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 昭和52年版 犯罪白書 第1編/第2章/第1節/1 

第2章 最近における注目すべき犯罪の実態

第1節 贈収賄罪

1 概  況

 公務員犯罪の中でも収賄事犯は,公務執行の公正に対する国民一般の不信を招き,遵法意識を低下させるなど,その及ぼす影響は深刻かつ広範である。国際連合においても,最近における企業の経済活動をめぐる犯罪の一環としての汚職に注目し,その防止対策の検討を進めるなどしており,今や,公務員の汚職は国際的にも問題視されている犯罪であると言える。前出のI‐39表によると,我が国では,昭和47年以降における収賄の検察庁新規受理人員には大きな変動はなく,500人台から800人台の間を上下しており,51年のそれは前年より39人減少して732人となっている。しかし,贈収賄の罪は,その性質上暗数が大きいと考えられるうえ,最近検挙されたいわゆるロッキード事件その他の事犯の内容から見ても,その動向には注目を要するものがある。
 I-51表は,警察庁の統計により,昭和36年から40年までの5年間(以下本節において「前期」という。)とその10年後の46年から50年までの5年間(以下本節において「後期」という。)に,それぞれ賄賂罪で検挙された人員の多かった公務員(いわゆる「みなす」公務員を含む。)の職種につき上位の10位までを掲げて,その比較をしてみたものである。まず,前期で第1位であった「土木・建築関係の地方公務員」は,後期では第2位となったが,その検挙人員は前・後期とも全く同数であり,前期で第3位であった「地方公共団体の各種議員」は,後期では,検挙人員が107人増加して第1位となったこと,前期で第6位であった「地方公共団体の各種委員」は,後期では,検挙人員が若干減少しながらも順位は第3位となっていること,前期で第2位であった「大蔵省関係」が,後期では,検挙人員も前期の9.3%にまで減少してその順位は第8位となったこと,「教育関係の地方公務員」,「農林省関係」及び「建設省関係」についても,同様検挙人員の減少・順位の低下が見られること,上位10位に限らないで贈収賄事件の全検挙人員について見ると,後期は前期に比べて実数で1,125人,比率で37.7%の減少となっているのに,地方公務員関係者の検挙人員については,前期の1,717人から後期の1,466人へと実数で251人,比率で14.6%の減少にとどまり,その全検挙人員中に占める比率は,前期の57.6%から後期の79.0%へと逆に上昇しており,地方公務員関係者による事犯の多発傾向に問題なしとしないものがあることなどが指摘される。

I-51表 贈収賄事件公務員所属別検挙人員(昭和36年〜40年,46年〜50年)

I-52表 収賄罪通常第一審科刑別人員(昭和41年,46年〜50年)

 次に,収賄事件の通常第一審における科刑状況を昭和41年及び46年から50年までの最近5年間について見ると,I-52表のとおりである。刑期別に見ると,1年以上の刑に処せられた者の占める割合は,50年では,39.5%で,最近5年間では47年に次ぐ高率を示している。執行猶予率は,41年には80%台であったが,前記の最近5年間ではいずれも90%を上回っている。この種事犯の有罪判決の大部分が執行猶予付であるのが現在の刑事裁判の大勢と言える。