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 昭和51年版 犯罪白書 第3編/第2章/第4節/1 

第4節 交通犯罪者の処遇

1 矯正

(1) 交通犯罪受刑者の収容状況

 近年減少傾向にある交通事故のすう勢を反映して,昭和50年における業務上(重)過失致死傷(その大多数は,交通犯罪である。)の新受刑者の数は,III-109表に示すとおり,著しく減少している。一方,ここ数年来増加の傾向にあった道路交通法違反による新受刑者数も,別年においては若干減少している。次に,この両者の新受刑者について,刑種別内訳を見ると,50年では前年よりも大幅に懲役の数が禁錮の数を上回り,ほぼ3倍になっている。このような状況は,50年末の収容状況こも反映しており,法務省矯正局の資料によると,交通犯罪受刑者の年末人員は,禁錮の593人に対して,懲役(交通犯罪以外の別件併有を含む。)の2,686人となっている。また,新受刑者について罪名別内訳を見ると,禁錮のほとんどが業務上(重)過失致死傷であるのに対して,懲役では,業務上(重)過失致死傷と道路交通法違反が,いずれも半数近くを占めている。

III-109表 交通犯罪新受刑者の罪名別・刑種別人員(昭和49年・50年)

 新受刑者の刑期別人員は,III-110表のとおりで,その構成比は,前年とほとんど変わらず,懲役に刑期の短い者が多い。

III-110表 交通犯罪新受刑者の刑期別・刑種別人員(昭和49年・50年)

 新受刑者の年齢層別人員は,III-111表のとおりで,前年と同様に20歳代の者が約半数を占めて最も多いが,その割合は,前年に引き続き低下している。これに対して,30歳以上別歳未満の各年齢層の構成比はわずかずつ上昇している。

III-111表 交通犯罪新受刑者の年齢層別人員(昭和49年・50年)

 新受刑者の入所歴は,III-112表のとおりで,施設経験のない者が多いが,他方,施設経験を有する者は,年々増加の傾向にある。

III-112表 交通犯罪新受刑者の入所歴別人員(昭和49年・50年)

(2) 交通犯罪受刑者の処遇

 交通犯罪受刑者のうち,懲役受刑者は,他の懲役受刑者と同様,受刑者分類規程に基づいて一般の刑務所に収容され,それぞれの持つ資質と問題性に応じた分類処遇を受けている。
 一方,禁錮受刑者については,一定の基準を設け,特定の施設に集禁して,処遇が行われている。集禁の基準は,[1]懲役を併有しないこと,[2]懲役又は禁錮の執行等により,矯正施設に収容された経験を有しないこと,[3]おおむね執行刑期が3月以上であること,[4]心身に著しい障害がないこと,[5]管理上支障のおそれのないことである。
 集禁施設としては,交通事犯禁錮受刑者のみを収容している市原刑務所と,区画を設けてその収容を行っている加古川刑務所,名古量刑務所豊橋刑務支所,大分刑務所,山形刑務所及び松山刑務所西条刑務支所の6施設が指定され,また,この集禁施設の処遇に準ずる処遇を行っている施設として,中野刑務所など4施設がある。
 集禁施設における処遇は,開放的なふん囲気の中で,生活訓練や職業指導等の矯正教育を行う特色のあるものである。特に,生活訓練については,遵法精神,人命尊重,責任観念,その他の徳性のかん養に重点が置かれ,また,職業指導については,自動車運転に対する態度,適性,将来の生活設計などについての指導が行われている。
 ここで,集禁施設の典型的なものと言える市原刑務所について,その収容者の特性と,その処遇の概要について述べる。
 昭和50年中に市原刑務所に入所した者380人について見ると,平均年齢は28歳,学歴はほぼ半数が旧高等小学校又は新制中学校卒業であるが,大学卒業も4.7%ある。過去に業務上(重)過失致死傷を犯した者が31.8%を占め,道路交通法違反の犯歴を有する者は83.1%に及んでいる。
 これらの収容者は,入所するとまず入所時教育を受けるとともに,分類調査を通じて各人の持つ問題点がは握される。分類調査の結果によると,収容者の知能は,普通知以上が47.4%,平均知能指数90となっている。限界知以下の者も22.3%を占めている。また,III-16図に示すとおり,安全運転適性検査によって,運転要注意,不適とされる者が,ほぼ70%になっている。更に,将来もまた運転を続ける意思を有する者は62.1%である。

III-16図 安全運転適性及び出所後の運転意思

 市原刑務所では,分類調査の結果に基づいて,交通犯罪による再犯防止のための教育指導を,次の3コースに分けて行っている。
A 運転適性が普通程度にあり,かつ,将来運転の必要性のある者に対する教育指導
B 将来運転を希望するが,運転適性その他の条件に照らして,運転は不適とされた者に対する教育指導
C 将来運転を希望しない者に対する教育指導
 そのうち,Bコースの者については,特に家族,雇主をも含めたファミリー・カウンセリングを行い,できる限り将来運転業務に就くことなく生計を立てるように働きかけている。
 これらのコース別の教育指導とは別に,希望者には各種の講習会にも参加の機会を与えている。昭和50年度における各種の技能検定受験状況は,III-113表のとおりである。また,外部事業所への通勤制も実施され,常時20人前後の収容者がこれに従っている。

III-113表 技能検定受験状況(昭和50年度)

 生活指導については,収容者の自主性を基調にした集団討議,新聞の発行,レクリエーション,クラブ活動などが奨励されている。
 保安面についても,自主的な生活管理を促すように配慮され,居室をはじめ図書室,集会室などほとんどの部屋について施錠がなく,溝内の通行や面会にも職員の同行や立会いは行われていない。
 こうした開放的処遇において,これまで1件の逃走やその未遂事故もなく,また,その他の規律違反についても,一般の矯正施設と比較して,極めて少ないという状態である。
 再入状況については,市原刑務所が習志野作業場として交通犯罪受刑者の集禁を開始した昭和38年から50年3月までの出所者総計5,940人のうち,再入した者は132人を数えるにすぎない。

(3) 少年院における交通事犯少年の処遇

 交通事犯関係によって,昭和50年中に新たに少年院に収容された者の数は,業務上(重)過失致死傷による者73人と道路交通法違反による者63人との合わせて136人である。
 少年院の中でも特にこれらの交通犯罪少年のみを対象とする施設として,松山少年院,宇治少年院及び置賜学院があり,これらの施設に交通短期処遇課程が置かれている。上記136人のうち,これらの施設に収容された者は84人で,前年に比べて16人増加している。
 これらの施設では,明るく開放的なふん囲気の中で安全運転教育,職業指導などを行うとともに,特に生活指導を重視し,規範意識の欠如,衝動性など自己の問題を改善することを目標に集団討議その他の指導方法を繰り入れた処遇が実施されている。