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 昭和52年版 犯罪白書 第3編/第1章/第1節/5 

5 欧米諸国における少年犯罪の動向

 我が国の少年犯罪の概況は,これまで述べたとおりであるが,次に,アメリカ(アメリカ合衆国),イギリス(イングランドとウェールズ),フランス及び西ドイツ(ドイツ連邦共和国)等の欧米主要諸国における少年犯罪の動向を概観し,我が国のそれと比較することとする。もとより,これらの諸国は,法体制や統計の方法にそれぞれ差異があるので,統計上の数値から,直ちに,正確な犯罪現象を比較することはできないが,おおまかな犯罪傾向とすう勢をうかがうことは可能であろう。
(1) 量的推移
 III-3図は,上記各国における1960年以降の少年犯罪者等の人員の推移を,1960年を100とする指数で示したものである。各国における1960年以降の少年犯罪の動向は,おおむね,次のように概括することができよう。
 アメリカにおける18歳未満の逮捕者は,1960年以降急激に増加し,1975年には,1960年の約3.6倍に達する高い数値を示している。その増加率は,前記諸国中最も大きく,同国における少年犯罪の多発とその重大性を示している。

III-3図 アメリカ,イギリス,フランス,西ドイツ及び日本における少年犯罪者等人員の推移(1960年〜1975年)

III-13表 アメリカ,イギリス,フランス,西ドイツ及び日本における少年犯罪の罪種(名)別逮捕・検挙等人員の構成比(1960年,1965年,1970年,1975年)

 イギリスにおける21歳未満の有罪者は,その指数の推移において,フランスの動きとほぼ共通している。特に,1970年代における増加傾向は顕著で,1975年には,基準年の約2.4倍という高い増加率を示している。
 フランスにおいて訴訟手続を執られた21歳未満の者は,1960年以降ほぼ一貫して増勢を続け,1973年には基準年の2倍を上回る指数となっている。その増加率は,アメリカに次いで大きく,少年犯罪の増加傾向が引き続き認められる。
 一方,西ドイツにおける21歳未満の検挙人員について,交通事犯を除いた犯罪の1963年以降における推移を見ると,1960年代においては増加傾向にあり,1970年代においては横ばい状況にあると言えよう。1975年においては,前年より若干増加してはいるが,他の諸国に比べるとその増加率は小さいと言えよう。
 日本における少年の検挙,送致及び補導人員指数は,全般に低く,特に,1970年代においては前記諸国中最低の数値となっている。1960年以降における高度の経済成長とそれに伴う急激な社会変動を経ているにもかかわらず,我が国におけるこのような少年犯罪のほぼ横ばいの傾向は,注目に値する。
 以上から,1960年以降における各国の少年犯罪については,その量的推移において,アメリカの激増傾向,フランス,イギリス及び西ドイツにおける漸増傾向,そして日本におけるほぼ横ばい状態をそれぞれの特徴として挙げることができる。
(2) 罪種・罪名別推移
 III-13表は,前掲5箇国における1960年以降の少年犯罪の罪種(名)別の推移及び構成比を見たものである。
 まず,アメリカにおける少年犯罪の罪種(名)別の動向を見ると,15年間の推移において構成比の増加した罪名は,強盗,暴行及び傷害であり,減少した罪種は性犯罪である。また,1975年における罪種(名)別構成比を見ると,総数の約35%が主要刑法犯(財産犯,凶悪犯,粗暴犯及び性犯罪)であり,残余が「その他の犯罪」となっている。犯罪の類型や統計の基礎に若干の問題があるにせよ,「その他の犯罪」の総数中に占める比率は大きく,同国における少年犯罪の一つの特徴を示すものとなっている。更に,罪名別に見ると,主要刑法犯の大多数を占める窃盗は,例年,約25%で,横ばい状況で推移しているが,各国に比べて刑法犯中に占める比重は著しく小さい。凶悪犯及び粗暴犯は漸増傾向にあり,1975年ではそれぞれ総数の2.7%及び5.1%を占め,次第にその比重を増しつつある。
 「その他の犯罪」は,不法侵入や麻薬犯罪等をその主要な内容としているが,前者の高比率の横ばいに対して,後者は近年著しく増加し,1975年には,1960年の約30倍に当たる5.9%の比率を示している。最近におけるアメリカの少年犯罪は,量的な増加はもちろん,凶悪犯,粗暴犯及び麻薬犯罪の増加など質的な変化(凶悪化)も認められ,各国の少年犯罪とは若干様相を異にしているように思われる。
 次に,イギリスにおける少年犯罪の罪種(名)別の傾向を見ると,構成比の上昇した犯罪は詐欺,強盗,粗暴犯及び「その他の犯罪」であり,低下傾向にある犯罪は窃盗及び性犯罪である。
 1975年における罪種(名)別構成比では,総数の48.4%を占める財産犯の比率が最も高く,粗暴犯の7.7%がこれに次いでいる。「その他の犯罪」は,1960年に比較してかなりの増加を示し,1975年には総数の約4割を占めるに至っているが,その主要な内容は不法侵入である。
 次に,フランスにおける少年犯罪の罪種(名)別状況を,1965年と1971年とで比較して見ると,窃盗を中心とする財産犯及び凶悪犯の占める比率は増加し,性犯罪及び主要刑法犯以外の「その他の犯罪」は減少を示している。
 また,1971年の罪名別構成比を見ると,窃盗は,総数の67.5%で首位を占め,詐欺と横領を合わせた3.4%及び性犯罪の2,9%がこれに次いでいるが,窃盗を除くその他の罪名の主要刑法犯中に占める比率は極めて低率である。
 同国における少年犯罪の特徴として,財産犯の増加傾向及び同罪の刑法犯中に占める比重の大きさを挙げることができるが,この特徴は我が国の場合と共通している。
 更に,西ドイツにおける少年犯罪の罪種(名)別の傾向を見ると,構成比の上昇している罪名は窃盗,詐欺及び強盗であり,反対に低下を示している罪名は「その他の犯罪」である。しかし,激減傾向にある「その他の犯罪」の中にあって,麻薬犯罪の占める比率は漸増し,1975年には,検挙人員総数の3.7%を占めるに至っている。また,1975年における主要刑法犯の構成比においては,窃盗の65.4%が最も多く,以下,詐欺,傷害,強盗の順となっているが,西ドイツにおいても,我が国と同様,財産犯の占める比率は高く,刑法犯の大多数が窃盗であると言えよう。