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 昭和53年版 犯罪白書 第2編/第1章/第2節/3 

3 刑の執行猶予

(1) 執行猶予の現状
 第一審で有期の懲役又は禁錮に処せられた者の中で占める執行猶予に付された者の比率(以下「執行猶予率」という。)の時代的推移を見ると,II-20表のとおりである。執行猶予率の上昇傾向が依然として続いており,昭和51年では遂に60%を超えるに至っている。また,執行猶予人員中保護観察に付された者の数は,51年では前年に比べて628人増加して8,238人となっている。
 II-21表は,懲役,禁錮又は罰金で執行猶予の言渡しを受けた者の該当法条別人員及び保護観察言渡人員を見たものである。昭和52年では,いわゆる初度目の執行猶予(刑法25条1項)の言渡しを受けた者が執行猶予者の96.1%を占めており,このうちで,裁量的に保護観察に付された者は13.5%である。
 刑法犯の主要な罪名について,昭和51年に通常第一審で懲役又は禁錮の言渡しを受けた者のうち執行猶予に付されたものの人員とその比率を見ると,II-22表のとおりである。執行猶予率の高いのは,贈賄の96.8%,収賄の96.4%,公務執行妨害の82.0%などであり,その率の低いのは,強盗の28.9%,殺人の29.9%,放火の37.6%などである。執行猶予のうち,保護観察に付された者の割合は19.3%であるが,罪名別に見ると,強盗,強姦などが高率となっている。
 II-23表は,昭和52年中に懲役,禁錮又は罰金で執行猶予の言渡しを受けた者について,その猶予期間を見たものである。
 猶予期間3年以上4年未満の者が最も多く,60.4%を占めている。

II-20表 第一審懲役・禁錮言渡人員中の執行猶予人員と比率(昭和25年,30年,35年,40年,45年,47年〜51年)

II-21表 執行猶予確定人員中の該当法条別人員及び保護観察言渡人員(昭和51年,52年)

II-22表 主要罪名別刑法犯通常第一審執行猶予率

II-23表 執行猶予確定人員の猶予期間別人員(昭和52年)

 次に,昭和52年中に懲役又は禁錮で執行猶予の言渡しを受けた者を刑期別に見ると,II-24表のとおりである。懲役・禁錮で執行猶予の言渡しを受けた人員の79.9%までが刑期1年以下のものである。

II-24表 懲役・禁錮の執行猶予確定人員の刑期別人員

(2) 執行猶予の取消し
 昭和50年以降最近3年間について,刑法犯及び道交違反を除く特別法犯で懲役,禁錮又は罰金の執行猶予の言渡しを受けた人員,執行猶予の取消しを受けた人員,取消率及び取消事由を見たのが,II-25表である。ここでいう「取消率」とは,ある年次において,執行猶予の取消しを受けた人員を,その年次における執行猶予の言渡しを受けた人員で除した値であって,本来の意味での取消率ではないが,大体の傾向を見るためには便宜であろう。52年における執行猶予の取消率は,刑法犯で11.4%,特別法犯で10.8%,両者の合計で11.2%となっている。取消事由については,再犯による自由刑の実刑確定を理由とする必要的取消し(刑法26条1号)が最も多く,52年では,執行猶予取消総数の95.6%を占めている。

II-25表 刑法犯・特別法犯の執行

II-26表 執行猶予を取り消された者猶予の確定・取消・取消事由別人員の再犯までの期間別人員の百分比

 また,執行猶予期間中に再び犯罪を犯したため執行猶予を取り消された者について,執行猶予の言渡しの日から再犯の日までの期間を単純執行猶予と保護観察付執行猶予の別に見ると,II-26表のとおりである。単純執行猶予の場合,昭和52年では,再犯により執行猶予を取り消された者3,008人のうち,30.4%が6月以内に,27.3%が6月を超え1年以内に,それぞれ再犯を犯している。この比率は,保護観察付執行猶予の場合もほぼ同じである。