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 昭和52年版 犯罪白書 第3編/第2章/第4節/2 

2 保護観察

 交通犯罪で保護観察に付された者を過去5年間について見ると,III-88表のとおりで,その総数は毎年1万数千ないし2万人近くである。保護観察の種別で見ると,家庭裁判所の決定による保護観察処分少年が最も多く,刑務所からの仮出獄者がこれに次ぎ,以下,刑事裁判による保護観察付執行猶予者,少年院からの仮退院者の順となっている。なお,仮出獄者は漸減傾向にあり,保護観察付執行猶予者は増加傾向にある。
 保護観察の実施に当たっては,なるべく交通事件専門の保護観察官を主任官に指名し,かつ,交通法規に通ずるなど交通事件を担当するにふさわしい保護司を担当者に指名するように考慮が払われている。主任官と担当者は連携を保ちながら,多様な方法で対象者に交通法規を守るよう指導し,必要に応じて,交通法規,運転技術,車両の構造上の知識等を授けている。また,時には,この種の事案にあっては,家族や雇主が本人の違反を黙認していることもあるので,これらの関係者に対する働きかけも行われている。なお,本人に運転適性のないことがわかった場合には,本人を納得させたうえで運転業務に就かせないような助言・指導がなされている。このように,対象者の個々の事情に応じた個別処遇が行われているが,このほか,対象者を集めて,交通法規や車両構造,運転技術に関する講習を行うとか,対象者相互の話し合いを通じて運転態度の改善を図る座談会を開くなど,いわゆる集団処遇が各保護観察所で行われている。この集団処遇は,実施する側にとっては比較的少ない労力で多数を扱えるという利点があるばかりか,受ける側にとっても車両運転には関心が強いので,参加意欲も高く,効果的な処遇方法と言えよう。しかし,集団処遇は,家庭・職場環境の改善とか,個人的な問題に立ち入った指導や援助などには及ばないので,個別処遇と集団処遇とが併用されている。

III-88表 交通事件保護観察対象者受理人員(昭和47年〜51年)

 交通事件により保護観察に付された者の成績は,概して良好である。昭和51年に保護観察を終了した交通事件の対象者と,それ以外の対象者について,終了時の総合成績を比較すると,III-89表のとおりである。保護観察処分少年の場合,保護観察の成績その他から判断して,社会の順良な一員として更生したと認められるときには,保護観察期間中であっても保護観察所長が保護観察を解除できる。表中,解除の欄を設け,この措置を受けた者の人員の比率を示したが,交通事件以外の一般事件の対象者の解除の比率が32.2%にすぎないのに対して,交通事件の対象者の場合は72.4%と極めて高い。
 次に,解除までの保護観察期間別の人員分布(資料の都合で,道路交通法違反の者についてだけ)を見ると,III-90表のとおりである。6月以内とか,1年以内という比較的短期間の処遇で保護観察を解除される者の比率が増加している。

III-89表 交通事件対象者と一般事件対象者の終了時総合成績別人員(比率)分布(昭和51年)

 このように,交通事件の保護観察は,大体において成功しているが,特に非行傾向が固まっておらず,家庭や職場環境,交友関係にもそれほど問題のない者の場合は,個別処遇に力を入れなくても,集団処遇だけで更生の期待されることが,今までの処遇の積み重ねによって明らかにされた。この実績を踏まえて,法務省と最高裁判所の協議がなされ,昭和52年4月からいわゆる交通短期保護観察の実施を見るに至った。これは,家庭裁判所が保護観察処分を決定する際に短期間の保護観察が相当である旨の処遇勧告を付した交通事件については,保護観察所は集団処遇を中心とする処遇を集中的に実施して,遵法精神のかん養,安全運転に関する知識の向上,安全運転態度の形成を図ろうとするもので,原則として3,4箇月で解除することを目途している。昭和52年7月末までの交通短期保護観察の実施状況は,III-91表のとおりである。なお,交通事件に対して短期間の矯正処遇を行う少年院から仮退院した者の保護観察は,従来どおり個別処遇に集団処遇を併用する方法が採られているが,仮退院後,原則として数箇月以内に地方更生保護委員会の退院決定によって保護観察を終了させることが意図されている。

III-90表 解除までの期間別人員(比率)分布(昭和47年〜51年)

III-91表 交通短期保護観察実施状況(昭和52年4月〜7月)