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 昭和52年版 犯罪白書 第3編/第1章/第2節/1 

第2節 少年非行の背景と特質

1 少年非行の背景

(1) 家  庭
 III-14表は,全国の家庭裁判所が取り扱った道交違反少年を除く一般保護少年について,その保護者の状況を示したものである。
 離婚,死亡等によって保護者が片親だけとなっている少年の割合は近年減少傾向を示し,昭和50年では,30年代の約三分の一となっている。他方,保護者として実父母がそろっている少年の比率は増大し,50年では,30年代の約1.5倍に達している。
 また,一般家庭における保護者の欠損状況を示す指標として,厚生省の資料から全国の母子世帯数の推移を見ると,昭和31年における我が国の全世帯数1,771万のうち母子世帯は115万(構成比6.5%)であったが,36年には2,066万世帯中103万(5.0%)と減少し,更に48年では2,776万世帯中63万(2.3%)と31年における構成比の約三分の一となっている。こうした母子世帯の推移から見て,我が国の一般家庭においては,近年,片親だけが保護者である者の割合は低下し,保護者として両親のそろっている者の割合が増大しており,一般保護少年の家庭も,その例外ではないと言える。

III-14表 一般保護少年の保護者の状況(昭和30年,35年,40年,45年,50年)

 少年非行の要因として,いわゆる欠損家庭の問題が指摘されてから既に久しい。しかし,最近における以上のような動向は,非行要因としての欠損家庭の比重を著しく低下させ,他に要因を求める必要性を示唆するものと言えよう。
 次に,III-15表は,一般保護少年の保護者について,その経済的生活程度を示したものである。
 保護者の経済的生活程度が「貧困」又は「要扶助」と認められる者の割合は,昭和30年には約70%であったが,次第にその割合は低下し,50年では14.3%となっている。その他の大部分は「普通」であるが,「富裕」の占める割合も漸次増加している。
 我が国における一般家庭の経済的生活程度を示す指標として,生活保護受給世帯数の推移を示したのが,III-16表である。昭和50年代初頭において,受給世帯はそれ以前に比べて若干増加しているものの,30年以降保護率はほぼ一貫して減少を続けており,一般家庭の経済的生活程度はかなり向上していると言える。一般保護少年の家庭の経済的生活程度についても,この一般的傾向と軌を一にするものがある。

III-15表 一般保護少年の保護者の経済的生活程度(昭和30年,35年,40年,45年,50年)

III-16表 生活保護世帯数の推移(昭和30年,35年,40年,45年,50年,51年)

 このような動きから見て,従来,少年犯罪の要因として指摘されてきた貧困家庭の問題は,次第にその意味を失いつつあり,これまた,他の領域における要因を究明する必要が認められる。
 もとより,資料等の制約から明確な指摘はなお困難ではあるが,この貧困家庭の問題,更に,前述の欠損家庭の問題を考え併せると,最近における少年犯罪は普通の家庭の少年によって犯される傾向を強め,少年非行の普遍化現象を示すものとも言えよう。
 III-17表は,昭和51年に検察庁が取り扱った犯罪少年について,保護者の指導状況を見たものである。51年において,保護者の指導に何らかの問題のあった少年は総数の87.5%に達するが,そのうち大多数を占めるのは放任であり,溺愛・過保護及び厳格・過干渉がこれに次いでいる。

III-17表 家庭の指導状況(昭和49年〜51年)

 すなわち,最近においては,両親の健在や経済生活の安定など形式的要件は具備しているものの,子女に対する基本的な保護的・教育的機能に問題のある家庭が少なくなく,これが少年非行に密接に関連するに至っていると推論することができよう。
(2) 学校・職場
ア 学生・生徒の犯罪
 III‐18表は,最近における交通関係業過を除く少年刑法犯検挙人員について,学職別状況を,また,III-19表は,昭和51年における学校程度別・罪種別状況をそれぞれ示したものである。

III-18表 学職別少年刑法犯検挙人員(昭和41年,49年〜51年)

III-19表 学校程度別・罪種別少年刑法犯検挙人員(昭和51年)

 学生・生徒の刑法犯検挙人員及び構成比は,最近急速に増大し,昭和51年では,実数8万3,455人,構成比72.2%となっている。その大部分を占めるのは,中学生及び高校生であるが,特に高校生の増加が著しく,最近における進学率の上昇傾向と関連があるものと思われる。中学生及び高校生における罪種を見ると,その大部分は財産犯である。
 なお,司法統計年報により,昭和50年における一般保護少年の教育程度を見ると,総数16万2,453人のうち小学校以下は94人(構成比0.1%)にすぎないが,中学校については,在学中2万7,759人(17.1%),中退256人(0.2%),卒業3万173人(18.6%),高校については,在学中5万211人(30.9%),中退1万3,899人(8.6%),卒業1万9,024人(11.7%),また,大学については,在学中5,034人(3.1%),中退125人(0.1%),卒業19人(0.0%)となっている。10年前に比較して,高校在学者及び中学校卒業者の増加が顕著である。
 一般に,教育の普及は非行の抑止に寄与すると考えられるが,最近の我が国における学生・生徒による非行が少年非行の大部分を占めるに至っているという事態には,注意を引くものがある。
イ 有職少年の犯罪
 近年,交通関係業過を除く刑法犯検挙人員中に占める有職少年の割合は漸減し,前掲III-18表に見るとおり,昭和51年では,2万237人(17.5%)と,10年前の41年の実数の三分の一に近い数値を示している。
 昭和51年において犯罪に陥った有職少年の職業別分布を,法務省特別調査(III-17表の注1参照)によって見ると,これに該当する者1,982人中農林・漁業62人(3.1%),人夫・土工156人(7.9%),工員599人(30.2%),職人205人(10.3%),運転手・助手63人(3.2%),サービス業171人(8.6%),店員391人(19.7%),事務員97人(4.9%),その他238人(12.0%)となっており,例年と同様,工員,店員,職人等の職種が多い。
 なお,昭和51年における無職少年の交通関係業過を除く刑法犯検挙人員は,実数1万1,936人,構成比10.3%と,前年に比べていずれも若干減少している。
(3) 少年犯罪と地域との関係
 III-20表は,少年犯罪の犯行地と罪名との関連を示したものである。いずれの地域共に,窃盗が過半数を占め,傷害・暴行がこれに次いでいる。地域差の目立つ罪名としては,脅迫・恐喝(大都市に多い。),強姦・強制わいせつ(郡部に多い。)等が挙げられる。
 また,少年犯罪は,一般に居住地の近くで犯される場合が多いと言えるが,昭和51年について見ても,その71.6%までが居住地と同一の市町村内で発生している。犯行地・居住地の同一性と罪名との関連を見たIII-21表によると,同一地域内で犯される率の高いのは,大都市における強姦,窃盗,恐喝,傷害,中小都市における強盗,傷害,暴行,郡部における暴行,傷害,窃盗等である。

III-20表 少年犯罪の罪名別・地域別検挙人員(昭和51年)

III-21表 少年犯罪の犯行地・居住地の同一性と罪名との関連(昭和51年)