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1 少年非行の特質 (1) 窃盗・横領の増加
昭和41年における窃盗検挙少年の交通関係業過を除く少年刑法犯検挙人員総数に対する比率は59.8%であったが,54年には77.0%となっている。また,窃盗に横領を加えると,82.5%に達している。 III-12表は,昭和41年,50年,53年,54年における窃盗検挙少年について手口別構成比を見たものである。54年は,万引きの比率が前年よりも1.8%低く,自動車盗及びあき巣ねらいの比率もわずかに低くなっているが,一方では,オートバイ盗の比率が1.8%高く,忍込みの比率もわずかながら増加している。54年におけるオートバイ及び自動車の車両関連窃盗の合計は,2万4,017人(21.8%)となっている。 III-12表 窃盗検挙少年の手口別構成比 III-13表 横領事犯検挙少年の罪名別構成比 III-13表は,前表と同年次における横領検挙少年の罪名別構成比を見たものである。近年著しい高率を示している占有離脱物横領は,その大部分が,放置されている自転車の乗り逃げ事犯と見られるが,昭和54年において7,882人,横領総数の99.7%を占める。少年による窃盗及び横領事件の被害額について,昭和41年以降,法務総合研究所が法務省刑事局と共同で実施している特別調査によると,54年の場合,窃盗においては,5,000円未満が17.9%,1万円未満が21.3%,5万円未満が38.6%,10万円未満が11.0%,10万円以上が11.2%であり,横領においては,それぞれ31.9%,23.3%,33.8%,8.6%,2.4%となっている。また,これらの非行場所について,警察庁の統計によると,54年の場合,窃盗においては,デパート・スーパーマーケット・商店が45.1%,路上が13.9%,一般住宅が10.5%などであり,横領では,路上が57.5%,駐車場が10.7%,広場が6.8%などとなっている。 (2) 薬物の濫用 最近における少年非行の大きな特徴の一つとして,覚せい剤及びシンナー等の薬物の濫用を挙げることができる。 覚せい剤の爆発的な流行が昭和20年代後半に見られ,覚せい剤取締法違反によって全国の家庭裁判所が取り扱った一般保護事件の人員は,27年が2,923人,28年が4,010人,29年が5,404人,30年が3,112人であったが,その後厳しい取締りが効果を挙げ,31年には547人となり,急速に沈静化した。III-14表は,最近3年間における覚せい剤事犯少年の学職別補導人員を見たものであるが,52年以降における補導人員の総数は,いずれも31年当時を上回るものであり,54年は前年よりも240人増加し,1,663人となっている。学職別では,無職少年が52.7%,有職少年が36.9%であるが,学生・生徒も10.5%を占めている。 III-14表 覚せい剤事犯少年の学職別補導人員 シンナー等有機溶剤の濫用は,昭和20年代後半の覚せい剤,30年代の睡眠薬に続いて,42年以降非行として表面化したが,当時は虞犯として処理されていた。47年の毒物及び劇物取締法の一部改正によって,シンナー等の有機溶剤や接着剤の濫用行為と,濫用することの情を知って販売する行為等が法規制の対象とされることとなり,48年に一時減少したが,その後再び増勢に転じている。III-15表は,47年以降におけるシンナー等濫用少年の学職別補導人員を見たものである。54年における補導人員数は4万433人で,前年よりも818人増加している。この学職別比率は,有職少年が38.4%で最も多く,次いで,学生・生徒の38.1%,無職少年の23.5%となっている。このように,シンナー等の濫用行為は,厳しい取締りにもかかわらず,逐年増加しており,しかも,濫用による死亡事故が毎年少なからず発生している事実を考えると,この種少年非行の今後の推移には重大な関心を払う必要がある。法務総合研究所は,薬物非行の実態を明らかにするため,昭和55年1月以降全国の少年鑑別所に収容された1,617人の少年について調査を実施した。III-16表は,収容少年の有機溶剤及び覚せい剤の濫用状況を見たものであるが,薬物濫用経験のない少年(以下「未経験群」という。)が36.7%,濫用経験はあるが最近2箇月内に濫用のない少年が27.6%,最近2箇月内に濫用のある少年(以下「濫用群」という。)が34.2%である。濫用群の内訳は,有機溶剤の濫用少年(以下「有機群」という。)が26.2%,覚せい剤の濫用少年(以下「覚せい剤群」という。)が6.7%,両方の濫用少年が1.3%である。 III-15表 シンナー等濫用少年の学職別補導人員 III-16表 少年鑑別所収容少年の有機溶剤及び覚せい剤の濫用状況 濫用群における男女別の割合を見ると,有機溶剤は,男子が26.5%,女子が24.5%で比率に大きな差は認められないが,覚せい剤は,男子の5.9%に対して女子は11.2%で,女子濫用少年の比率が相当高い。III-17表は,未経験群,有機群及び覚せい剤群について,罪種別・入所度数別・審判決定別に構成比を見たものである。罪種別について,今回入所に係る非行名が虞犯と毒物及び劇物取締法違反の者が有機群の47.5%,虞犯と覚せい剤取締法違反の者が覚せい剤群の77.8%を占めているので,これらを除いた刑法犯について3群を比べると,凶悪犯(殺人,強盗,放火をいう。)及び粗暴犯(傷害,暴行,脅迫,恐喝,暴力行為等処罰法違反をいう。)は,覚せい剤群,未経験群,有機群の順に,財産犯(窃盗,詐欺,横領をいう。)は,有機群,未経験群,覚せい剤群の順に,性犯罪(強姦,強制わいせつをいう。)は,未経験群,有機群の順に高い比率を示している。各群別に比率の最も高い罪種は,未経験群における財産犯の52.0%,有機群における財産犯の65.4%,覚せい剤群における粗暴犯の42.1%であり,覚せい剤の濫用と粗暴犯とが結びつきやすい傾向を示している。 III-17表 薬物濫用少年の罪種別・入所度数別・審判決定別構成比 入所度数の初回は未経験群が最も多く,逆に2回以上は有機群及び覚せい剤群に多い。4回以上は,覚せい剤群の6.5%が最も高い比率である。審判決定のうち各群において最も高い比率を示す処分は,未経験群における保護観察の38.9%,有機群における少年院送致の35.7%,覚せい剤群における少年院送致の40.7%である。 III-18表は,前表の対象者について,年齢層別,学職別等の構成比を見たものである。年齢層は,未経験群及び覚せい剤群において,年長少年(18歳以上),中間少年(16歳・ 17歳),年少少年(16歳未満)の順であり,特に,覚せい剤群における年長少年の比率(65.7%)が高い。有機群では,中間少年の比率(42.3%)が最も高い。 学職別では,未経験群の有職少年(44.1%),有機群の無職少年(42.1%),覚せい剤群の無職少年(50.9%)が多いが,有機群の24.1%,覚せい剤群の10.2%が学生である。 性経験は,覚せい剤群,有機群,未経験群の順に多く,覚せい剤群では95.4%の者に性経験がある。 家出経験について,常習の者は覚せい剤群(24.1%),有機群(19.6%),未経験群(14.5%)の順に多い。しかし,常習に達しない数度内程度の者は,有機群(47.3%)が最も多い。 無免許運転について,数度内及び常習の比率の最も高いのは有機群(62.4%)で,未経験群と覚せい剤群との差は認められない。 不良集団関係について,比率の高い集団は,有機群の地域不良集団(22.2%)及び暴走族(18.0%),覚せい剤群の反社会的集団などである。特に,覚せぃ剤群のうちの25.9%は,組織暴力団等の反社会的集団と接触していることが注目される。 III-18表 薬物濫用少年の年齢層別・学職別等構成比 III-19表は,有機群及び覚せい剤群について,濫用動機等の構成比を見たものである。今回収容の原因となった非行名と薬物との関係について,有機群の43.3%が濫用と関係のない非行を行っているのに対して,覚せい剤群では,関係なしが17.6%で,使用が68.5%,所持が11.1%となっている。III-19表 薬物濫用少年の濫用動機等の構成比 濫用動機について,有機群の67.6%が好奇心により能動的に用いているのに対して,覚せい剤では,勧められて又は強制されてという他律的な動機による者が49.1%である。入手経路について,両群ともに,友人・知人からが最も多いが,有機群の31.7%は,薬局等から入手している。 濫用仲間について,単独は,覚せい剤群の比率(28.7%)が高い。集団濫用の場合,有機群は,学校仲間(34.8%)や暴走族(13.0%)の,覚せい剤群は,暴力団(34.3%)の比率が高い。 濫用に対する家族の態度について,知らなかったという者が覚せい剤群の72.2%を占めていることは,注目を要する。 (3) 凶悪な非行の増加 ここでは,殺人,強盗,強姦,放火を凶悪な非行とし,今回の非行名がこの4種のいずれかである少年を少年凶悪犯と呼ぶこととする。 III-20表は,昭和52年以降における凶悪な非行の推移を見たものである。少年凶悪犯検挙人員及び少年比(凶悪犯全体に占める少年の比率)は,52年を最低として次第に上昇しており,罪名別では,殺人,強盗及び放火にその傾向が認められる。また,54年における少年比から,強盗及び強姦のおよそ3分の1は,少年によって行われていることがうかがわれる。 III-20表 少年凶悪犯の罪名別検挙人員及び少年比 III-21表は,昭和52年以降における少年凶悪犯の年齢層別検挙人員の推移を見たものである。少年凶悪犯は,いずれの年次においても,年長少年の比率が最も高いが,54年における年少及び中間少年の比率は,それぞれ52年以降における最高値であり,少年凶悪犯における低年齢化がうかがわれる。III-21表 少年凶悪犯年齢層別検挙人員 III-22表は,最近3年間において家庭裁判所が取り扱った一般保護少年の非行名と前処分の有無との関係を見たものである。前処分のある少年の比率の推移を見ると,強盗,強姦及び放火の比率が増加し,昭和53年における強盗の47.9%,強姦の47.1%は全非行名中最も高い比率であり,放火の40.6%とともに,これらの凶悪な非行が,前処分のある少年によって行われている傾向がうかがわれる。少年凶悪犯の増加傾向は,その及ぼす社会的影響の大きさから,また非行防止の観点からも,その対策が重要な課題である。 (4) 暴走族による非行の悪質化 集団でオートバイや乗用車を暴走させる暴走族は,昭和30年代初めの「カミナリ族」に端を発すると言われるが,その後のモータリゼーション及び高速道路等の整備につれて,次第に増加した。40年代後半からは,単なる暴走行為にとどまらず,グループの対立や,市民を巻き込んだり,取締警察官に対する暴力事件を反復し,悪質な非行集団としての性格を強めてきた。こうした状況に対して,53年12月から,道路交通法の一部改正によって,暴走族に対する法的規制が強化されることとなった。 III-22表 一般保護少年の非行名別・前処分の有無 III-23表は,最近3年間における暴走族少年に対する検挙補導状況を見たものである。昭和54年における刑法犯検挙少年数は5,667人で前年よりも1,800人の増加,特別法犯は1,179人で415人の増加,虞犯・不良行為少年は1万7,428人で4,538人の増加となっている。また,刑法犯のうち,殺人,強盗,強姦,放火の凶悪犯が220人(58年は183人),傷害,暴行,脅迫,恐喝,凶器準備集合の粗暴犯が1,778人(53年は1,055人)で,それぞれ前年よりも増加し,暴走族による非行の凶悪化,粗暴化を示している。これらを54年における少年凶悪犯検挙人員の1,718人及び粗暴犯検挙人員の1万7,352人と対比すると,暴走族は,凶悪犯中の12.8%,粗暴犯中の10.2%を占めている。III-23表 暴走族少年に対する検挙補導状況 なお,昭和54年11月末現在における暴走族は,警察庁の調査によると,472グループ(53年11月末では,307グループ。以下括弧内は58年の数値である。),2万5,183人(2万2,442人)であり,このうち少年として年齢を確認した者は1万6,529人(1万683人)であり,前年よりも5,846人増加している。これを学職別に見ると,有職少年が7,619人(5,352人),高校生が4,648人(2,885人),無職少年が2,082人(780人),中学生が150人(37人)であり,いずれも増加しているが,特に,無職少年及び中学生の増加が著しい。暴走族は,法的規制の強化にもかかわらず,その成員が増加し,その非行も増加,悪質化しており,かつ,中学生の増加に見られるように低年齢化の兆しも認められるので,今後の動向について十分な注意を要する。 (5) 中学生による学校内暴力の増加 近年,暴走族とともに,学校内暴力及び教師に対する暴力事件が,社会的に重大な関心を集めている。 III-24表は,最近3年間における学校内暴力事件の発生状況を見たものである。昭和54年の傾向として,発生件数はやや減少したものの,1件当たりの被害者数及び補導人員の増加が認められ,集団的に行われることが多くなっていることを示している。また,54年における補導人員総数は,前年よりもやや減少しているが,このうち中学生の5,141人は,総数の76.5%を占め,前年よりも853人増加している。 III-25表は,最近3年間における中学・高校生による教師に対する暴力事件の補導状況を見たものである。総数における件数,被害教師及び補導人員共に,昭和53年は52年よりも減少したが,54年には再び増加している。学校程度別に見ると,中学生の場合,すべての面において高校生の10倍以上の数値を示し,この種事件の大部分が中学生によって行われていることが見られる。 III-24表 学校内暴力事件の発生状況 III-25表 中学・高校生による教師に対する暴力事件の補導状況 |