55年)

 中学生の殺人,強盗,傷害,窃盗,強姦及び放火の主要6罪種の検挙(補導)人員を昭和45年及び最近5年間について見ると,IV-15表のとおりである。殺人は54年から減少しているが,強盗は53年から3年連続して増加し,55年には99人になっている。傷害と窃盗は,5年間一貫して増加し,強姦と放火も最近数年間増加の傾向にある。中学生の非行は,最近,粗暴化・悪質化の傾向を強めつつあると言えよう。特に,粗暴犯の典型としての傷害が年々増加の一途をたどっていることが注目される。
 高校生の主要6罪種の検挙人員について見ると,IV-16表のとおりである。強盗は昭和54年から2年連続して増加し,55年には139人になっている。傷害は中学生の場合と異なり,全体的に減少傾向にあるが,55年には急増している。

IV-15表 中学生の刑法犯罪種別検挙・補導人員(昭和45年,51年〜55年)

IV-16表 高校生の刑法犯罪種別検挙人員(昭和45年,51年〜55年)

 女子少年の非行を,刑法犯総数及び主要6罪種の女子比(少年検挙人員に占める女子の比率)によって,昭和45年及び最近5年間について見ると,IV-17表のとおりである。総数では,最近5年間を通じて18%ないし17%台であるが,10年前の9.6%と比べると,著しく上昇している。主要罪種では,窃盗の女子比が最近5年間つねに20%を超えていること,傷害の女子比が全体的に増加傾向にあり,55年では8.6%と最近5年間の最高になったことが注目される。なお,殺人の女子比が比較的高い(55年で14・3%)のはラ嬰児殺が多いためである。

IV-17表 非行少年の刑法犯罪種別検挙・補導人員中に占める女子比(昭和45年,51年〜55年)

IV-18表 非行少年の特別法犯罪名別送致人員(昭和46年〜55年)

 以上のように,前節及び本節で述べた最近の少年非行の動向,特質及び背景を刑法犯について要約すると,[1]少年非行の激増とこれに伴う再犯少年の増加,[2]非行の一般化,[3]非行の低年齢化,[4]享楽(利欲と遊び)型非行の増大などを指摘することができる。
 以上は刑法犯に関する総論的な分析であるが,第3節で学校内暴力,家庭内暴力,暴走族,薬物犯罪及び交通犯罪が取り上げられ,少年特別法犯はこれと重複するので,ここでは交通犯罪を除く特別法犯について,主要罪名別送致人員の最近10年間の推移をIV-18表に示すにとどめた。