第3編 累犯と累犯者の処遇
第1章 累犯現象と刑事司法
第1節 概 説 周知のとおり,累犯や常習犯に関する対策の必要が,近代における犯罪学と刑事政策の誕生及びその発展を促したのであるが,累犯をめぐる関連分野の実証的研究や種々の累犯対策の試みにもかかわらず,累犯は現在なお刑事司法上の重大かつ困難な課題であって,累犯現象は,刑事司法や犯罪者処遇の機能を測定する一つのバロメーターであるとも言うことができよう。 そこで,本白書においては,累犯をめぐる諸問題を取り上げ,我が国における累犯の実態,特にその歴史的動向,累犯者の特性やその処遇上の諸問題を明らかにすることを試みている。 ところで,累犯は,狭義では刑法上の累犯をいい,懲役に処せられた者がその執行を終わり,又は執行の免除があった日から5年以内に更に罪を犯し,有期懲役に処すべき場合をいい,刑法はその量刑について,刑を加重することを規定している(刑法56条,57条)。 しかし,累犯は,犯罪学上その他一般には,より広い意味に用いられている。まず,実務上累犯ないし再犯というとき,それは,逮捕歴,前科歴,矯正施設入所歴等を有する者が更に罪を犯した場合を指すことが多い。一つの罪を犯し,逮捕その他の刑事上の処分や裁判の執行を受けたのに更に罪を犯した者という意味である。 更に広義には,累犯は,およそ犯罪を繰り返して犯す者を意味する。この意味で用いられるときは,いわゆる常習犯に近い意味を持つことになる。もっとも,常習犯というときは,犯罪累行に現れる犯人の犯罪への傾向(常習性)に着目し,「人格に負因を持つ犯人類型の一典型」と解され,言わば生物学的・心理学的側面が重視されている。累犯と常習犯は密接に関連するが,累犯必ずしも常習犯ではなく,また,常習犯必ずしも累犯とは限らないのである。 なお,現行刑法には,前述のとおり,累犯加重の一般規定はあるが,常習犯に関する一般規定はなく,刑法その他の特別法において,個々的に常習性を構成要件とする刑の加重類型が規定されているにとどまる。 以下,本章においては,やや広義に累犯をとらえ,刑事司法の各段階における累犯の実態を概説する。
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