前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和52年版 犯罪白書 第1編/第2章/第3節/2 

2 最近の事犯の特徴

 この調査は,東京・前橋・大阪・岡山・熊本・仙台・旭川・松山各地方検察庁(支部を除く。)において,昭和52年1月及び2月に覚せい剤事犯で処理した被疑者について行ったものであり,その人員は453人である。
(1) 概  観
 調査対象となった453人の国籍日本424人,韓国・朝鮮20人,中国7人,その他2人),性別(男子382人,女子71人),年齢(20歳未満15人,20〜24歳53人,25〜29歳112人,30〜39歳179人,40〜49歳83人,50〜59歳6人,不明5人),職業(会社員11人,工員11人,交通関係従事者18人,土木関係従事者43人,風俗関係従事者39人,露店商22人,自家営業主43人,主婦7人,その他の職業45人,無職214人),事犯の態様(密輸入6人,譲渡75人,譲受61人,所持183人,使用242人,その他8人,計575人―重複計算)などは,いずれもおおむね全国的傾向と軌を一にしている。暴力団加入状況については,加入状況不明17人を除いた436人中,加入者は半数の218人で,全国的比率がおおむね6割と言われているのに比べて低くなっているが,本調査が時期的・地理的に限られているため,偶然に低率となったか,ないしは暴力団関係者の事犯が巧妙化・潜行化してきたことを示すものと考えられる。
 覚せい剤事犯者の社会的背景に関し,その婚姻関係,同居者,居住状況を見たのが,I-74表であり,総じて,普通の市民生活をしているように見える者が多いと言えるが,生活状況の不安定な者も少なくない。
 覚せい剤の使用状況について見ると,使用経験の全くない者は39人(8.6%)にすぎず,過去に使用したが現在は中止している者が52人(11.5%)で,これらを除いた現在使用中の者は362人(79.9%)に上る。この362人について,使用ひん度を見ると,時たま使用する者が141人(39.0%)で最も多いが,毎日使用が37人,1日に何回も使用が34人であって,相当ひん繁に使用している者の比率は約2割に達する。使用期間にこついては,33人の不明者を除き,1箇月以内が40人,3箇月以内が28人,6箇月以内が51人,1年以内が68人,2年未満が42人,2年以上が95人であり,使用期間が1年を超える者の比率は約4割に上る。そして,使用の結果,異常体験を持つに至った者は49人,そのうち11人は入院の経験者である。

I-74表 覚せい剤事犯者の生活状況

 対象者453人中,使用経験のない39人を除いた414人について使用開始の動機を,また,現在使用中の362人について使用を中止し難い理由を見たのが,I-75表であり,安易な動機で使用を開始する者の多いこと,亨楽的な理由で使用を継続している者や自らの意思では中止できないまでに依存度の高まっている者の多いことなどが認められる。ちなみに,対象者453人中,覚せい剤以外の薬物の使用経験のある者は,麻薬について8人,大麻について3人,睡眠剤について6人,鎮痛剤はついて6人,有機溶剤類について17人,その他の薬物について2人,計42人である。
 最後に,この対象者453人に対する検察庁における処理状況を見ると,公判請求起訴が413人と大部分を占め,不起訴のうち起訴猶予は14人,その他の不起訴は11人であり,また,家庭裁判所送致は15人(うち,刑事処分相当意見1人,少年院送致相当意見5人,その他の保護処分相当意見8人,その他1人)であった。

I-75表 覚せい剤使用開始動機及び使用継続理由

(2) 暴力団関係者と非加入者との比較
 覚せい剤事犯と暴力団との関連が深いことは,かねて指摘されているところであるが,以下,暴力団関係者とその他の者(以下「非加入者」という。)との二群に分け,暴力団関係者については,更に組織上の地位別に区分して,両群を比較することにより,それぞれの特徴を見ることとする。

I-76表 覚せい剤事犯者の性別,年齢層別及び職業別人員

 まず,両群の性別,年齢層及び職業を見たのが,I-76表である。年齢については,両群とも青壮年が多いが,非加入者の方に24歳以下の青少年が多く見られることに注意を引かれる。職業については,両群を通じ,土木・風俗関係従事者,自家営業主及び無職者が多いが,暴力団関係者では露店商,非加入者では交通関係従事者も比較的多い。なお,非加入者に主婦が含まれていることは注目される。
 さて,との両群について,事犯の態様を示したのが,I-77表である。暴力団関係者の方に譲渡,非加入者の方に譲受が多くなっており,暴力団の資金獲得に一般市民が巻き込まれていることが推察される。一方,暴力団員自身もまた相当多数の者が使用していること,特に下位の者に使用者の多いことが見られる。なお,この調査では,密輸入事犯に暴力団関係者が見られないが,密輸入事犯には従来から暴力団が関連している場合が多いとされており,本調査の時期的・地域的制約から偶然そのような結果となったものか,ないしは暴力団による密輸入が一段と巧妙化していることを示すものと考えられる。他方,非加入者による密輸入が最近目立っていることにも注意を要する。

I-77表 覚せい剤事犯者の事犯態様

I-78表 覚せい剤事犯者の前科・前歴

 次に,前科・前歴について両群を比較したのが,I-78表である。各種の前科・前歴について,処分歴のある者の比率はすべて暴力団関係者が高くなっており,特に,起訴猶予,罰金,懲役・禁錮の執行猶予,同実刑など,非加入者の2倍から3倍程度の高率となっており,暴力団関係者で前科・前歴を持たない者は1割弱にすぎない。また,前科・前歴の中で,覚せい剤関係の事犯による処分歴を有する者も相当認められる。なお,暴力団幹部68人中,処分歴のない者は皆無で,うち42人が覚せい剤関係事犯による処分歴を有する。
 覚せい剤使用開始の動機,継続の理由,使用のひん度・期間などについては,両群とも概観の項で述べた傾向とおおむね同様であるが,使用開始の動機については,非加入者が暴力団関係者の甘言に誘惑されて使用するに至る場合の少なくないこと,使用継続の理由に関しては,暴力団関係者の方によりたんでき的な使用傾向,非加入者の方により亨楽的な使用傾向がうかがわれる。