前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和52年版 犯罪白書 第1編/第1章/第5節 

第5節 公害犯罪

 最近5年間の全国の検察庁における公害犯罪の受理・処理状況を見ると,I-37表のとおりである。この種事犯に対する取締りは逐年強化されてきており,昭和51年における検察庁新規受理人員は,47年のおよそ2.5倍となっている。それに伴い,公害犯罪で起訴される人員も著しい増加を見せ,その起訴率も,51年では72.8%となっており,最近5年間で最も高率を示している。

I-37表 公害犯罪検察庁受理・処理状況(昭和47年〜51年)

 昭和51年中の全国の検察庁における公害犯罪の新規受理人員を罪名別に前年と対比して見ると,I-38表のとおりである。51年の受理人員総数は,前年より1,120人(20.3%)増加して6,624人となっている。そのうち,最も多いのは廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の3,883人で,受理人員総数の58.6%を占め,海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律違反の1,363人(20.6%)がこれに次ぎ,以下,水質汚濁防止法,河川法,港則法の各違反等の順となっている。50年と比較して受理人員の増加の著しいのは廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の1,227人(46.2%)の増加であり,河川法,毒物及び劇物取締法の各違反も若干増加している。一方,港則法,水質汚濁防止法,へい獣処理場等に関する法律の各違反などは,前年に比べて若干の減少となっている。
 昭和51年中に公害犯罪で起訴された者の総数は4,540人であるが,そのうちの97.3%に当たる4,418人が略式命令請求で,残る122人が公判請求である。

I-38表 公害犯罪罪名別検察庁新規受理人員(昭和50年,51年)

 次に,最近における公害犯罪の特徴を見ると,行政機関の警告を受けながら,これを無視して違反を繰り返していたものや,取締りを免れるため,汚水の違法な排出や廃棄物の不法処理に工夫をこらして発覚を免れようとするものなどが見られ,事犯の態様が悪質かつ巧妙化している点が注目される。
 公害の種類では,廃棄物関係事犯の増加が著しく,廃棄物処理施設等の公害防止施設の未整備事犯が多発しており,一部に,地方公共団体によるし尿処理施設の未整備事犯や,暴力団関係者が無許可で処理を引き受けた廃棄物を不法投棄した事犯なども現れている。また,最近では,数県にまたがる広域事犯あるいは大量の廃棄物を不法処理した大規模事犯も見られる。
 廃棄物の不法投棄等の事犯の激増に対応し,昭和51年第77通常国会で廃棄物の処理及び清掃に関する法律及び廃棄物処理施設整備緊急措置法につき,それぞれ一部改正が行われ,事業者の産業廃棄物の処理,廃棄物処理事業,廃棄物処理施設等に関する規制及びその罰則が強化され,これにより,産業廃棄物の適正処理のための責任体制が整備されたと言える。この種事犯防止のためには,適切な行政施策を背景とする強力な取締りが必要であるが,同時に,関係者の責任の自覚が望まれる。
 昭和51年中に検察庁で処理された事例中主なものとしては,まず,タンクローリー運転手が硫酸を配達先の貯蔵槽に注入するに当たり,注入口を取り違えて次亜塩素酸ソーダ槽の注入口に注入したため塩素ガスを発生させ,付近住民に急性皮膚炎等の傷害を負わせた事案に関し,直接行為者である運転手が業務上過失傷害罪で公判請求されたほか,配達先の会社の従業員にも硫酸受入れの際に注入口の確認等を怠った点に過失があるとして,同会社及び硫酸の受入れに当たった同会社の排水処理施設の責任者が人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律違反で公判請求されており,同法施行後2件目の起訴事例として注目される(大阪地検)。そのほか,製油所で重油貯槽の底板部に亀裂を生じ,大量の重油が瀬戸内海に流出した事案に関し,貯槽基盤等の工事を請け負った会社及び責任者が岡山県海面漁業調整規則違反,過失往来妨害(会社を除く。)で公判請求された事例(岡山地検),アセトアルデヒド製造工程で副生した化学毒物である塩化メチル水銀を含有する排水を,33年以降工場から排出させていた結果,付近住民を水俣病あるいは胎児性水俣病にり病させ,6人を死亡させた事案に関し,関係会社の当時の社長及び工場長が業務上過失致死傷罪で公判請求された事例(熊本地表)などがあるが,特に,最後の事例は,企業の生産工程で副生した化学毒物の排出による魚介類の汚染とその摂取による水俣病の発病との複雑な因果関係を解明して処理した先例として注目される。