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 昭和51年版 犯罪白書 第3編/第3章/第1節/2 

2 最近における暴力団及び暴力団犯罪の動向

 暴力団及び暴力団犯罪について,最近の動向を見てみよう。まず第一に,暴力団の広域化,系列化現象が著しいことに注目する必要がある。III-121表は,昭和40年及び最近5年間の暴力団団体数及び溝成員数を示したものである。最近5年間の推移を見ると,暴力団全体及び広域暴力団(2以上の都道府県にわたって組織を有する暴力団をいう。)は,いずれも減少しているが,広域暴力団の減少率は暴力団全体の減少率より低いため,広域暴力団の暴力団全体の中に占める比率は,団体数及び構成員数において逐年上昇している。また,50年の広域暴力団について,10年前と比較すると,団体数では約1.7倍,構成員数では約1.4倍となっている。暴力団が広域化,系列化するに従って,一団体当たりの溝成員数も増大する傾向が見られる。III-122表は,35年から37年,44年から49年までの問における暴力団団体数を規模別に見たものである。49年において,構成員数100人未満の団体数は,35年に比べ半減しているが,構成員数100人以上の団体数は,35年に比べると2倍近くに増加している。

III-121表 暴力団団体数及び構成員数(昭和40年,46年〜50年)

III-122表 規模別暴力団団体数(昭和35年〜37年,44年〜49年)

 こうした暴力団の組織拡大及び再編成の動きは,暴力団相互の対立抗争事件を発生させ,また,これに備えての暴力団の武装化を促進させることとなる。
 最近における暴力団対立抗争事件の発生件数の推移を見ると,昭和45年の129件を頂点として逐年減少し,48年には52件となっていたが,49年以降再び増加の傾向を見せ始め,質的にも事犯の凶悪化と犯行の大胆化の傾向が顕著に見られるようになった。III-20図は,45年から50年までの6年間に発生した暴力団対立抗争事件の発生件数及びそのうち犯行に銃器が使用された事件の占める比率を見たものである。対立抗争事件が最も多発した45年においても,銃器が使用された事件は129件中の18件(14.0%)にすぎなかったのに,逐年増加し,50年には,89件中の54件(60.7%)において銃器が使用されており,しかも,その銃器のほとんどがけん銃であるという点が注目される。また,暴力団対立抗争事件の被害について見ると,50年において,死者数は,前年より12人増加して26人,負傷者数は,前年より31人増加して123人となっている。次に,その発生状況を地域別に見ると,近畿地方で最も多く発生しているほか,関東,九州,東北,中国,中部の各地方でも発生している。

III-20図 暴力団対立抗争事件の発生件数等の推移(昭和45年〜50年)

 昭和50年中に検挙された特異重大事犯を挙げると,[1]二つの暴力団が,賭場を巡る紛争から抗争し,喫茶店内で組員3人をけん銃で射殺したことに端を発して,数回にわたり抗争し,計4人の死者を出した事件(大阪),[2]二つの暴力団が,債権取立てなどを巡って対立し,岡山駅新幹線ホームで組員をけん銃でそ撃するなど,数回にわたり抗争し,計2人の死者を出した事件(岡山),[3]二つの暴力団が,オートレース場における「のみ行為」などに関して対立し,組の幹部ら2人をけん銃で射殺した事件(福岡),[4]暴力団の内部抗争において,対立派の組員3人をけん銃で射殺して土中に埋め,遺棄した事件(沖縄)などである。
 次に,最近の暴力団の武装化傾向を表すものとして,最近5年間の暴力団関係者からの凶器の押収状況を示したのが,III-123表である。押収凶器の総数は逐年増加しているが,特に,けん銃の増加が著しい。また,これらのけん銃の大部分は,模造けん銃を改造したものであり,暴力団によるけん銃の大量密造,密売及び密輸入事犯が目立って増加している。

III-123表 暴力団関係者押収凶器数(昭和46年〜50年)

 最後に,暴力団の資金源について見ると,暴力団は,これまで資金を獲得するため,賭博,麻薬・覚せい剤取引,のみ行為,わいせつフィルムの販売等の活動をしてきたが,最近では,これらのほかに,金融債権取立て,総会屋,倒産会社の債権整理などの新しい分野にも進出して,暴力を背景とした知能犯を犯す傾向がある。
 以上述べたように,暴力団組織は,依然として社会に深く根を下ろし,暴力団犯罪もなお衰えず,むしろ悪質化する傾向を示している。こうした暴力団犯罪は,直接市民生活の平穏を乱し,社会・人心に大きな不安を与えるものである。その根絶を期するためには,警察等による強力な取締りを反復実施する必要があることはもとより,暴力追放に関する一般市民の理解と協力とが必要であろう。