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 昭和36年版 犯罪白書  

はしがき

 昭和三五年八月,「わが国における犯罪とその対策」と題して初めて犯罪白書を世に問うたところ,われわれの予期した以上の評価を受けたことは,望外の喜びであった。ここに,昭和三六年の犯罪白書として「刑罰権の行使をめぐる諸問題」を送ることとする。
 犯罪の一般的すう勢は,昨年度の白書で示したところと大差はなく,特記すべき現象は殆んどないといえる。そこで,本年度の白書においては,昨年度のそれとやや趣を異にし,「刑罰権の行使をめぐる諸問題」と題して,このテーマに関連して,特に重要と思われるものを選び,これに重点を置くことにした。すなわち,第一編総論においては,昨年度の白書で示した以後の犯罪の一般的傾向を明らかにするとともに,入手できたイギリス,西独,フランスの犯罪統計に基づいて,これらの諸国とわが国の犯罪傾向との対比をこころみた。第二編各論においては,起訴猶予処分を含めて刑の量定に関する実際の運用状況を主として統計の面から明らかにし,戦前と戦後の比較および戦後においてどのような変化をきたしているかをみたのである。次に,いわゆる荒れる法廷として世の注目を集めているものの多くが公安犯罪の審理に随伴して起こっているので,主として刑事手続の面から公安犯罪処理の実情をながめ,これと一般犯罪とを対比してその特異性を明らかにした。最後に,刑罰権の執行にあたる行刑と保護の問題をとりあげたが,刑事政策の面から今後益々重要視されなければならない更生保護,特に保護観察制度は,その歴史が比較的新しく一般になじみが薄いためか,その実情が国民に知られていないので,これに十分の紙数を割いて詳述した。
 このように,特集のテーマを選んで犯罪白書の内容とすることは新しい企てであるが,果たして妥当かどうかは確信はない。今後大方の批判を仰いで,将来の犯罪白書の内容については十分検討したいと思っている。
 本書を作るにあたっては,公安犯罪および少年犯罪の項は法務省刑事局,矯正の項は同省矯正局,更生保護の項は同省保護局の労をそれぞれわずらわした。もっとも,これらの資料を取捨選択しこれを統合したのは当研究所であるから,その内容に関する責任が当研究所にあることはいうまでもない。このほか,統計については,法務省司法法制調査部および最高裁判所事務総局総務局の援助を受けた。これらの御協力をいただいた各機関に対しては,厚く謝意を表したい。
昭和三六年四月
馬場 義続 法務総合研究所長