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 昭和54年版 犯罪白書 第4編/第2章/第1節/1 

第2章 暴力団犯罪

第1節 概  説

1 概  況

 最近5年間における暴力団の勢力の推移を団体数及び構成員数によって見ると,IV-8表のとおりである。団体数,構成員数共に,昭和52年までは漸減傾向にあったが,53年末現在では,いずれも前年よりわずかながら増加し,団体数で2,525団体,構成員で10万8,700人となっている。いわゆる広域暴力団(2以上の都道府県にわたって組織を有する暴力団をいう。)の占める比率は,52年の場合を除いて一貫して増大し,53年末には,団体で79.3%,構成員で59.0%に達している。1団体当たりの平均構成員数は,広域暴力団に属さない団体で80人前後であるのに対し,広域暴力団に属する団体では約30人と規模はむしろ小さいが,それらが連合化・系列化により組織を強固にし,勢力を拡大しつつあることに特徴があり,このような勢力拡大をめぐって発生する組織間の対立抗争事犯が,社会不安をもたらし,治安上の重大問題となる場合がある。

IV-8表 暴力団の団体数及び構成員数(昭和49年〜53年)

 IV-9表は,この種対立抗争事犯の発生件数及び銃器使用状況を最近5年間について見たものである。発生件数の総数及び銃器使用件数共,昭和51年以降減少を続け,53年にはそれぞれ18件及び13件となっているが,銃器使用事犯の占める比率は,長期的には上昇傾向にあるように見える。53年における対立抗争の事例を見ると,暴力団同士が三重・岐阜の両県にまたがって数次の抗争を繰り返し,ダイナマイトまで爆発させたもの,広域暴力団の一首領に対する殺人未遂に端を発して,走行中の自動車内から相手方の組事務所等にけん銃弾を射ち込み,更には公衆浴場,スナックなどを襲ってけん銃を発射したもの(俗に大阪戦争と称された。)などがあり,暴力団がますます銃器等で武装を固め,一般人を巻き込んで多数の死傷者を出すことも意に介さず,大胆,悪質な犯罪集団へと向かっていることをうかがわせる。

IV-9表 暴力団対立抗争事犯の発生件数(昭和49年〜53年)

 対立抗争等に使用される銃器その他の凶器をできるだけ多数押収することは,暴力団取締りの重点の一つとなっているが,最近5年間における押収凶器を種類別に示すと,IV-10表のとおりである。押収凶器の総数は,昭和52年以降減少しており,53年についてこれを種類別に見ても,ほぼ横ばい状態にある日本刀を除いて,いずれも前年より減少している。けん銃のうち模造けん銃は,50年の1,008丁から毎年減少を続けて53年には625丁となり,真正けん銃は,52年の512丁まで毎年増加したあと53年の396丁へと減少した。

IV-10表 暴力団関係者からの押収凶器数(昭和49年〜53年)

 改造けん銃は,国内における規制の強化によって次第にその入手が困難となり,一方,海外渡航及び外国為替が大幅に自由化されたことから,暴力団は,主として,タイ,フィリピンその他東南アジアに渡って真正けん銃等を買い求めるようになってきており,昭和53年中にも,国際郵便を利用したり,家具類に隠匿して船荷としたりして,大量のけん銃,実包等を輸入しようとした事案が発覚している。この種事案によって,外国の空港などで現地警察に逮捕され,服役する者も跡を絶たない。
 暴力団が存続するためには,武器のほかに,構成員と資金の獲得が必要となる。資金源としては,バーなどの風俗営業,ラーメンなどの屋台営業,歌謡ショーなどの興行,更には金融業・土木建築業などの一応合法企業といい得るものがあるが,主要なものは,覚せい剤,売春,賭博など非合法活動によるものである。特に,覚せい剤はばく大な利益が得られるため,表向きは組員に対してこれに関与することを禁止しながら,実際には組織ぐるみでその売買に当たっている暴力団が少なくなく,昭和53年中にも,韓国,香港などから覚せい剤を密輸入して数億円の利益をあげていた幹部,組長らが検挙されている。暴力団の活動は,全般的に国際化してきており,取締体制もようやくこれに対応しつつある。
 暴力団内部では,下部からの上納金で放縦な生活をおくることのできる組長らは別として,下積み組員の生活は厳しく,このため,暴力団を去って行く者も多い。しかし,一方では,虚名や安逸などを求めて,毎年,新たな構成員が加わって来る。暴走族を初めとする非行少年グループは,暴力団から予備軍として目をつけられており,下部組織として非行少年グループを持つ暴力団も少なくない。資金源を絶つとともに,当然,これら人的供給源を絶つことにも,取締りの重点がおかれなければならない。