前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和55年版 犯罪白書 第1編/第1章/第1節/3 

3 我が国の犯罪動向

 以上のように,昭和54年を中心とする我が国の犯罪動向を見ると,業過を除く刑法犯の発生件数は,49年以降連続5年間増加傾向を示していたが,54年にはやや減少するに至った。しかし,この減少の主な原因は,業過を除く刑法犯の86.0%を占める窃盗,特に,手口の比較的軽微な自転車盗の減少によるものであり,かえって,オートバイ盗,自動販売機荒しの激増に見られるように,窃盗犯の犯罪性は,その量的減少にもかかわらず,質的には必ずしも良好化の兆しを示しているとは見られない。また,放置自転車の乗り逃げを主とする占有離脱物横領は一貫して増加している。特に警戒を要するのは,金融機関強盗の激増及び保険金目的の殺人,放火という知能犯型凶悪犯の増加である。CD犯罪やCDシステムを利用する誘拐事犯など,金融機関のコンビュータ・システムに関連する新しい犯罪形態も現れてきている。また,54年においては,大光相互銀行不正経理事件,KDD事件のような大規模な企業犯罪が摘発されている。薬物犯罪も,後述のように,覚せい剤濫用を主体として,激増傾向が続いている。そして,犯罪全般について,少年層の関与する度合いが,ますます高まっている。
 このような犯罪動向は,昭和48年秋の石油危機以降の経済的・社会的情勢の変化と関連するものと見られるが,豊かな社会における欲望の増大,倫理感の低下,享楽指向など,欧米で激増する犯罪の原因として指摘されている諸要因と共通する要因が,我が国にも現れているように見える。
 I-7図は,欧米の先進主要4箇国の犯罪動向の推移を,1969年から1978年の10年間について見たものである。1969年の発生件数を100とする指数で見ると,1978年において,アメリカは150,イギリスは160,フランスは208,ドイツ連邦共和国は152,日本は107であり,欧米諸国において犯罪が10年間に約1.5倍ないし2倍に激増しているのに対し,我が国の犯罪増加率はかなり低い。なお,各国の犯罪水準を示す犯罪発生率(人口10万人当たりの発生件数)を見ると,1978年の犯罪総数(同図の注3参照)において,アメリカは5,109,イギリスは4,877,フランスは4,039,ドイツ連邦共和国は5,514,日本は1,159である(なお,殺人,強盗,傷害,窃盗及び強姦の各発生率については,後記第4章都市犯罪の国際比較のI-90表参照)。つまり,我が国の犯罪水準は,欧米先進諸国と比べると,犯罪発生率と犯罪増加率の双方において,最も低いことが明らかである。しかしながら,最近の犯罪現象を見ると,前記のように,金融機関強盗,保険金目的の殺人・放火,CD犯罪の多発など,欧米型の犯罪傾向を示しつつあるようにも見える。今後の動向については,警戒を要するであろう。

I-7図 犯罪発生件数の推移