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 昭和54年版 犯罪白書 第3編/第2章/第3節/3 

3 処遇の概要

 少年院における処遇は,少年の心身の発達過程を考慮して,明るい環境の下に,規律ある生活に親しませ,健康的かつ正常な経験を豊富に体得させることにより,その社会不適応の原因を除去するとともに,長所を助長し,心身共に健全な少年の育成を期して行われる。また,その処遇に当たっては,慈愛を旨とし,併せて,医学・心理学・教育学・社会学等に基づく処遇技術の活用に努め,特に最近は,規律ある集団生活の中で,個々の少年の特性に応ずる処遇が行われている。
 こうした処遇の具体的展開は,分類処遇制度の下で,それぞれ特色化され,重点的に編成された各施設の処遇計画の中で行われているが,そのように特色化された施設において,各少年に必要な様々な教育が行われることはいうまでもない。このような教育活動の主要なものを概説すれば,次のとおりである。
  (1)生活指導
 生活指導は,矯正教育の最も中心的な領域を占めるもので,少年の反社会的なものの考え方や行動を是正し,健全な社会生活を営むことができるよう少年の個性を伸ばし,正常な社会性の発達を図ることをねらいとして,教科教育や職業補導などの教育活動とも相互に関連させながら,集団生活を通じて社会生活における対人関係の調整や自己の役割等をどう察させる指導を行うとともに,最近における少年非行の態様に応じた処遇を計画的・集中的に行っている。この中で特に重視されているのは,処遇が表面的なものに流されず,個々の少年の心に訴えるものでなければならないということで,このために,施設におけるあらゆる働きかけが,相互によく関連し,補足し合い,統合したものであるよう,また,施設における少年のあらゆる経験が,健康的な明るい環境の下で,建設的に体験されるよう,教育的なふん囲気に満ちた施設運営が心掛けられている。
 生活指導の主たる方法として,GGI(職員の指導の下に行われる集団相互作用による相互理解,自己どう察の深化等を企図する集団討議),役割活動,自治的集会活動,クラブ活動,グループ・カウンセリング,心理劇などの集団的な処遇技法,並びに,個別面接,作文・日記の指導,個別カウンセリングなどの個別的処遇技法が,相互に関連を持ちながら,活発に行われている。また,こうした生活指導の一環として,施設外の見学や地域社会への各種の奉仕活動,地域社会の行事への参加等,健全な社会経験を豊富に体験させるための配慮もなされている。昭和53年において,これら施設外での処遇に参加するため外出した人員は,延べ2万7,639人,外泊した人員は延べ2,690人,施設外行事への参加件数は延べ1,682件である。
  (2)教科教育
 在院者のうち義務教育未修了者に対しては,学校教育法に基づき,主として中学校の課程を履修させるため教科教育課程に編入して系統的に教科指導を実施しており,また,高等学校教育を必要とする者については,通信制課程の高等学校教育を受けさせている。教科教育課程編入以外の少年に対する教科教育は,本人の特性や必要性を考慮し,例えば,高等学校・大学等に進学を希望している者に対しては,それに応じた教育内容を中心にした指導を実施しており,心身に障害のある者に対しては,養護学校や特殊教育を行う学校に準じた教育内容を授けている。
 少年院長は,在院中に義務教育の課程や高等学校の課程等を修了した者に対して,一般の学校長の発行する修了証明書と同一の効力を有する証明書を発行することができるようになっており,昭和53年において中学校第3学年の課程の修了証明書(出身学校長に依頼して発行を受ける出身学校長の卒業証明書を含む。)を授与された出院者は347人である。また,学校教育以外の知識を必要とする者に対しては,簿記,孔版,ペン習字,実務英語,電気等の社会通信教育を受講させており,53年における受講者の数は,前年からの継続者も含めて,公費生619人,私費生167人である。
  (3)職業補導
 少年院に収容された少年には,収容前に無職であった者が約6割と多く,これらの少年を含めて,収容少年の多くは,出院後の職業生活に関する必要な知識や勤労の意欲に欠け,かつ,出院後直ちに職業生活に入る必要のある者であることから,こうした少年に対しては,勤労意欲の向上を図り,職業に関する知識や技能を付与することが教育の重点の一つとなっている。このため,年少の少年に対しては,職業に関する基礎的な知識や技能を付与し,実社会で応用できる能力を養うこととしており,より年長の少年に対しては,このほかに,独立・自活に必要な程度の知識や技術を授けるように努めている。
 現在,少年院で実施されている職業補導の主要な種目は,男子少年院では,溶接,機械,電工,写植等印刷,木工,自動車整備及び運転,建設機械運転,農業,農機具修理,理容等であり,女子少年院では,洋裁,和裁,編物,美容,事務,タイプ,家事サービス,謄写印刷等である。これらの職業補導をより充実したものに発展させるため,外部の事業所又は学識経験者等に委嘱して,少年院以外で実習を受けさせる院外委嘱職業補導の制度もあり,昭和53年中に313人(住込み30人,通勤283人)の者がこの院外補導を受けている。

III-63表 職業訓練履修証明書取得人員

III-64表 資格・免許取得人員

 職業補導を受けた者のうち,職業訓練法に基づく一般の専修職業訓練校と同内容の職業訓練を履修した者には,労働省職業訓練局長から職業訓練履修証明書が付与される。昭和53年におけるその証明書の取得状況及び各種の訓練・指導による資格・免許の取得状況は,III-63表及びIII-64表のとおりである。
  (4)医療と給養
 各少年院には医師が配置されて診療が行われているが,専門的又は長期の医療を必要とする者は医療少年院に収容される。昭和53年に全国少年院から出院した3,372人のうち,在院中に疾病によって医療を受けた者は1,080人である。その大半は短期間の休養であるが,医療少年院での長期にわたる医療を受けた者も含まれている。
 次に給養面については,在院者の日常生活に必要な衣類,日用品,学用品等は,少年院から貸与又は給与されているほか,規律や衛生に害のない限りは,自己の物品の使用も許されている。
 食糧の給与は,病気のため特別の食事を取らせる必要のある場合を除き,均等に給与されている。一般の在院者の給与については,主食偏重の是正を図るため,昭和52年度から副食の熱量摂取の割合等が年度ごとに改善されており,54年度の主食・副食の総給与熱量は1人1日3,100カロリーで,主食と副食の熱量割合は前年の70対30から68対32に,主食の米と麦の混合の割合は前年の70対30から75対25までに改善されている。この結果,食費は1人1日当たり,主食145.52円,副食238.58円となっているほか,誕生日菜や祝祭日菜としてそれぞれ50円,正月菜として600円が加算されており,一般の食習慣に近づける努力が続けられている。