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 昭和55年版 犯罪白書 第3編/第1章/第2節/2 

2 少年非行の背景

(1) 家  庭
 家庭は,少年の成長と教育にとって基本的な環境であり,少年非行との関連が古くから着目されてきたところである。
 III-26表及びIII-27表は,家庭裁判所が取り扱った道交違反を除く(ただし,昭和50年以降は交通関係業過も除く。)一般保護少年について,40年以降における保護者の状況及び保護者の経済的生活程度を見たものである。保護者の状況のうち,実父母ありの比率は,42年に75.9%に達した後,おおむね一定し,53年の場合,75.7%である。また,保護者の経済的生活程度のうち,富裕及び普通を合計した比率は,46年に80%台に達した後やや増加し,53年の場合は85.6%である。このように,最近における非行少年は,両親がそろい,貧困でもない,いわば一般家庭の出身者が多く,非行の一般化又は普遍化現象が言われることとなった。一方で,家庭内暴力の事例に見られるように,両親の養育態度や親子関係が問題視され,,少年非行においても,近年,これらの家庭機能面のあり方が重視されるようになっている。

III-26表 一般保護少年の保護者の状況

III-27表 一般保護少年の保護者の経済的生活程度

(2) 学 校
 学校は,少年にとって,家庭とともに最も身近かな生活環境であり,しかも近年,高校進学率が90%を超えたため,少年と学校生活との関係は,一層深まっている。
 III-28表は,昭和41年以降における少年刑法犯検挙人員中に占める学職別構成比の推移を見たものである。41年と54年を比べると,学生・生徒の比率は,47.7%から74.9%へと著しく増加し,54年の少年刑法犯検挙人員中の4分の3を占めることとなっている。その内訳は,高校生が36.7%で最も多く,中学生の33.2%,有職少年の15.5%,無職少年の9.6%の順である。

III-28表 少年刑法犯検挙人員学職別構成比

 III-29表は,昭和41年以降における交通関係業過を除く少年刑法犯について,中学生,高校生別検挙人員の在学生総数に対する比率を見たものである。41年以降における在学生総数は,この表で見る限り,中学生及び高校生共に46年を最低として,その後おおむね増加傾向を示しているが,54年においても41年の在学生総数に及ばない。一方,検挙人員の在学生数1,000人当たりの比率は,中学生では46年の9.5,高校生では41年の6.5を最低として,その後一貫して増加し,54年の場合,中学生は14.4,高校生は12.1を示している。したがって,近年における検挙人員中の中学生及び高校生数の増加は,その在学生総数が増加したことのみによるものでなく,検挙人員数そのものの増加によるところが大きい。

III-29表 少年刑法犯学生・生徒別検挙人員及びその在学生に対する比率

 III-30表は,昭和41年以降における中学生,高校生の罪種別検挙人員に対する比率を見たものである。中学生について,各年次において総数の比率を上回る高い比率を示す罪種は財産犯(窃盗,詐欺,横領)で,54年には,34.7%を示している。41年以降増加の著しい罪種は粗暴犯(傷害,暴行,脅迫,恐喝)であり,凶悪犯(殺人,強盗)の比率も次第に高まっている。高校生について,各年次において総数の比率を上回る罪種は,41年及び45年は粗暴犯,50年及び54年では財産犯である。41年と45年を比べて増加の著しい罪種は財産犯であり,次いで凶悪犯である。

III-30表 中学生・高校生の罪種別検挙人員の比率

 学生・生徒,特に中学生による非行の増加は,非行の低年齢化傾向の進行と結びつくものであり,その罪種別推移において,財産犯が主であるにしろ,凶悪犯及び粗暴犯中に占める比率も次第に増加の傾向にあり,憂慮すべき状況にあると言えよう。こうした状況は,家庭,学校,更に,少年司法機関のすべてが対応を迫られるものであるが,少年非行問題に対する学校の役割は,一層重要になっていると言っても過言ではなかろう。