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 昭和53年版 犯罪白書 第3編/第4章/第1節/2 

2 人格の特性及び犯罪態様の特徴等

 法務総合研究所では,これら危険な常習的犯罪者の人格特性とその犯罪態様の特徴などを明らかにするため,矯正施設における調査を行った。この調査は,昭和51年の再入受刑者のうち,前刑・再入刑共に指定犯罪を犯したことによる受刑者897人(矯正統計上これらの対象者の総数は959人であったが,そのうち上記897人について調査を行った。)を対象とし,刑務所の分類調査票・収容者身分帳簿等に基づいて行ったものである。なお,これらの比較対照群として,B級受刑者(犯罪傾向の進んでいる者)1,001人を全国の各矯正施設から無作為に抽出し,これについても同様の調査を行った。
 便宜上,前刑・再入刑共に凶悪犯(ここでは,殺人,強盗強姦・同致死,強盗・同致死傷に限る。)によるものを凶悪犯型,同じく放火によるものを放火犯型,同じく性犯罪(ここでは,強姦・同致死傷,強制わいせつ・同致死傷に限る。)によるものを性犯罪型,粗暴犯(ここでは,傷害・同致死に限る。)によるものを粗暴犯型とし,また,前刑と再入刑とが異種の犯罪によるものを異種型として類型化し,この類型に従って犯罪者の特性を見ることとする。
(1) 人格の特性
 III-57表は,これらの指定犯罪を繰り返している危険な常習的犯罪者(以下「対象者」という。)の幾つかの特徴を比較対照群のそれと対比して見たものである。
 類型別に対象者数を見ると,最も多いのは異種型で369人,次いで粗暴犯型の363人,性犯罪型の92人(うち,強姦・同致死傷の単一型49人,強制わいせつ・同致死傷の単一型23人),凶悪犯型の59人(うち,殺人の単一型11人,強盗・同致死傷の単一型25人),放火犯型の14人となっている。まず,入所時年齢を見ると,対象者は比較対照群に比べて30歳代の年齢層の占める割合が多い。類型別に見ると,粗暴犯型及び性犯罪型は,その他の類型の対象者に比べて30歳未満の年齢層が比較的多く,異種型及び放火犯型は,30歳以上40歳未満の年齢層が最も多い。また,放火犯型において40歳以上の年齢層の多いのが目立つ。知能指数については,全体として,対象者と比較対照群との間に大差はないが,類型別では,放火犯型に知能指数の著しく低い者が目立って多く,性犯罪型もまた知能指数が比較的低い。教育程度を見ても,全体的に対象者は比較対照群よりやや低く,殊に,放火犯型でかなり低くなっている。凶悪犯型・性犯罪型の教育程度については,大学程度の者も一部に見られる。性格上の特徴を見ると,対象者には比較対照群に比べて全体として非行文化同一視型(非行文化に親和し,それに従って行動するタイプの者をいい,暴力団構成員などがその典型である。)が多く,類型別では,未成熟型は放火犯型及び性犯罪型に比較的多く,また,神経症傾向型は放火犯型に,非行文化同一視型は粗暴犯型及び異種型にそれぞれ多いと言える。精神診断の結果を見ると,対象者は,比較対照群に比べて全体として精神障害のある者の割合が多く,特に,放火犯型に精神薄弱と精神病質が著しく多い。
 次に,暴力組織加入歴について見ると,対象者には比較対照群に比べて全体として現に暴力組織に所属している者が多く,類型別では,粗暴犯型及び異種型に暴力組織に所属している者が多い。なお,放火犯型では暴力組織と関係を有する者がなく,性犯罪型及び凶悪犯型では,暴力組織との関係が比較的薄い。

III-57表 危険な常習的犯罪者の人格特性

(2) 犯罪の態様
 III-58表は,対象者による再入刑に係る犯罪の態様を比較対照群のそれと対比して見たものである。まず,犯行の態様を見ると,全体としては,比較対照群に習慣的な犯行が多いのに対し,対象者には性犯罪型を除いては一般に激情的な犯行が多いと言える。更に,類型別に見ると,粗暴犯型,異種型及び凶悪犯型に激情的な犯行が多く,また,性犯罪型には習慣的・計画的な犯行が多いが,放火犯型には習慣的犯行と機会的犯行とが相半ばしている。犯行の手段を見ると,全体として,凶悪犯型に銃器,刀剣類・その他の刃物を手段として用いたものが多い。凶悪犯型について更に犯行手段を見ると,殺人の単一型では,銃器が8.3%,刀剣類・その他の刃物が75.0%となっており,また,強盗・同致死傷の単一型では,銃器が8.0%,刀剣類・その他の刃物が56.0%となっており,一般の場合に比べても危険な凶器の用いられることが多い。次に,被害者の傷害の有無・程度(放火の場合及び被害者死亡の場合を除く。)については,粗暴犯型及び異種型に傷害の程度1箇月以内のものが多く,凶悪犯型に他の者に比べて1箇月以上の重傷者が多い。被害者が当該犯罪により死亡しているもの(放火を除く。)は,凶悪犯型で25.4%,異種型で15.0%,粗暴犯型で4.5%,性犯罪型で3.3%である。加害者と被害者との関係を見ると,対象者には比較対照群に比べて両者に面識のある関係が多い。類型別では,粗暴犯型に顔見知り・友人・知人の関係が多く,放火犯型及び性犯罪型には相互に関係のない場合が多い。

III-58表 危険な常習的犯罪者の犯罪の態様

 ここで,対象者のうちの単一型のものについて犯罪の態様等を更に具体的に検討する。
 まず,殺人では,単一型の11人の大部分の事例は,犯罪者が飲酒のうえ被害者と争論の末短絡的に凶行に及んだいわゆる激情犯であるが,内妻殺しが2人あり,そのうちの1人は前刑・再入刑共に内妻殺しの事犯であることなどが注目される。なお,暴力団関係者の事犯は少なく,1人のみである。次に,放火では,前に述べたとおり,精神薄弱等が多いが,犯行の動機は,抑うつした気持を晴らすため,ねたみ,逆恨み,刑務所志願,世間を騒がせるためなどで,一般に意志欠如型の性格を持つ者が多い。再入刑を含め放火による入所歴を3回有する者が14人中の5人であり,しかも,これら5人の再犯期間は比較的短く,中には,前刑で出所後1箇月を経ないうちに再犯に至っている者すらある。次に,性犯罪について,まず,犯罪の態様を見ると,強姦・同致死傷では,路上でいきなり襲いかかる態様のものや,住居侵入強姦が多く,強制わいせつ・同致死傷では,幼児に対するわいせつ行為が大部分を占めている。また,強姦・同致死傷では,再入刑を含め同罪による入所歴を3回以上有する者が49人中の9人であり,強制わいせつ・同致死傷では,再入刑を含め同罪による入所歴を3回以上有する者が23人中の12人となっており,性犯罪者には同一犯罪を繰り返す常習性の強い者が少なくないことがわかる。強制わいせつ・同致死傷の単一型犯罪者には強姦罪による入所歴を別に有する者も多い。強盗・同致死傷については,職業犯的傾向が強く,犯行の手段も悪質・凶悪であって,再入刑を含め強盗・同致死傷による入所歴を3回以上有する者は25人中の7人であり,これらは再犯期間の短いいわゆる持続型の累犯者であることが多い。
 なお,対象者のうちの単一型につき,前刑と再入刑の犯行手口に類似性があるか否かについては,強制わいせつ・同致死傷では同一が95.7%,類似が4.3%,放火では同一が6413%,類似が28.6%,殺人では同一が53.8%,類似が38.5%,強姦・同致死傷では同一が53.2%,類似が46.8%,強盗・同致死傷では同一が32.0%,類似が64.0%,傷害・同致死では同一が30.1%,類似が61.5%となっている。いずれの類型についても犯行手口の類似性が極めて強いことがわかる。
(3) 犯罪反復の状況
 III-59表は,対象者の犯罪反復の状況を比較対照群のそれと対比して見たものである。刑法上の累犯に当たる者の占める割合は対象者も比較対照群もほぼ同じであるが,性犯罪型,粗暴犯型,放火犯型にやや累犯が多い。入所度数を見ると,比較対照群が多様であるのに対し,対象者は2度ないし3度の者が大半を占める。しかし,類型別に見ると,放火犯型に5度以上のひん回入所経歴のある者が多い。前刑出所事由について見ると,全体として対象者と比較対照群の間に顕著な違いはないが,類型別に見ると,粗暴犯型及び放火犯型に満期釈放が比較的多く,一方,凶悪犯型及び性犯罪型に仮釈放が比較的多い。再犯期間(前刑出所時から再入刑に係る犯罪を犯すまでの期間)については,全体としては出所後1年未満の再犯が,比較対照群で5割強に及ぶのに対し,対象者では3割強にすぎず,比較対照群と比べた場合には再犯期間が比較的長いと言える。これを類型別に見ると,出所後1年未満の再犯は,凶悪犯型で37.3%,放火犯型で42.9%,性犯罪型では44.6%,粗暴犯型では35.8%,異種型では27.0%である。また,出所後5年以上経過しで再犯している者は,凶悪犯型及び放火犯型に比較的多い。
(4) 単一型累犯者に対する量刑
 ここで,対象者のうち単一型のものに対する量刑の状況を前刑と再入刑の刑期別に見ると,III-60表のとおりである。それぞれの刑の基礎となった犯罪の態様等を考慮しなければ量刑の軽重を言うことはできないが,この調査結果で見る限り,放火,殺人,強盗・同致死傷,強姦・同致死傷では再入刑の刑期が前刑のそれに比べて長くなっている反面,傷害・同致死,強制わいせつ・同致死傷では,逆に刑期の短くなっている者が多いことがうかがわれる。

III-59表 危険な常習的犯罪者の犯罪反復の状況

III-60表 単一型累犯者の刑期別構成比