前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和51年版 犯罪白書 第2編/第5章/第3節/1 

1 保護観察対象者

 ここでは,成人の保護観察対象者のほとんどを占める仮出獄者及び保護観察付執行猶予者について,その犯罪傾向を中心に見ることとする。
 受刑者の仮出獄は,第2編第4章第2節で述べているように,刑務所及び地方更生保護委員会による,二つの選択段階を経て初めて認められる。また,保護観察付執行猶予は,裁判所において,犯罪歴や情状等が考慮されたうえでその言渡しがなされる。このような選択の過程が法制上存在するので,保護観察下に入ってくる成人犯罪者には,犯罪傾向の進んだ者はある程度排除されていることとなる。しかし,保護観察によって改善更生が期待されると認められる者については,できるだけ多く社会の中で処遇しようとする配慮によって,犯罪傾向がある程度進んでいると認められる者であっても,保護観察を受ける者が多くなっている。
 II-13図は,地方更生保護委員会が仮出獄許可決定をした者を,交通犯罪とこれを除く一般犯罪とに分けて,過去10年間の累犯者の占める割合の推移を見たものである。総数では,この割合は昭和41年以降概して減少傾向にあり,48年には29.1%となったが,その後増加して50年には31.6%を占めている。この累犯者率を,交通犯罪を除く一般犯罪に限って見ると,年度によって高低があるが,最近数年間は37%〜39%を占め,その比率は低くはない。

II-13図 仮出獄許可決定者の交通犯罪・一般犯罪別累犯者率の推移(昭和41年〜50年)

 また,累犯者の犯罪傾向の進度をは握する方法として,まず,昭和50年中に仮出獄許可決定のあった1万5,004人について,刑務所入所度数を見ると,初度62.4%,2度14.1%,3度7.6%,4度4.7%,5度以上11.3%となっており,仮出獄者の中には何回も刑務所に入った経験のある者が相当数含まれている。更に,50年中に保護観察を終了した仮出獄者及び保護観察付執行猶予者について,刑事処分歴及び保護処分歴を見ると,II-85表に示すとおりである。刑事処分歴のある者の占める割合は,仮出獄者80.1%,保護観察付執行猶予者67.8%でともに高い。保護処分歴のある者の占める割合は,仮出獄及び保護観察付執行猶予者とも約28%を占めている。

II-85表 保護観察終了者の刑事処分歴及び保護処分歴別構成比(昭和50年)

 以上のことから,成人保護観察対象者の中には,かなり多くの累犯者,刑事処分歴及び保護処分歴を有する者が存在していて,現実には犯罪傾向の進んだ処遇困難者が相当数含まれていることがわかる。これらの者に対しては,保護観察の実務においてあらゆる努力が払われているが,仮出獄者の場合,保護観察の期間が短いという制約があって十分な更生の手段を講じ得ないまま保護観察を終了しなければならないことが多く,また,保護観察付執行猶予者の場合,遵守事項や転居・旅行の手続等における法制上の緩やかな規定のため,厳正な措置を執り得ず十分処遇効果を発揮することができないことがあり,今後検討を要する課題である。