前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和36年版 犯罪白書 第二編/第五章/二/5 

5 対象者の更生と転落―保護観察の成績

(一) 保護観察中の成績

 保護観察中の対象者の成績は,毎月の月末に各担当者が評定をして,その評定を保護観察成績報告書に記入して保護観察所に報告することになっている。各人の成績はその評定において「良」「稍良」「普通」「不良」の四階級に区別されるが,「良」は,就学・就業・交友・健康・環境等に関してほとんど問題が認められず,本人の気持ちや行動が安定しており,担当者に対する連絡状況もよく,遵守事項をよく守り,更生の意欲が積極的で,その更生状態が一般の健全な社会人と同等の水準に到達していると認められるもの,「稍良」は,更生の意欲がやや積極性にかけているが,気持ちや行動はほぼ安定しており,担当者に対する連絡状況・就学・就業・交友・健康・環境等についても格別の問題が認められず,その更生状態が一般の健全な社会人と同等の水準に近づいていると認められるもの,「普通」は,本人の気持ちや行動がやや不安定であり,更生の意欲が消極的で,担当者との連絡・就学・就業・交友・健康・環境等についてかなり問題が認められ,指導監督上相当の注意を要すると認められるもの,「不良」は,就学・就業・交友・健康・環境等に関して多くの問題が認められ,本人の気持ちや行動が不安定であり,担当者に対する連絡もわるく,遵守事項を守らず,更生の意欲がきわめて乏しく,指導監督上強力な措置を要すると認められるものである。
 昭和三五年七月末日現在の保護観察対象者全員について行なわれた法務省保護局の一斉調査によると,同日現在の対象者の成績はVI-48表のとおりで,「良」一七・九%,「稍良」一七・六%,普通三五・九%,不良七・四%,所在不明一一・四%という状況になっている。ほかに「成績不詳」九・八%があるが,この場合その不詳の者の大部分の成績は「普通」に属するものと推測される。対象者の種別をみると,「不良」の多いのは,まず少年院仮退院者(一三・二%)で,次に保護観察処分の少年(七・八%),執行猶予者(六・七%),仮出獄者(三・四%)の順であり,所在不明の多いのは,仮出獄者(一六・六%),執行猶予者(一六・五%),少年院仮退院者(一四・三%)で,保護観察処分少年の所在不明は七・五%である。「不良」と「所在不明」とを合算すると,成績のわるいのは,少年院仮退院者(二七・五%),執行猶予者(二三・二%),仮出獄者(二〇・〇%),保護観察処分少年(一五・三%)の順になっている。

VI-48表 保護観察対象者の事件種類別・成績区分別百分率(昭和35年7月末日現在)

 保護観察の経過期間と成績との関係は,VI-49表にその一班があらわれている。この表は,右の一斉調査の際に一号観察対象者につき無作為抽出調査をした一,九七〇人に関する調査結果の一部であるが(本表該当者総数は七六三人である)。これによると,成績「良」の者は,保護観察開始後三カ月以内では一四・六%にすぎないが,開始後一〇カ月ないし一年の者では三〇・五%まで増加し,反対に「不良」の者は,開始後三カ月以内の間は一一・三%で,一〇カ月を経過すると八・一%に減少している。これは保護観察の効果を示すものとみるべきであろう。

VI-49表 保護観察経過期間と成績との関係(昭和35年7月中)

 この成績の向上は,保護観察開始後一〇カ月ないし一年までは顕著であるが,その後になると,さほど顕著ではなくなっている。このことは,対象者の質の問題,保護観察期間の問題,保護観察の方法の問題等について,省察の必要があることを示すものと思われる。

(二) 保護観察の終了事由と終了成績

(1) 目的達成による保護観察の終了

 保護観察の期間は前述のように定まっているが,保護観察が適切に行なわれ,本人も更生につとめた結果,本人が更生して,一般の社会人とえらぶところがなく,再犯のおそれがないと認められる状況が相当期間持続されたら,もはや保護観察を続ける必要はないわけである。だからこの場合には,一号観察ならば保護観察の解除,二号観察ならば仮退院中の退院という処分で,保護観察を終了させる。三号観察については,本人が不定期刑の場合には不定期刑の終了の決定で,保護観察を終了させることができるが,不定期刑でない場合には,成績良好を理由として特に保護観察を終了させる途はない。ただ,三号観察と四号観察の者については,恩赦で実際上保護観察の期間を短縮させることが,制度のうえではできることになっている。

(2) 対象者の失敗による保護観察の終了

 成績が不良で,遵守事項を遵守せず,または再犯をした場合は,保護観察を続けることは適当でない。このような場合には,一号観察ならば保護観察処分の取消,二号観察ならば処分取消または少年院に戻し収容,三号観察ならば仮出獄取消,四号観察ならば執行猶予取消,五号観察ならば仮退院取消の処分が行なわれ,その処分によって保護観察は終了する。

(3) 期間満了による終了

 保護観察はその目的を達成した場合または失敗に帰した場合に上述の解除・取消・その他の特殊措置によって終了する場合のほかは,期間の満了まで続いて行なわれ,期間の満了によって終了する。

(4) 終了成績

 昭和三四年中に保護観察を終了した者の終了事由と保護観察期間はVI-50表のとおり,また,その終了成績はVI-51表およびVI-52表のとおりである。

VI-50表 事件種類別の保護観察終了事由別人員およびその観察期間別比率等(昭和34年)

VI-51表 保護観察対象人員の種類別・観察終了成績別百分率(昭和34年)

VI-52表 対象者種類別の保護観察人員と再犯等による保護観察取消人員および率(昭和34年)