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 昭和53年版 犯罪白書 第1編/第2章/第1節/1 

第2章 各種犯罪の動向

第1節 暴力団犯罪

1 概  況

 従来からの厳しい取締りにもかかわらず,暴力団は,依然として根強い勢力を持ち続けている。その背景を見ると,最近の暴力団が,現代の社会風潮や社会の各面に生ずるひずみを巧みに利用して,その行動範囲を拡大し,各種の合法・非合法の営利活動を営むことによって,その組織を維持していることが理解できる。このような暴力団の存在自体が,最近一部に見られる暴力依存の風潮を助長することにもつながり,その反社会的行為は,我が国の社会秩序一般に少なからず悪影響を及ぼし,また,犯罪情勢全体を悪化させる要因ともなっている。
 暴力団の組織の現況を見ると,昭和52年末現在で警察庁がは握している暴力団は2,502団体,その構成員は10万8,266人であり,前年末に比べて団体数で53団体,構成員数で1,689人の減少となっている。しかし,いわゆる広域暴力団(2以上の都道府県にわたって組織を有する暴力団をいう。)は,52年末では団体数で全体の77.5%,構成員数で同58.1%と高率を示しており,依然として大きな勢力を占めていることが注目される。
 暴力団の広域化,系列化等の勢力拡大をめぐる組織間の対立抗争事件は,昭和52年では,前年より38件減少して28件となっているが,対立抗争で犯行に銃器が使用された事件の占める比率は,46年以降の上昇傾向がそのまま持続しており,52年はその最高の75.0%となっている。犯行の態様を見ると,暗殺団を編成し周到な計画に基づき対立組織の幹部を白昼繁華街で射殺するという大胆かつ組織的なものや,カービン銃,手りゅう弾又は機関銃などを武器として用いたもの,対立抗争事件につき警戒中の警察官をそ撃し傷害を負わせたものなどがあり,対立抗争の深刻さとともに暴力団の武装化が更に進んでいることをうかがわせるものがある。
 最近5年間の暴力団関係者からの凶器の押収状況は,I-30表のとおりである。昭和52年の押収凶器の総数及びけん銃の押収数は前年に比べてわずかに減少しているものの,けん銃の押収数は1,306丁の多きを数えている。

I-30表 暴力団関係者からの押収凶器数(昭和48年〜52年)

 次に,最近5年間の暴力団関係者から押収したけん銃の種類別の押収状況及び暴力団関係者以外の者からの押収数を含む密輸入けん銃の押収状況を示すと,I-31表のとおりである。改造けん銃の押収数が昭和51年以降減少しているのに対し,真正けん銃の押収数が逆に増加しており,一方,密輸入けん銃の押収数もほぼ増加の傾向を示していることが注目される。
 最近における暴力団等によるけん銃等の不法所持及び使用の実情に対応し,昭和52年第80回通常国会において,銃砲刀剣,類所持等取締法の一部が改正され,同年7月1日から施行されている。この改正は,けん銃等の供給源を封ずるため,販売を目的とした模擬銃器の所持の禁止,けん銃等の輸入禁止違反及び所持禁止違反等に対する罰則の整備・強化などを内容とするものであるが,暴力団関係者からの改造けん銃等の押収数の減少は,この法改正の効果が一部現れつつあるものと考えられる。他面,真正けん銃の密輸入が増加の兆しを見せている点は看過し得ないところである。押収された密輸入けん銃のほとんどは,タイ,アメリカ,フィリピンなどから密輸入されたものであり,近年,暴力団関係者やこれと意思を通じた者が,主として東南アジア諸国でけん銃を買い入れ,水牛の角,象の彫刻等の民芸品の中に隠匿して持ち込むなど,巧妙な手段を用いて大量の密輸入を行う悪質な事犯が目立ってきている。

I‐31表 けん銃の種類別押収状況(昭和48年〜52年)

 また,覚せい剤の取引も依然として暴力団の主要な資金獲得の手段となっており,その取引の増大に伴い,覚せい剤濫用の風潮が一般市民にまで拡大する傾向が現れている。最近では,国内での密造のほかに,香港,韓国等の国外からの大量の密輸入や,外国人らが大量に密輸入した覚せい剤を大規模かつ組織的に密売するものなどが見られる。最近における大量取引の事例として,香港に本拠を置く中国人を首領とする大規模な密売組織の構成員とそれに直結する国内密売ルートの暴力団関係者の合計16人が,昭和51年6月から52年2月までに合計26.5kgに及ぶ大量の覚せい剤の密輸入,密売を行ったことにより検挙された事例(東京地検)が挙げられる。
 このような暴力団によるけん銃等の銃器や覚せい剤の取引の実態から見ても,最近の暴力団は,資金を求めて国内ばかりでなく国外にもその行動範囲を広げつつあると言えよう。
 そのほか,暴力団と売春との関係も深く,女子中学・高校生や家出娘を対象とする売春の強要が目立っており,また,賭博関係では,伝統的な形態の賭博や,競馬,競輪等のいわゆるのみ行為に加えて,新たに,スロットマシン,ルーレット等のギャンブル機具を設置した営業所の経営などにも関与し,更に,金融業,各種の風俗営業の経営や,総会屋としての活動など一般の市民生活や企業活動にも深いかかわりを持つに至っている。