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 昭和51年版 犯罪白書 第3編/第3章/第3節/2 

2 更生保護

 保護観察に付された者の中には,暴力守関孫者や以前に関孫のあった者が相当数存在していて,これらの者に対する保護観察には種々の困難を伴うことが多い。暴力団が現存する社会の中で,しかも,ゆがんだ生活意識・態度や価値観を持つこの種対象者を,更生させその社会復帰を促すためには.特別な工夫と強力な指導が要請される。
 ここでは,暴力団関係対象者に関する法務省保護局の資料及び関東地方更生保護委員会の統計調査票を法務総合研究所で分析した結果に基づいて,この種対象者の概数,特性,更生保護の実施状況等について検討する。

(1) 暴力団関係対象者の概数

 保護観察対象者のうち,どれほどの人員が実際に暴力団に所属し,また,その結びつきの強さはどうであるかなどの実態を正確には握することは極めて困難である。
 昭和49年10月中に保護観察を終了した全国保護観察対象者(交通事件,保護観察期間が2箇月未満の者を除く。)は2,140人(保護観察処分少年及び少年院仮退院者等の青少年1,153人,仮出獄者及び保護観察付執行猶予者等の成人987人)であったが,このうち,保護観察官が,青少年について「不良交友若しくはそのおそれがある」と評定した者は660人(57.2%)であり,また,成人について「組織暴力団と関係がある若しくはそのおそれがある」と評定した者は243人(24.6%)である。
 更に,関東地方更生保護委員会が昭和50年中に仮出獄許可決定をした人員は5,541人であったが,このうち,関係記録で明らかに暴力団に所属していたことが判明した者の人員は341人(6.2%)である。
 これらの資料は,現に暴力団に所属している者の実数を示すものではないが,それでもなお,この事実から相当数の暴力団関係対象者が存在していることが推定できる。

(2) 暴力団関係仮出獄者の特性

 暴力団関係対象者の特性の一端を知る方法として,前記関東地方更生保護委員会で仮出獄許可決定があった341人の暴力団関係対象者を振出獄許可決定者総数5,541人との比較で検討する。
 まず,前歴について見ると,初犯・累犯別人員はIII-129表に示すとおりで,累犯者の占める割合は,総数では21.2%であるのに対して,暴力団関係対象者では37.0%となっている。なお,比較対照群を欠くが,暴力団関係対象者の刑務所入所度数は,初度197人(57.8%),2度76人(22.3%),3度以上68人(19.9%)で,この後対象者の40%以上の者が今回の入所以前に刑務所収容歴を持つ者である。

III-129表 暴力団関係仮出獄許可決定者の初犯・累犯別人員(昭和50年)

 年齢層別溝成人員を,関東地方更生保護委員会管内保護観察所が新たに同年中に受理した仮出獄人員との対比で見たのが,III-130表である。一般に,暴力団関係対象者に比較的年齢の若い者が多く,29歳以下の者の占める割合は,総数では40.7%であるのに対して,暴力団関係対象者では53.7%となっている。

III-130表 暴力団関係仮出獄許可決定者の年齢層別人員(昭和50年)

 更に,暴力団関係対象者がどのような犯罪を犯したかを見たのが,III-131表である。暴力団関係対象者の犯罪は総数に比べて,恐喝,覚せい剤取締法違反,傷害・同致死等の犯罪で特に高い割合を占めており,賭博・富くじ,暴力行為等処罰に関する法律違反,殺人,銃砲刀剣類所持等取締法違反等で占める割合も高い。総じて暴力的犯罪が目立つほか,覚せい剤や賭博等,非合法な収入手段と関係のある犯罪が多い。

III-131表 暴力団関係仮出獄許可決定者の罪名別人員(昭和50年)

(3) 暴力団関係対象者に対する更生保護の実情

 これまで見てきたことからもわかるように,暴力団関係者は,保護観察対象者の中にも相当数存在しており,これらの者には,犯罪歴を有していて処遇困難な者が多い。更生保護関係諸機関においても,この種の対象者に対しては,特に工夫を凝らし努力を重ねて処遇を行っている。
 前記関東地方更生保護委員会の資料に基づき,仮釈放の審理状況を見ると,III-132表に示すとおり,棄却率は,総数では6.9%であるのに対して,暴力団関係者については,その2倍以上の16.2%である。矯正施設の長から申請された事実であっても,なお,事前に綿密な調査を行い,各種の情報を総合して,厳密な判断が下されているのである。また,本人の矯正施設収容中に暴力団と縁を切らせる指導がなされ,仮出獄許可に際しては,場合により,本人が所属していた暴力団の本拠地から遠く離れた場所に帰住地を指定するなど,更生のためのあらゆる措置が執られている。

III-132表 暴力団関係者に対する仮出獄許否人員(昭和50年)

 他方,保護観察所においても,保護観察処分少年や保護観察付執行猶予者など裁判所から直接保護観察になる対象者については,警察,検察,裁判等の関係諸機関と緊密な連絡を保って,暴力組織や交友状況等に関する詳細な情報の収集に当たり,適正な処遇を行う上での参考に資しており,また,保護観察の実施面においても,担当保護司の選定に特に配慮し,場合によっては,保護観察官による密度の高い処遇を実施したり,直接暴力団に働きかけてこれとの絶縁に努力している。
 およそ以上のような実体を示す暴力団関係対象者は,一般に,行動面で隠微的で実態のは握が困難であり,本人や家族等の更生に対する自覚や協力が薄弱で,また,暴力団からの誘惑が強く,犯罪や非行を繰り返す傾向が見られるので,関係諸機関がなお一層連携を強化して,一貫した処遇を強力に行う体制を確立する必要がある。