第3章 現状と対策 我が国の金融機関強盗は,欧米に比べると,発生(認知)件数が著しく少ないというだけでなく,銃器を所持した集団的な組織的犯行が少なく,包丁等の刃物類を所持した単独犯が多いという点で,危険性の程度が比較的高くないという特質があり,また,中年の初犯者がサラ金等の借金返済に窮して犯行を行う場合が比較的多いという点も特徴の一つと言えよう。このような特質は,我が国における銃器規制の有効性を示している(前記の各国の研究・資料は,強盗事犯の減少のための最優先的な措置として銃器規制を挙げている。)とともに,昭和48年秋の石油危機以後の我が国の経済的・社会的変化との関連(低成長経済下における高い生活水準の維持,物質的欲望や享楽の短絡的な充足など)を示唆しているように見える。 いずれにせよ,我が国における金融機関強盗の最近の激増傾向は顕著なものがある。また,金融機関強盗の検挙率は,最近2年間上昇傾向にあるものの,前記のとおり,強盗一般の検挙率を常に下回っていることも注目される。 我が国の警察の捜査能力の高さは定評があり,犯罪検挙率が欧米先進諸国に比べて最も高い事実(第4編第4章参照)がこれを裏付けている。しかし,金融機関強盗の検挙率の問題は,犯行の計画性と迅速性,自動車等による機動性,犯人識別の困難性(覆面等による変装,発砲等から生ずる恐怖感と混乱状態)などの金融機関強盗事犯の諸特質から,この種事犯の検挙,特に,犯人逃走後の捜査には限界があることを示している。その反面,検挙された犯人の約6割が現行犯として逮捕されている事実は,非常通報装置等による警察への通報と,これに基づく警察の緊急配備活動(初動捜査)が犯人検挙にいかに有効であるかを示している。なお,警察庁の調査によると,昭和55年中の金融機関強盗事犯150件について,警察の事件認知から現場到着までの時間(いわゆるレスポンス・タイム)は,5分未満が67.3%であるが,その場合の検挙率は67.3%であり,これに対し,現場到着が5分以上の場合の検挙率は57.1%となっている。 しかし,警察官の現場到着が5分以内という迅速な対応がなされた場合ですら,約3分の1の犯人が逃走に成功している事実を見ると,金融機関強盗事犯は,犯行のスピード性のため,警察力だけでは対応できない局面があることがわかる。そして,この局面は,主として金融機関側の対応に期待される分野であるように思われる。外国における撮影監視装置の設置による事犯の減少と検挙率の上昇はその例証であり,また,カウンター上のスクリーン,事務室ドアなどの店舗構造の防犯上の重要性は,外国の前記諸研究の結論の一つであった。 金融機関強盗を防止するための対策としては,確実な検挙と金融機関側の防犯対策とともに,犯人に対する厳しい処罰をあげることができよう。前記のように,金融機関強盗犯人の約4割は,マスコミによる金融機関強盗の報道による刺激を直接の誘因として犯行を決意しており,現代の情報化社会におけるこの種事犯の模倣性を示している。しかし,判決結果に現われているように,金融機関強盗犯人に対する裁判所の態度はかなり厳しく,犯人の約4割(38.9%)が懲役5年を超える判決を受け,約2割(18.9%)が懲役7年を超える判決を受けている。事件の約3分の2が現金強取に失敗したか,成功しても100万円未満の収獲を得たにすぎない事実から見ると,我が国において,金融機関強盗は決して「引き合う」犯罪ではないと言えよう。犯罪の模倣を絶つ意味において,このことが一般に認識されるよう期待される。
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