少年院における処遇は，在院者の心身の発達程度を考慮して，明るい環境の下で，規律ある生活に親しませ，勤勉の精神を養わせるなど，正常な経験を豊富に体得させ，その社会不適応の原因を除去するとともに，長所を助長し，心身共に健全な少年の育成を図ることを目的とする。また，その処遇に当たっては，慈愛を旨とし，併せて医学，心理学，教育学等に基づく知識の活用に努め，施設内処遇から社会内処遇への円滑な移行を図り，順調な社会復帰の行われることが期待されている。そのために行われている処遇の概要は，次のとおりである。
(1)　生活指導
　少年院における生活指導は，矯正教育の根幹であり，少年の反社会的な考え方や行動様式を改めさせ，健全な社会性を発達させることを目指しており，入院当初は，過去の非行を深く反省させつつ，日常生活の基本的行動様式の習慣づけを主として行い，在院期間の経過に応じて，集団場面の中で社会生活に必要な好ましい対人関係についての学習や各自の問題点を克服するための指導を計画的に行い，出院準備期になると，出院後の生活に必要な個々の心構えについて指導している。これらの処遇の具体的な活動としては，次のようなものがある。

III-51表　少年院種類別の出院者人員及び平均在院日数(昭和49年〜51年)

ア　集団的活動
　この種のものとしては，学寮生活集団における各様の係組織による活動，各種の委員会活動，自治的集会活動，討議集会活動などが挙げられ，その集団場面における様々な人間関係や相互作用を教育的に編成した指導が行われている。
イ　教養・情操活動
　不遇な境遇ないし問題の多い環境に育った少年たちにとって極めて大切な教養・情操に関する活動としては，諸種の教養集会，年間計画による各種行事，少年院教官や篤志面接委員等による面接，クラブ活動，レクリエーション活動などがある。最近は，更に，施設処遇の社会化の方向に沿った活動として，社会福祉施設の慰問，公共の場所等の清掃，　BBS会員との合同キャンピング，地域の学校の生徒等との交流，地域社会の諸行事への参加なども積極的に行われており，昭和51年の外出人員は延べ2万775人，外泊人員は延べ1,881人であり，施設外における行事への参加件数は延べ1,079件であった。
ウ　各種の治療的活動
　収容少年の中には，内面に強い感情的な葛藤や対人不信等の情緒的に深い問題を持っている者が少なくないので，専門的技術を修得した職員による個別及び集団のカウンセリング，心理劇等の心理療法が行われており，最近は，その一環として，箱庭療法，読書療法，行動療法，感受性訓練等の技術も導入されつつある。
　なお，生活指導として行われているものではないが，希望者に対しては民間宗教家による宗教的指導の機会が与えられている。
(2)　教科指導
　義務教育未修了の少年に対しては，初等少年院を中心に，教育関係法令に準拠した中学課程の教科指導を実施している。少年院の長は，課程を修了した者に対して，学校教育法により設置された各学校の長が授与する卒業証書と同等の効力を有する修了証書を発行できることとなっている。昭和51年において，中学校第3学年の課程の修了証明書(出身学校長に依頼して発行を受ける出身学校の卒業証明書を含む。)を授与された出院者は，222人である。また，中等及び特別少年院では，義務教育課程のほか，必要があると認められた者について，通信制高等学校教育課程に編入させるなどして，高等学校程度の教科指導を行っている。心身に故障がある者に対しては，養護学校その他の特殊教育を行う学校に準じた教育が行われている。
　学校教育以外の知識等を必要としている者に対しては，簿記，孔版，ペン習字，司厨士等の社会通信教育を受講させており，昭和51年度の受講者は，前年からの継続者も含め，公費生776人，私費生176人である。
(3)　職業補導
　職業補導は，在院者に勤労を重んずる態度と規則正しい労働の習慣を養わせ，職業生活に必要な知識・技能を授け，将来の自立を図ることを目的としているが，同時に，職業補導における人間関係の上での体験を得させることも重要な意味を持っている。少年院送致者の多くが無職者，無技能者であったこと，出院後直ちに職業に就く必要のある者が多いことからも，職業補導の重要性が指摘される。
　現在，男子少年院では，木工，建築大工，ブロック建築，タイル，機械，板金，溶接，活版印刷，電工，電子機器，理容，農機具修理，自動車運転及び整備，建設機械運転，船舶，農業等を，女子少年院では，洋裁，和裁，編物，美容，事務，タイプ，家事サービス，謄写印刷等を実施している。種目によっては，通信教育と並行して行われているものもある。なお，職業補導を受けた者には，賞与金が与えられる。
　この職業補導を更に充実し，また，社会性を付与するため，事業所又は学識経験者に委嘱して少年院以外の施設で補導を受ける制度も開かれており，昭和51年は302人(住込み46人，通勤256人)に対して実施された。
　職業補導を受けた者のうち，職業訓練法に基づく一般の専修職業訓練校と同内容の職業訓練を履修したものには，労働省職業訓練局長から職業訓練履修証明書が付与される。昭和51年におけるその証明書の取得状況は，III-52表のとおりである。また，各種の訓練や指導による資格・免許の取得状況は，III-53表のとおりである。

III-52表　職業訓練履修証明書取得状況(昭和51年)

III-53表　資格・免許取得状況(昭和51年度)

(4)　医療衛生と給養
　現在，独立の医療少年院は4庁である。専門的な医療を必要とする少年は，初めから医療少年院に指定して送致されるが，他の少年院に送致された少年についても，行政上の分類変更により医療少年院に移送することが行われている。
　一般少年院にも，医務課が置かれ，病室が設備され，医師が配置されて診療が行われている。昭和51年に出院した2,641人のうち，在院中に傷病によって医療を受けた者は，1,049人である。その大半は極めて短期間の休養であるが，医療少年院での比較的長期間にわたる医療を受けた者も含まれている。
　在院者の日常生活に必要な衣類，日用品，学用品等は，少年院から貸与又は給与される。規律や衛生に害のない限りは，自己の物品の使用も許されている。
　食糧の給与は，1人1日3,000カロリーであって，昭和52年度の1人1日当たりの主食費は132.49円で，前年に比し14.17円の増，副食費は182.45円で前年に比し30.72円の増となっている。なお，誕生日菜や祝祭日菜としてそれぞれ25円が，正月菜として600円がこのほかに加算されており，国民一般の食習慣に近づけるよう努力が続けられている。