前の項目 次の項目 目次 図表目次 年版選択 | |
|
少年非行とは,14歳(刑事責任年齢)以上20歳未満の少年による犯罪行為,14歳未満の少年による触法行為(刑罰法令に触れる行為をしたが,刑事責任年齢に達しないため責任を問われない行為)及び虞犯(保護者の正当な監督に服しない性癖,不良交際など,それ自体としては犯罪ではないが,犯罪を犯すおそれがあると認められる行状)という3種類の行為又は行状を総称する概念である(少年法第3条第1項)。この非行概念は,成人への人格形成期にあって可塑性に富む少年に対しては,犯罪行為だけでなく,虞犯(及び放任された少年)についても,少年の健全な育成と矯正・保護のために国家(少年裁判所)が司法的に介入する必要があるとするアメリカ少年司法の「国親思想」(parenspatriae)に基づく概念と言われているが,犯罪現象としての少年非行の動向を見る場合には,それ自体としては犯罪ではない虞犯については,犯罪行為及び触法行為とは区別する必要があると同時に,犯罪行為と触法行為については,これを統一的に見る必要がある。犯罪行為と触法行為は,刑事責任年齢に関する法制に基づく区別であり(第3章で後述するように,刑事責任年齢は国によって異なっている。),犯罪構成要件に該当する違法行為という点で共通するだけでなく,犯罪の認知件数と検挙件数及び検挙人員の関係を見る場合などにも,同じ視野で見る必要があるからである。特に,少年非行の動向において,低年齢化傾向や中学生の非行化を見る場合にそうである。したがって,本編では,「非行」は,刑罰法令に触れる違法行為という意味で,犯罪行為と触法行為を包括する用語として使用されている。(ただし,統計上の制約によって,非行を犯罪行為のみに限り,触法行為を含まない場合がある。)
IV-1表 少年・成人別刑法犯検挙人員及び人口比(昭和21年〜55年) 我が国における戦後の少年刑法犯検挙人員,少年比(検挙人員中に占める少年の比率)及び人口比(一般に,年齢層の人口10万人当たりの検挙人員の比率をいうが,総数のみについては,数値の簡明な表示のため,人口1,000人当たりの比率を使用する。)の推移を見ると,IV-1表のとおりである。昭和55年の少年刑法犯検挙人員は21万6,384人,少年比は24.9,少年の人口比は22.4で成人(8.1)の約3倍であり,この検挙人員と人口比は,戦後の最高になっている。しかし,この表の刑法犯検挙人員は業過を含む全刑法犯に関するものであり,また,逆に触法少年を含んでいないため,交通関係業過を除く刑法犯の犯罪少年及び触法少年の検挙(補導)人員について,昭和41年(統計上の分類が整備された年)以降の推移を見ると,IV-2表のとおりである。触法少年の少年比は,この15年間に7.3から12.1へ,人口比は5.0から7.2へ上昇し,犯罪少年は少年比が31.7から37.2へ,人口比は11.1から17.2へ上昇し,全少年比は39.0から49.3へ,全少年の人口比は9.0から12.8へ上昇している。これに対し,成人の人口比は,4.5から2.8へ低下している。その結果,55年において,全少年の検挙人員は21万9,956人に達し,検挙人員,全少年比及び全少年の人口比は,すべてこの15年間の最高を記録し,全検挙人員のうち,少年の検挙人員が約5割を占め,少年は人口比から見ると成人の4.6倍も検挙されるに至った。犯罪少年のみについて見ると,その人口比は成人の6.1倍に達している。 次に,犯罪少年について年齢層別に区分して,触法少年及び若年成人(20歳以上25歳未満)と対比させて,各少年比及び人口比を昭和45年及び最近5年間について見ると,IV-3表のとおりである。人口比において,45年の数値に対して最も高い上昇率を示しているのは年少少年(14・15歳)の2.2倍であり,これに次いで中間少年(16・17歳)の1.5倍,触法少年の1.3倍であり,これに対し若年成人は0.7倍と逆に3割も低下しており,年長少年(18・19歳)もわずかながら低下している。このデータは,犯罪に関与する者の年齢層が若年化するという意味で,犯罪(非行)の低年齢化現象を示すものである。IV-1図は,この各年齢層並びに全少年及び成人の各人口比について,41年以後の15年間の推移を図示したものである。特に,年少少年と中間少年の人口比の急激な上昇傾向が顕著に現われており,また,全少年と成人の人口比の格差が年を追ってますます拡大しつつある状況が示されている。 IV-2表 全少年・成人別交通関係業過を除く刑法犯補導・検挙人員(昭和41年〜55年) IV-3表 年齢層別交通関係業過を除く刑法犯補導・検挙人員比率及び人口比(昭和4年,51年〜54年) 昭和55年における交通関係業過を除く刑法犯検挙人員の罪名別構成比を見ると,IV-2図のとおりであり,窃盗が76.0%と圧倒的多数を占め,次いで横領の6.1%,傷害の5.2%などの順となっている。横領事犯の少年検挙人員の99.8%は占有離脱物横領であり,その大部分は放置自転車の乗り逃げと見られる。窃盗の少年検挙人員の手口別構成比を見ると,IV-3図のとおり,万引きが39.3%で最も多く,次いでオートバイ盗の18.3%,自転車盗の14.0%などの順となっている。また,窃盗の手口別検挙人員の最近10年間の推移を,昭和46年の各少年検挙人員を100とする指数によって見ると,IV-4図のとおり,万引き,オートバイ盗及び自転車盗が急激な上昇線を描き,55年の指数は,万引き235,オートバイ盗228,自転車盗237となっている。 IV-1図 年齢層別交通関係業過を除く刑法犯補導・検挙人員人口比の推移(昭和41年〜55年) IV-2図 交通関係業過を除く少年刑法犯検挙人員の罪名別構成比 (昭和55年) IV-4表ないしIV-9表は,殺人及び強盗(凶悪犯),傷害(粗暴犯),窃盗(財産犯),強姦(性犯罪),放火(公共危険犯)の主要6罪種を取り上げ,昭和45年及び最近5年間について,少年検挙人員,少年比及び人口比を示したものである。殺人は,検挙人員と少年比において昭和51年から54年の4年間全体として増加の傾向にあったが,55年には減少し,人口比では前記4年間ほぼ横ばいで55年には低下しており,55年において検挙人員49人,少年比3.1,人口比は0.3で成人(1.9)の約6分の1にすぎない。 これに対し,強盗は,検挙人員及び人口比では昭和54年以後2年間,少年比では53年以後3年間,増加又は上昇傾向にあり,55年では検挙人員788人,少年比37.7,人口比は4.6で成人(1.6)の約3倍になっている。 IV-3図 窃盗検挙少年の手口別構成比(昭和55年) IV-4図 少年の窃盗の手口別検挙人員指数の推移(昭和46年〜55年) IV-4表 殺人の年齢層別補導・検挙人員の比率及び人口比(昭和45年,51年〜55年) 傷害は,少年比が一貫して上昇し,検挙人員及び人口比は増減を繰り返して昭和55年に急増し,同年において検挙人員9,068人,少年比25.7,人口比は52.8で成人(32.3)の約2倍である。窃盗は,検挙人員,少年比,人口比とも最近5年間上昇傾向を示し,昭和55年では検挙人員約17万人,少年比58.6,人口比は1,006.6で成人(150.5)の約7倍に達している。 強姦の検挙人員及び人口比は5年間横ばい傾向にあるが,少年比は一貫しそ上昇しており,昭和55年では検挙人員984人,少年比36.5,人口比は5.7で成人(2.1)の約3倍である。 IV-5表 強盗の年齢層別補導・検挙人員の比率及び人口比(昭和45年,51年〜55年) IV-6表 傷害の年齢層別補導・検挙人員の比率及び人口比(昭和45年,51年〜55年) IV-7表 窃盗の年齢層別補導・検挙人員の比率及び人口比(昭和45年,51年〜55年) IV-8表 強姦の年齢層別補導・検挙人員の比率及び人口比(昭和45年,51年〜55年) IV-9表 放火の年齢層別補導・検挙人員の比率及び人口比(昭和45年,51年〜55年) IV-5図 虞犯・不良行為少年補導人員の推移(昭和46年〜55年) 放火は,検挙人員,少年比,人口比とも5年間ほぼ横ばい傾向にあり,昭和55年では検挙人員478人,少年比37.9,人口比は2.8で成人(1.0)の約3倍になっている。特に,触法少年の補導人員が著しく多い(312人)のが注目される。最後に,IV-5図は,虞犯少年及び「不良行為少年」(非行少年には該当しないが,飲酒,喫煙,けんかその他自己又は他人の徳性を害する行為をしている少年をいう。昭和35年3月18日警察庁通達「少年警察活動要綱」第2条(八))の補導人員について,最近10年間の推移を示したものである。虞犯少年の補導人員は減少傾向にあり,昭和55年では5,252人となっているが,不良行為少年の補導人員は最近6年間に約81万人から約108万人に激増している。このような虞犯と不良行為による補導人員の大きな差異と逆の動向は,虞犯事由としての少年法第3条第1項第3号ニ(自己又は他人の徳性な害する行為をする性癖のあること。)と前記不良行為少年の定義を対照すればわかるように,少年法上の虞犯の認定上の問題等に起因するものと見られる。 |