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 昭和53年版 犯罪白書 第4編/第1章/第2節/6 

6 学生・生徒の非行

(1) 学職別の犯罪動向
 最近における進学率の上昇は,少年人口中に占める学生・生徒の割合を増大させるとともに,少年犯罪の傾向にも大きな影響を及ぼしている。
 IV-25表は,昭和41年,45年及び50年以降最近3年間における交通関係の業過を除く少年刑法犯検挙人員の学職別状況を示したものである。昭和41年以降における学生・生徒の刑法犯検挙人員及び構成比は,逐年おおむね増大し続け,52年では構成比72.3%に達しているが,そのうち大多数を占めるのは,高校生及び中学生である。

IV-25表 学職別少年刑法犯検挙人員(昭和41年,45年,50年〜52年)

 また,昭和52年における学校程度別・罪種別状況を見ると,IV-26表に示すとおり,いずれの学校程度においても財産犯の占める比率が最も高く,粗暴犯がこれに次いでいるが,中学生における粗暴犯の比率が高校生を上回っている点が注目される。

IV-26表 学校程度別・罪種別少年刑法犯検挙人員(昭和52年)

 他方,交通関係の業過を除く刑法犯検挙人員中に占める有職少年の割合は,近年漸減傾向にあり,学生・生徒におけるその増大傾向とは対照的な動きとなっている。
 なお,昭和52年における無職少年の刑法犯検挙人員及び構成比は,前年に比べて若干増加しているが,総数に対する割合では約1割にすぎない。
 このように,最近の我が国における少年犯罪の大部分は学生・生徒によって犯されているという状況であるので,本節においては,更に詳しく学生・生徒の非行問題について検討を加えることとする。
(2) 学生・生徒の逸脱行動
 最近における一部の学生・生徒の反社会的な傾向を示すものとして,学生・生徒の学校内外における逸脱行動が挙げられる。
ア 生徒の学校内暴力
 IV-27表は,最近3年間における中学生・高校生による学校内暴力事件の発生状況を見たものである。発生件数は減少傾向にあるものの,暴力事件1件当たりの被害者数及び補導者数は逆に上昇し,この種の行為が悪質化しつつあることを示している。
 また,補導された生徒の内訳を見ると,昭和52年においても,中学生が補導入員総数の68.7%(前年は65.1%)と過半数を占め,高校生の減少傾向とは対照的な動きを示している。

IV-27表 校内暴力事件の発生状況(昭和50年〜52年)

 次に,最近5年間における中学・高校の生徒による教師に対する暴力事件の発生状況を示したのが,IV-28表である。発生件数は,最近急激に増加し,昭和52年では,5年前の約3倍に達している。これに伴い,被害教師数もまた増加傾向にあるが,1事件当たりの数値は小さく(52年では1.17人),この種の行為が概して特定の,単数の教師に対して行われていることを示しているとも言えよう。
 更に,補導状況を学校程度別に見ると,高校生については発生件数・補導人員共に減少傾向にあるのに対して,中学生についての増加は著しく,昭和52年では,事件数で89.8%,補導人員で84.4%を占めるに至っている。
 校内暴力事件の多発,特に教師に対する暴力事件の増加の学校内外に与える影響は,多大である。とりわけ,この種行為の大部分が社会的に未成熟な中学生によって行われていることは重大で,今後の動向に注意する必要があろう。

IV-28表 中学・高校生による教師に対する暴力事件の補導状況(昭和48年〜52年)

イ 女子生徒の性的非行
 中学・高校の女子生徒による性的非行の増加も,最近における重大な社会問題の一つである。
 IV-29表は,最近3年間における女子生徒の性的非行等による警察補導人員を見たものである。昭和52年では,前年に比べて総数は若干減少したものの,高校生における淫行(児童福祉法34条1項6号の被害少年)並びに高校生及び中学生におけるみだらな性交がやや増加し,全般には横ばい状況にあると言える。
 みだらな性交の増加や不純な性交の多発は,この種の行為が遊戯的な動機で自発的に行われる面が少なくないことを示すものと言えよう。

IV-29表 女子生徒の性的非行の態様別補導人員(昭和50年〜52年)

(3) 非行学生・生徒の諸特性
 学生・生徒の非行に対する社会的関心は,最近急速に高まりつつあり,その現象の究明は,現下の急務とされている。法務総合研究所においては,昭和53年1月以降,全国の少年鑑別所に収容された者のうちから現に学籍を有する学生・生徒1,500人(予定総数)を対象として,「学生・生徒の非行及び非行化過程に関する研究」を実施中であるが,これまでに得られた一部集計の結果から,問題点の二,三について述べることとする。
ア 非行及び非行性
 非行及び非行性についての特徴としては,IV-30表に示すとおり,[1]男子の窃盗及び粗暴犯,女子の虞犯及び窃盗の占める比率がそれぞれ高い,[2]慣習的な犯行は,男子より女子に多い,[3]男子・女子共に遊興的・享楽的な動機に出る犯行が多く,特に,女子にその傾向が強い,[4]学校内不良集団との関係を持つ者は,男子・女子共に3割を上回っており,女子の中には,学校外の不良集団とも関係を持っている者も少なくない,[5]14歳以前に非行に陥った者が,男子・女子共に大多数を占めている,[6]男女を通じて補導歴のある者が大多数を占め,男女間の差異は特に認められない,などの諸点を挙げることができる。
イ 嗜癖等の問題行動
 非行学生・生徒には,何らかの問題行動のある者が少なくない。嗜癖その他各問題行動別に,その特徴を見ると,IV-31表の示すとおり,[1]飲酒経験のある者及びそれの常習化している者は,男子より女子に多い,[2]男女を通じて,大多数が喫煙の経験者である,[3]シンナー等の使用経験のある者は,男子より女子に多いが,反対に,濫用者は男子に多い,[4]怠学の経験者及び常習者は女子に多い,[6]外泊,家出等の経験者及び常習者は,男子に比較して女子の比率が著しく高率である,[7]女子の大多数が性経験者であり,しかも,常習的に不純異性交遊を行っている者が多い,などの諸点を挙げることができる。
ウ 人格特性
 人格特性を示す指標の一つとして,知能指数を取り上げでみると,IV-32表の示すとおり,知能指数が普通域以上にある者は,男子・女子共にそれぞれ総数の約7割を占め,男女間にほとんど差異は認められない。他方,準普通域以下においても,男女間の知能段階の分布はほぼ共通しており,学習上問題の多い限界域以下の知能段階にある者の比率は著しく小さい。このように,大多数の非行学生・生徒が一応の知的活動能力を持っていることは,留意を要する。

IV-30表 男女別非行の諸特性

IV-31表 男女別問題行動

IV-32表 男女別人格特性

 次に,人格をは握するための他の指標として,性格について考察すると,法務省式人格目録による調査の結果(前掲IV-32表参照)では,男女はかなり類似した性格特徴を示している。男子・女子共に,構成比の最も高いのは,IV型(軽率,付和雷同的で他の者に追従しやすい傾向)であり,以下,I型(劣等感が強く,気分が暗いなど神経質な傾向),V型(外向的,社交的であるが,内面的には未成熟な傾向)及びII型(抑制力に欠け,衝動的に行動しやすい傾向)の順でこれに続いているが,III型(疑い深く,被害感,不信感等を抱きやすい傾向)の占める比率は小さい。非行学生・生徒の多くに,軽率,付和雷同しやすい,劣等感が強い,気分が暗いといった性格特徴が見られる反面,対人的な不信感や被害感を持つ者は少ないことを示している。
エ 社会関係
 一般に,社会関係の良否は,少年の行為の選択(適応又は逸脱行動)に密接に関連する。各態様別の社会関係を示したIV-33表から,まず,父母との人間関係について見ると,非行学生・生徒の認知構造は,男女間でかなりの差異が認められる。すなわち,両親との関係に何らかの問題があったとする学生・生徒は,男子で約75%,女子で約90%と大多数を占めているが,そのうち,特に父親との関係に円滑さを欠いていたとする者の占める比率が男子・女子共に高い。
 内容的に多数を占めるのは,男子については父親に対する拒否及び両価的感情(愛憎の感情が同時的に存在することをいう。),並びに母親に対する依存,両価的感情及び拒否であり,女子については父親に対する拒否,両価的感情及び攻撃並びに母親に対する両価的感情,拒否及び依存である。
 このような状況は,最近における父母の権威の衰退に伴う子女への影響力の希薄化を示すものとして注目されよう。
 次に,教師との関係を見ると,非行学生・生徒の大多数が普通ないし良好な関係を保持していると認めているが,女子生徒の中には教師との関係を否定的に受け止めている者も少なくない。全般的には,非行学生・生徒の教師に対する意識態度には,さほどの問題があるとは言えないように思われる。

IV-33表 男女別家族・友人・教師との関係

 更に,友人との関係においては,男子・女子のいずれにおいても孤立者は少なく,何らかの友人関係を持っている者が大多数である。他方,友人の選択に当たっては,学業成績より人気型の仲間を重視しているが,その友人の多くに反権威的,派手好き,ふしだら,粗野といった問題点があることを認めている。非行学生・生徒の友人関係には,かなり問題があると言えるであろう。