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 昭和53年版 犯罪白書 第3編/第4章/第1節/1 

第4章 各種の累犯者

第1節 危険な常習的犯罪者

1 概  説

 多くの犯罪の中には,既に第3編第1章第4節で述べたとおり,窃盗などのように同一犯罪者によって繰り返し行われる傾向の強いものもある一方,殺人や放火など一般に累犯性の比較的低いと見られる犯罪についても,少数ながら同一犯罪者によって繰り返ざれる場合がある。
 本節では,累犯者のうち,人の生命・身体に危害を与え,又は与えるおそれがあって社会的に危険な典型的犯罪と言える殺人,強盗・同致死傷,強盗強姦・同致死,放火,強姦・同致死傷,強制わいせつ・同致死傷,傷害・同致死の各罪(以下,これらの罪を「指定犯罪」という。)を二度以上繰し返して犯し,その都度自由刑に処せられている者について,その特性,犯罪の態様,犯罪反復の状況などを中心に,この種累犯者の危険な実態を見ることとする。
 III-56表は,昭和47年から51年までの5年間において,毎年刑務所に新たに入所した全受刑者,そのうちの再入者,これらの者のうち本件罪名あるいは前刑罪名が指定犯罪であるもの等の数を矯正統計年報により調査し,その年間平均人員や相互の比率などを算出し,これを,財産犯の典型である窃盗の場合と比較して示したものである。
 この5年間の年間平均人員で見ると,受刑者総数は2万6,800人で,そのうち指定犯罪による受刑者数は5,192人で,その比率は19.4%となっている。
 指定犯罪の受刑者は,受刑者全体から見れば,量的にはさほど多くを占めるものではない。しかし,この種の犯罪は,それ自体社会的危険性の高い重大犯罪である場合が多いのであって,量よりむしろ質の面を重視する必要があることは言うまでもない。以下,そうした観点から検討を進める。

III-56表指定犯罪受刑者の再犯関係等調(昭和47年〜51年の年間平均人員)

 まず,全体的に見て,受刑者総数は2万6,800人で,そのうち再入者は1万4,421人であり,再入者の比率は53.8%であるが,再入者の比率がこのように高率なのは,受刑者総数中の33%強を占める本件罪名窃盗の者の再入者の比率が70.2%もの高率であることなどに由来するものと考えられる。そして,前刑罪名が指定犯罪であった再入者の全受刑者中に占める比率は,10.0%である。したがって,毎年新たに入所した受刑者10人中の1人は,指定犯罪による入所歴がある者であることになる。
 次に,本件罪名が指定犯罪である受刑者に限って見ると,そのうち再入者の占める比率は42.8%,前刑罪名が指定犯罪であった再入者の占める比率は17.2%,前刑罪名が窃盗であった再入者の占める比率は11.9%となっており,また,本件罪名が指定犯罪である再入受刑者中前刑罪名も指定犯罪であった者の占める比率は40.2%となっている。
 以上を前提として,更に個別的に検討すると,次のような点を指摘できる。
 [1]指定犯罪による受刑者中の再入者の比率は,前述のとおり42.8%であり,この比率自体決して低率とは言えないであろうが,強制わいせつ・同致死傷及び傷害による受刑者中に占める再入者の比率を見ると,いずれも60%を超えており,この両犯罪は,再犯者によって犯される傾向が強い犯罪であると言えよう。
 [2]受刑者総数中前刑罪名が指定犯罪であった再入者の占める比率は10.0%であるのに対し,指定犯罪による受刑者中前刑罪名も指定犯罪であった再入者の占める比率はこれを上回る17.2%であり,また,再入者総数中前刑罪名が指定犯罪である者の占める比率は18.7%であるのに対し,指定免罪に係る再入者中前刑罪名も指定犯罪である者の占める比率はこれを上回る40.2%となっている。次に,前刑罪名が指定犯罪である再入者(2,693人)中再入刑罪名も指定犯罪である者(895人)の占める比率は33.2%で,再入者全体に占める前刑罪名が指定犯罪である者の比率18.7%をかなり上回っている。以上を要約すると,指定犯罪による入所歴のある者が再犯をする場合には再びこの種の犯罪を犯す傾向の強いことがうかがわれる。
 [3]指定犯罪と窃盗との関係について見てみると,指定犯罪による受刑者中前刑罪名が窃盗である再入者の占める比率は,11.9%となっており,また,本件罪名が指定犯罪である再入者中前刑罪名が窃盗である者の占める比率は27.7%であって,いずれの場合も,前刑罪名が指定犯罪である者の場合よりも低率である。ただ,前刑罪名が窃盗であって,本件罪名が強盗・同致死傷,強盗強姦・同致死,放火である場合について言えば,前記比率は,一層高率となっており,窃盗による入所歴のある者が再犯に至る場合には,この種の重大犯罪に走る場合が少なくないことがわかる。
 [4]再入者のうち前刑・再入刑共に指定犯罪である者は895人に上るが,このうち前刑・再入刑共に同一罪名によるもの(以下「単一型」という。)は,実数こそさほど多くはないが,毎年ほぼ前出III-56表掲記の年間平均人員に近い数で一定していることが注目される。前述の5年間の各年におけるこれらの単一型累犯者の数を見てみると,例えば,前刑・再入刑の罪名が共に殺人であった者は,昭和47年が18人,48年が17人,49年が16人,50年が17人,51年が12人であり,また,前刑・再入刑の罪名が共に強姦・同致死傷であった者の同様各年における数は,63人,53人,63人,65人,55人となっている。
 この種の単一型累犯者は,言わば危険な常習的犯罪者の典型とも言えよう。