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4 犯人像の特質 検察庁の128人に関する調査データを中心として,金融機関強盗の犯人像の特質を要約すると,次のとおりである。
年齢(犯行時)について見ると,30歳台が40.6%で最も多く,次いで20歳台の31.3%,40歳台の12.5%の順となっている。年齢層を25歳で区切ると,25歳以上の成人は77.3%,25歳未満の若年成人・少年は22.7%であるから,我が国の金融機関強盗は,概括的に言えば,成人型犯罪としての特質を示していると言えよう(II-26表)。 職業について見ると,無職が46.1%で最も多く,工員の21.1%がこれに次いでいるが,企業主が8.6%を占めていることが注目される(II-27表)。 学歴について見ると,中学卒が54.7%で最も多く,次いで高校卒の25.0%,高校在・退学の10.2%の順であり,高校卒以下の学歴の者が大半(93.8%)である(II-28表)。 前科・少年院収容歴について見ると,懲役前科(実刑)を有する者が12.5%,懲役前科(執行猶予)を有する者が15.6%,少年院収容歴を有する者が6.3%であり,このような前科・犯歴を有しない者が8割以上を占めている事実から見ると,我が国の金融機関強盗の犯人は,外国の事例(後述)に比べて,初犯者型と言えよう(II-29表)。 II-26表 金融機関強盗犯人の犯行時年齢層(昭和54年1月〜55年6月) II-27表 金融機関強盗犯人の犯行時職業(昭和54年1月〜55年6月) II-28表 金融機関強盗犯人の学歴(昭和54年1月〜55年6月) II-29表 金融機関強盗犯人の懲役前科及び少年院収容歴の有無(昭和54年1月〜55年6月) II-30表 金融機関強盗犯人の犯行動機(昭和54年1月〜55年6月) 犯行動機について見ると,「借金返済」が41.4%で最も多く,次いで「遊興費欲しさ」の26.6%,「生活に窮して」の23.4%の順となっている。動機を更に詳しく見ると,「サラリーマン金融からの借金」が26.6%で最も多く,次の順位の「友人・知人からの借金」の7.8%,「ギャンブル」の7.8%を大きく上回っている。一般に動機の正確な分類は困難であるため,このようが比率は大体の傾向を示すにすぎないが,我が国の金融機関強盗は,借金(特にサラ金)返済型と遊興費型が比較的多いと言えるであろう(II-30表)。犯行の決意に影響を及ぼした直接の誘因(刺激)について見ると,「マスコミ等による金融機関強盗事件の報道に刺激されて」という誘因が39.8%で最も多く,次いで「借金返済の督促が厳しくて」が20.3%である。なお,25.8%を占める「その他」に含まれるのは,「うっ憤を晴らすため」,「別件の犯罪に関する逃走資金を得るため」など多様な誘因である(II-31表)。 II-31表 金融機関強盗犯人の決意に影響を及ぼした直接の誘因(昭和54年1月〜55年6月) このような動機及び誘因に関するデータは,前記の年齢層に関する成人型,前歴に関する初犯者型と併せ考えると,我が国の金融機関強盗の犯人像は,犯罪経歴をあまりもたない中年層の者が,サラ金等の借金返済に窮し,マスコミの金融機関強盗の報道に刺激され(模倣性),短絡的な問題解決を図って(いわゆる「一獲千金」)犯行を決意するというパターンが多いことを示している。犯人が特定の金融機関を選定した理由について見ると,「逃走に便利な地理的状況だから」という理由が32.8%で最も多く,「警備が手薄と思われたから」の26.6%がこれに次いでいる(II-32表)。 下見について見ると,下見をした者が46.9%を占めている(II-33表)。凶器の入手方法について見ると,「前から持っていた」が40.6%で最も多く,次いで「購入した」の34.4%,「窃取した」の12.5%の順となっている(II-34表)。このデータは,我が国の金融機関強盗の使用凶器の約6割が包丁等の刃物類である事実と対応するものであろう。 逃走手段について見ると,自動車(乗用自動車及び貨物自動車)が34.4%で最も多く,「乗物を使用せずに逃げた」の32.0%がこれに次いでいる(II-35表)。逃走手段としての乗物の入手(準備)状況を見ると,「窃取した」が24.2%(31件)と最も多く,「非該当」の72件を除いた56件のうち55.4%を占めている(II-36表)。 このような対象金融機関の選定,下見,凶器・乗物の準備状況に関するデータは,金融機関強盗が綿密な計画と周到な準備に基づく計画的・知能的犯罪としての性質が強いことを示すものと言えよう。 犯人の精神障害の状況について,検察庁の調査データを見ると,「精神障害なし」が87.5%である(II-37表)。また,飲酒及び薬物使用の状況を見ると,「飲酒していなかった」が82.0%,「薬物を使用していなかった」が96.9%である(II-38表)。犯人の知能指数を刑務所のデータによって見ると,「普通」の90ないし109が42.3%,「準普通」の80ないし89が21.1%,「良」及び「優」の110以上が5.6%等であり,一般受刑者の知能指数に比べて幾分高くなっている(II-39表)。これらのデータは,概括的に言えば,金融機関強盗犯人が正常人型であり,また,アルコールや薬物の刺激を借りることなく,冷静な計算によって犯罪を遂行する傾向があることを示している。 II-32表 金融機関強盗犯人の金融機関選定理由(昭和54年1月〜55年6月) II-33表 金融機関強盗犯人による下見の有無(昭和54年1月〜55年6月) II-34表 金融機関強盗犯人の凶器入手方法(昭和54年1月〜55年6月) II-35表 金融機関強盗犯人の逃走手段(昭和54年1月〜55年6月) II-36表 金融機関強盗犯人による犯行時使用乗物の入手方法(昭和54年1月〜55年6月) II-37表 金融機関強盗犯人の精神診断(昭和54年1月〜55年6月) II-38表 金融機関強盗犯人の犯行前における飲酒及び薬物の使用状況(昭和54年1月〜55年6月) II-39表 金融機関強盗犯人の知能指数(昭和55年12月15日現在) |