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2 少年の保護観察 仮出獄者や保護観察付執行猶予者に少年が皆無ではないが,II-64表に示したとおり,極めて少数であるので,ここでは,保護観察処分少年と少年院仮退院者とについて述べる。
(1) 概 況 最近5年間に全国の保護観察所で受理した保護観察処分少年と少年院仮退院者との人員は,II-63表に示したとおりで,両者共一時は減少傾向にあったが,前者は昭和50年から,後者は51年になって,それぞれ増加した。51年の受理事件について,性別,年齢層別,非行の種類別人員を前年と比較すると,III-63表のとおりである。 保護観察処分少年では,女子,18歳以上及び道路交通法違反を除く特別法犯が特に増加し,少年院仮退院者では,男子,15歳以下及び道路交通法違反を除く特別法犯の増加が著しい。 法務省保護局では,問題の多いと思われる暴力組織加入者,暴走族成員,シンナー等の濫用者及び精神障害者について,昭和51年8月末と翌年4月末との2回にわたって調査を実施したが,その調査結果は,III-64表のとおりである。暴力組織加入者と精神障害者とは,保護観察処分少年においては低率であり,少年院仮退院者においては比率の減少が見られる。注目を引くのは,暴走族成員とシンナー等の濫用者とであって,暴走族成員の人員・比率は,保護観察処分少年,少年院仮退院者のいずれにおいても,さほど多いわけではないが,前後2回の調査を対比してみると,明らかに増加している。シンナー等の濫用者は,第1回の調査では,保護観察処分少年で3,097人(8.2%),少年院仮退院者で212人(9.3%)であったものが,第2回の調査では,前者で3,887人(10.4%),後者で301人(11.6%)と,それぞれ増加している。 III-63表 受理事件の性別,年齢層別及び非行の種類別人員(昭和50年,51年) III-64表 非行の態様別保護観察対象者 このように,暴走族成員やシンナー等の濫用者はさして多くはないが,今日の保護観察上の重要な問題であり,これらの者を多く抱える保護観察所では,特別の処遇要領によって処遇を実施している。特に,東京・名古屋・福井ほか数庁では,シンナー等の濫用者について,慎重な配慮の下に特別の処遇計画を立て,・シンナーの恐ろしさを教える映画を見せるとか,座談会などの方法によって集団処遇を実施している。また,東京保護観察所では,暴走族成員に対して集団処遇を実施し,その更生を図るとともに,この方法を通して新しい処遇技法の開発に努めている。(2) 住居と職業 III-65表は,昭和51年に保護観察を終了した保護観察処分少年と少年院仮退院者との居住状況を示したものである。親など同一世帯の親族と暮らしている者の比率が最も高くなっているが,少年院仮退院者のこの比率は,保護観察処分少年のそれよりも低くなっている。一般に,少年の保護観察においては,対象者の家庭環境の調整に重点が置かれているが,なお調整が困難で,しかも他に適当な住居がない者に対しては,保護観察所長が救護の手段として,更生保護会又は適当な個人に対象者の宿泊を委託する場合がある。この更生保護会等に起居する者の比率は,少年院仮退院者の方が保護観察処分少年より高くなっている。 III-65表 保護観察終了時における居住状況(昭和51年) III-66表 保護観察終了時における職業の有無(構成比)(昭和51年) III-66表は,前表と同じく昭和51年に保護観察を終了した保護観察処分少年と少年院仮退院者とについて,男女別に職業の有無等の比率を示し,かつ,保護観察終了時の年齢とほぼ見合う20歳以上25歳未満の一般の労働力状態(就業者,完全失業者,非労働力人口)の比率を併記したものである。III-67表 保護観察終了時の有職者の職業(構成比)(昭和51年) まず,男子について見ると,保護観察処分少年と少年院仮退院者とのいずれにおいても,定収入があるとか,学生・生徒,家事従事などで就業を要しない者の比率が一般の非労働力人口の比率よりも低く,その反面,有職者の比率が一般の就業者の比率よりも高くなっている。保護観察対象者の「失職者等」は,「完全失業者」ほど狭い概念ではなく,調査時現在にたまたま失職していた者や働く意思のない者,働くことのできない者などが含まれているが,この比率が,一般の場合の完全失業者の比率に比べてもかなり高いことが注目される。保護観察処分少年と少年院仮退院者とを比較すると,後者は失職者等の比率が高く,有職者の比率が低い。少年院仮退院者の方が保護観察処分少年よりも概して社会的に不安定な立場にあると言えよう。次に,女子について見ると,家事従事などで就業する必要のない者の比率が一般の非労働力人口の比率よりも低いが,男子の場合ほどの大きな差は見られない。保護観察処分少年と少年院仮退院者との有職者の比率を見ると,一般の就業者の比率よりも低く,他方,失職者等の比率は,一般の場合の完全失業者の比率よりもかなり高くなっている。女子の対象者,とりわけ女子の少年院仮退院者は,男子の対象者よりも概して不安定な立場にあると認められる。 III-67表は,前表中の有職者について,その職種別の比率を見たものである。保護観察処分少年,少年院仮退院者の双方において,男女共に一般に比して事務的職業に従事する者の比率が低く,男子においては,単純労働,女子においてはサービス業に従事する者の比率が極めて高い。 以上に見たように,一般に比して保護観察対象者,特に少年院仮退院者は,住居,職業のいずれの面においても概して不利な状態に置かれていることがわかる。 (3) 解除,退院,保護処分取消及び戻し収容 保護観察終了者の終了事由の推移を見ると,最近の動向として,成績良好による保護観察の早期終了措置である解除と退院の比率の急速な伸びが見られ,また,保護処分取消しの比率(少年院仮退院者の場合は,保護処分取消しと戻し収容との合計の比率)に増加の兆しが認められる。 過去15年間の各年に保護観察を終了した保護観察処分少年のうち解除者の占める比率と,同じく少年院仮退院者のうち退院者の占める比率の推移は,III-7図のとおりである。解除は,昭和50年には50.8%,51年には56.3%に達している。少年院仮退院者は,保護観察処分少年に比べて,資質・環境面で問題が多いため,退院の比率は解除ほど大きくはないが,47年には2.1%にすぎなかったものが,50年には4.2%,51年には5.3%と増加している。このような増加は,可能な限り早期に保護観察を終了させようとする保護観察所の積極的な姿勢によるものと思われる。 過去15年間の各年に保護観察を終了した保護観察処分少年のうち保護処分を取り消された者の占める比率,同じく少年院仮退院者のうち保護処分を取り消された者及び少年院に戻し収容された者の比率の推移を見ると,III-8図のとおりである。両者共に昭和49年までは逐年減少していたが,保護観察処分少年の場合は,49年の5.8%から51年の7.7%までに,少年院仮退院者の場合は,49年の13.0%から51年の15.6%までに,それぞれ増加している。このような増加の原因及び今後の推移については,にわかに判じ難いものがある。しかし,各年の保護観察終了者のうち失職者等の占める比率は,49年ころから急増しており,しかも,この15年間の保護処分取消しないし保護処分取消しと戻し収容の比率の動きは,上の失職者等の比率の動きと非常に類似した動きを示しており,両者に強い関連が認められるので,今後の成行きが注目される。 III-7図 解除・退院の比率の推移(昭和37年〜51年) III-8図 保護処分取消率及び保護処分取消・戻し収容率の推移(昭和37年〜51年) |