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2 仮出獄 (1) 仮出獄の許可 仮出獄の要件は,刑法28条に規定されているが,同条に定める仮出獄の要件期間(有期刑については刑期の三分の一,無期刑については10年,少年については少年法58条の特例がある。)を経過した者につき,次に掲げる四つの事由,[1]悔悟の情が認められること,[2]更生の意欲が認められること,[3]再犯のおそれがないと認められること,[4]社会の感情が仮出獄を是認すると認められることを総合的に判断し,保護観察に付することが本人の改善更生・社会復帰のため相当であるときに仮出獄が許されるのである。その判定は,地方更生保護委員会によって行われるわけであるが,通常の場合,矯正施設の長の仮釈放の申請を前提としている。すなわち,矯正施設の長は,そのための審査を行い,仮出獄許可の基準に該当すると認められる者について,矯正施設の所在地を管轄する地方更生保護委員会に仮釈放の申請を行うのである。このように見てくると,仮釈放の運用には,まず矯正施設の長による審査があり,これを経て申請された者につき,地方更生保護委員会が合議制によって慎重な審理を行って,仮釈放の決定に至るもので,そこでは異なった二つの行政機関による選択が機能し,仮釈放の運用の公平と厳正を担保しようとしていることがわかる。
仮出獄の申請及び許否決定の状況は,II-58表のとおりで,昭和50年中の申請受理人員は1万7,578人で,前年に比べて1,083人減少している。47年,48年において12%を超えた棄却率は,前年同様10.9%となっている。この棄却率は,(棄却人員/許可人員+棄却人員×100)により計算したものであるが,矯正施設の長によって仮出獄許可の基準に該当するものとして申請されたが,地方更生保護委員会の審理の結果,仮出獄不相当とされた,いわば両者の意見の不一致の結果である。仮出獄の運用は,両者の一致を必要とし,申請が棄却された者については,成績が著しく向上し,又は棄却の理由がなくなったと認められる後でなければ,再び仮釈放の申請を行うことができない。棄却された者の相当部分は,初めから申請もされなかった一群の行刑成績不良者とともに,いわゆる満期釈放者群の主要部分を形成し,釈放後,保護観察のわくの外に置かれ,刑事政策上の問題の一つとなっている。 次のII-59表は,昭和50年の仮出獄許否の状況を,刑法上の累犯・非累犯別,刑務所入所度数別及び年齢層別に見たものである。棄却率は懲役刑中有期刑累犯が21.0%,非累犯が5.3%で,累犯者は,非累犯者に比べて棄却される率が高く,この対比は例年ほとんど変わっていない。また,入所度数別の仮出獄許否の状況について入所度数が多くなるにつれて累進的に棄却率が上昇していることも例年どおりである。なお,年齢が高くなるにつれて棄却率が段階的に上昇しているが,この傾向は,累犯者,入所度数の多い者が結果的に高年齢層に多くなることと多分に関連するものであり,この傾向と比率は,これまた例年ほとんど変わっていない。 II-59表 受刑者の累犯・非累犯の別,入所度数別及び年齢層別の仮出獄許否の状況(昭和50年) 昭和50年における罪名別仮出獄決定状況をII-60表によって見ると,棄却率の高い罪名に暴行の34.2%,暴力行為等処罰に関する法律違反の28.2%,賭博・富くじの22.8%,銃砲刀剣類所持等取締法違反の22.5%などがある。II-60表 罪名別仮出獄許否状況(昭和50年) 仮出獄の時期の選定は,続いて行われる保護観察の長短に直接関連するので,仮出獄者の選択と並んで地方更生保護委員会に期待される最も大切な機能であると言える。そこで,受刑者は刑期のうちどの程度服役した後に仮釈放が許されているかを検討する。II-61表は,昭和50年中に仮出獄を許された者1万5,004人のうち有期刑の執行を受けた者1万4,664人(便宜上,不定期刑の執行を受けた者226人を除く。)について,刑期別にその執行率を示したものである。II-61表 定期刑仮出獄者の刑の執行状況(昭和50年) まず,総数について見ると,その43.5%に当たる者が刑期の90%以上を服役しており,79.9%もの者が刑期の80%以上を服役していることがわかる。法律上は,有期刑は,執行すべき刑期の三分の一を経過すれば仮出獄を許すことができることになっているが,実際上,刑期の二分の一未満で仮釈放になる者はわずかで,むしろ例外になっている。過去5年間の傾向を見ると,執行率80%以上の者は,昭和46年が82.7%,47年が84.1%,48年が84.1%,49年が81.5%で,その傾向は例年ほとんど変わらなかったのが,50年には79.9%と80%台を割り,わずかながら減少している。他方,執行率50%未満の者が49年の7人から一挙に41人に増加していることも注目される。このように,50年にはわずかながら執行率が全体的に低くなり,その結果,仮出獄者に対する保護観察期間が相対的にやや長くなっている。次に,刑期別にその執行率を見ると,執行率90%以上の者の占める比率は,刑期1年以下で47.0%,2年以下で42.6%,3年以下で43.4%,5年以下で40.4%と,おおむね,刑期が長くなるに従って執行率は低くなる傾向が認められる。このことは,一般的傾向として刑期の短い者は執行すべき刑期の大部分を服役した後でなければ仮釈放が許されないことを示している。 また,累犯の場合,前述のように棄却率が高いだけではなく,執行率がかなり高い段階に至らなければ仮出獄が許されないため,累犯者に対する保護観察期間は相対的に短くなっている。 次に,無期刑仮出獄者について見たのが,II-62表である。昭和50年中に仮出獄を許された無期刑受刑者は,仮出獄者全員に対する比率では0.7%にすぎないが,事案の内容を考慮するとき,49年に72人であったのが50年に114人に増加したことは,注目に値するところと言えよう。なお,無期刑仮出獄者の在監期間を見ると,13年を超え17年以内の者が最も多いのが例年の傾向であるが,50年においても,それらの者が占める割合は69.2%で,無期刑仮出獄者の過半数を占めている。 II-62表 無期刑仮出獄者の在監期間の構成比(昭和46年〜50年) (2) 仮出獄期間 仮出獄を許された者は,すべて保護観察に付される。現行法では,仮出獄期間は,原則として保護観察期間と一致する。仮出獄期間は,後出のII-66表に示すとおり,短期間の者が多い。昭和50年の仮出獄者では,2月以内の者だけでも51.2%と半数を超えており,2月を超え1年以内の者は42.8%で,1年を超える者は5.2%にすぎない。この傾向は例年変わらないが,50年においては,1月以内という極度に保護観察期間の短い者の構成比が23.8%となり,48年の30.4%,49年の27.0%に比べ逓減し,わずかながら保護観察期間の長い者の構成比が高まってきている。しかし,仮出獄期間の短い者がなお半数を超えていることは,主として刑期の短い者の占める割合が大きく,それらの刑期の短い者については執行率が高い段階でないと仮出獄が通常の場合許されないことによるものと思われる。いずれにせよ,仮出獄期間が特に短い者に対しては,通常の保護観察ではその効果が期待できないので,期間が特に短い仮出獄者の処遇をいかにするかが問題となっている。
(3) 仮出獄者の成行き 仮出獄の許可基準の一つに再犯のおそれがないことが要件として掲げられているように,仮出獄の許可は,再犯防止に役立つものでなければならない。このような観点からも,仮出獄者の再犯状況は特に関心をもって見守られなければならないところであるので,仮出獄者の成行きを満期釈放者の成行きとの対比で見てみることとする。なお,仮出獄取消しの状況は,改めて第3節の2において述べる。
II-63表は,昭和46年から50年までに出所した仮出獄者と満期釈放者の刑務所再入状況を比較したものである。同表の[1]は,同期間に出所した仮出獄者と満期釈放者の人員と,それらのうち仮出獄取消し又は再犯によって再収容された人員を,再収容の年次別に示したもので,同表[2]は,釈放後の年数別再収容率を示すものである。満期釈放者は,出所の当年にその10.4%が再収容されているが,仮出獄者にあっては3.5%にとどまっており,また,5年目まで各年の比率をそのまま累計すると仮出獄者の28.9%,満期釈放者の53.5%に当たる者が再収容されている。この対比は,例年30%弱対50%強でほとんど変わらず,仮出獄者の成行きの方がはるかに良好である。この結果は,対象者の素質・環境等の相違によるものとも考えられるが,そこに保護観察の効果をうかがうこともできよう。仮出獄を許されず,満期釈放者として指導監督の外に置かれた者でも約半数に近い者が5年目を迎えなお再収容されていない事実は,満期釈放者の中にも仮出獄を許してよい対象者が相当あることを示唆するが,同時に,満期釈放者に対して有効な保護措置が施されるならば,一層再犯防止に寄与するであろうことをも示していると言えよう。 II-63表 仮出獄者と満期釈放者の成行き(昭和46年〜50年) |