前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和52年版 犯罪白書 第3編/第1章/第2節/2 

2 少年非行の特質

(1) 犯行の動機
ア シンナー等の濫用
 最近の少年非行は,次第にその動機が享楽的になりつつあり,しかも,この傾向は,犯罪の種類や罪質のいかんを問わず,かなり顕著に現れている。
 その一つが,シンナー等の濫用である。
 前記の法務省特別調査によると,シンナー等濫用中の少年及び濫用歴を有する少年は,昭和51年の調査対象8,906人中587人(6.6%)となっている。
 その特性としては,[1]濫用少年の年齢層は,中間少年(41.2%)が最も多く,年少少年(31.7%)及び年長少年(27.1%)がこれに次いでいる,[2]濫用少年が犯した犯罪は,窃盗の52.8%が最も多く,以下,恐喝の10.6%,傷害の9.0%,暴行の6.6%及び強姦の2.6%等の順となっている,[3]犯行の態様は,計画的な犯行(45.3%)より,偶発的な犯行(53.5%)の占める比率が高い,[4]共犯者のある者(67.5%)が多い,[5]補導歴のある者が大部分(74.8%)を占めている等の諸点を挙げることができる。
 すなわち,シンナー等の濫用は,本来的には,享楽的な動機でなされる行為(意識混濁を伴う酩酊状態を楽しむ行為)であるが,上記のように,窃盗や粗暴犯等の他の犯罪に関連したり,補導歴のある者が多いなど,非行性の進行につながることが少なくない。一時的な遊びとか,享楽とかいった動機からにもせよ,これを一過性のものとして軽視することはできないであろう。
イ 女子生徒の性的非行
 III-22表は,昭和51年に警察が補導した女子生徒の性的非行を前年と対比したものである。
 対比のできる限りにおいて,いずれの態様についても,昭和51年では前年に比べて増加が見られるが,とりわけ,高校生における売春及び淫行(児童福祉法34条1項6号)の増加率が高い。また,51年について特に注目されるのは,不純な性交によって補導された者の多いことである。
 この表に掲げた性的非行は,遊戯的な動機から,ないしは,程度の差はあれ自発的に行われているものと考えられるが,最近におけるこのような女子生徒の性的非行の動向は,享楽的・遊興的な社会風潮を反映するものと思われ,社会的環境の改善を伴わなければその克服は困難と言えよう。

III-22表 女子生徒の性的非行の態様別人員(昭和50年,51年)

(2) 犯行の態様
ア 犯行の集団性
 少年犯罪の特色の一つとして,犯行の集団性が挙げられる。
 III-23表は,昭和51年の交通関係業過を除く少年刑法犯検挙件数のうち,共犯のあるものが36.1%を占め,成人の3倍を上回る高率となっていることを示している。これを主要罪名別に見ると,恐喝の50.1%が最も高く,以下,傷害,強盗,暴行の順となり,少年の凶悪犯及び粗暴犯は,共犯事件として犯されることが多いことを示している。
 なお,警察庁の資料によると,昭和51年の交通関係業過を除く少年刑法犯検挙人員11万5,628人のうち,非行集団に関連のある者は2万5,422人(22.0%)となっている。その関連の状況を見ると,まず集団形態別では,地域集団7,624人(30.0%),学校集団1万2,883人(50.7%),盛り場集団873人(3.4%),その他の集団3,794人(14.9%)で学校集団が半数を占めている。
 次に,非行形態別では,窃盗集団1万3,286人(52.3%),粗暴犯集団7,006人(27.6%),性的非行集団4,685人(18.4%)となっており,窃盗集団が半数余を占めている。
イ 暴走族
 少年の犯行は,一般に時代的風潮を敏感に反映した形態をとることが多いと言えるが,その一つが,暴走族の問題である。
 暴走族を規範的見地から常識的に定義すれば,「構成員の各自が自動車等を運転して集団的かつ意図的に交通違反を犯し,又は犯すおそれのある集団又は組織」と言えるであろう。しかし,最近における暴走族は,集団による道路交通関係法規の違反にとどまらず,暴走族間の対立抗争事件や一般市民に対して危害を及ぼすような事件も目立ち,単なる遊びを動機とする非行と軽く見過ごすことはできなくなっている。
 III-24表は,昭和51年の暴走族による道路交通法違反,刑法犯等の罪名別検挙件数を,前年と比較したものである。

III-23表 主要罪名別共犯事件の検挙件数(昭和51年)

III-24表 暴走族の罪名別検挙件数(昭和年50,51年)

 前年に比べて増加した罪名としては,信号無視,整備不良車両運転等の道路交通法違反並びに毒物及び劇物取締法,暴力行為等処罰に関する法律等の各違反があり,刑法犯は若干減少している。道路交通法違反の増加は,自動車で道路上を暴走するといった暴走族の本来的な性格が,また,毒物及び劇物取締法違反の増加は,その享楽的・刺激的傾向が,いずれも強まっていることを示すものであろう。

III-25表 少年犯罪の罪名別自動車との関連率(昭和47年〜51年)

 なお,警察庁の資料によると,暴走族として警察がは握しているのは,昭和51年11月末において348グループ,1万3,598人(うち,少年は8,597人で総数の63.2%)であり,集団規模50人未満のグループが総数の71.3%を占めている。
ウ 自動車と犯罪

III-26表 一般保護少年の非行別・前処分の有無(昭和50年)

III-27表 一般保護事件終局決定別前処分の有無・前回終局決定の比率(昭和50年)

 III-25表は,最近5年間における少年犯罪について,自動車との関連を見たものである。昭和51年において,自動車に関連のある犯罪は19.5%で,この数値は,数年来ほとんど変わっていない。51年において自動車関連率(自動車を犯罪の対象又は手段とする等,何らかの意味で自動車と直接の関連がある犯行が総数中に占める比率)の高い罪名は,強盗,強姦,窃盗,横領等である。強姦では自動車を犯行の手段に利用するもの,強盗,窃盗,横領では自動車を犯行の対象とするものが多い。
(3) 少年の処分歴
 昭和50年に家庭裁判所で扱われた一般保護少年について,前処分の有無と罪名との関連を見ると,III-26表のとおりである。処分歴のある者の占める割合が高い罪名は,強姦,強盗,詐欺,恐喝,暴行,傷害等であり,低い罪名は,横領,窃盗等である。凶悪犯や粗暴犯が,処分歴のある少年によって犯されることが少なくない点に注目する必要がある。
 次に,昭和50年における一般保護事件の終局決定別にそれぞれの処分決定と前回の終局決定との関連を見たのが,III-27表である。「前処分あり」の割合が大きいのは,保護処分のうちの少年院送致及び検察官送致の少年であるが,処分歴のある少年の今回の処分の内容は前処分と密接に関連しており,一般に,少年事件は,軽い処分から重い処分へと段階的に処分決定がなされる傾向があると言えよう。
(4) 少年犯罪と被害者
 昭和51年の法務省特別調査によって犯罪少年と被害者との関係を見たのが,III-28表である。数年来の傾向と同様に,無関係が多いのは,強盗,強制わいせつ,横領,脅迫であり,顔見知りが多いのは,強姦,暴力行為等処罰に関する法律違反,傷害であり,また,友人・知人が多いのは,傷害,恐喝等となっている。

III-28表 罪名別犯罪少年と被害者との関係(昭和51年)