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 昭和51年版 犯罪白書 第2編/第3章/第3節/5 

5 刑務作業

(1) 概況

 刑務作業は,刑法上定役に服する懲役受刑者の作業がその主なものであるが,これに準じて施行される労役場留置者の作業があり,ほかにも,法律上作業を強制されることのない禁錮受刑者,拘留受刑者及び未決拘禁者などが行う請願作業がある。
 刑務作業の最近の規模を大まかに見ると,全国74施設において,1日平均約3万5,000人が就業し,年間37億円の作業費を使用して,100億余円の生産を上げており,その業種は,木工,印刷,洋裁,金属,革工,農耕・牧畜等の23種に及んでいる。その運営は,受刑者に,就業を通じて勤労の意欲を養わせ,その習慣を身に付けさせるとともに,職業的知識・技能を付与することによって,社会復帰後の自立更生に役立たせることを目的とし,それが同時に作業の生産性を高めることにもなるように行われている。なお,この一般的趣旨のほかに,精神障害者に対して医師の指示により行う「治療作業」がある。
 刑務作業の形態は,生産作業,職業訓練及び自営作業に分けられる。生産作業及び職業訓練には,製作収入作業(生産に用いる原材料の全部又は一部が国の物品である作業)と,賃金収入作業(生産に用いる原材料の全部が契約の相手方から提供された物品である作業又は国が受刑者の労務のみを提供して行う作業)の二つの業態があり,また,自営作業には,経理作業(炊事,清掃等施設の自営に必要な作業)と営繕作業(新営,改修等施設の直営工事に必要な作業)の二つがある。
 II-51表は,主要業種について,その昭和49年度の就業延べ人員,支出額及び生産額を見たものである。

II-51表 業種別就業延べ人員,支出額及び生産額(昭和49年度)

 昭和49年は,前年秋の石油ショックに始まった経済不況の影響により,契約業者の解約,減産,契約人員の削減等で5,000名を超える受刑者の作業が失われ,代替作業の導入を余儀なくされた。しかし,景気回復に伴い,50年後半からは新しい作業の導入も行われるに至っている。今後は,更に木工,金属等受刑者の職業的技術の習得に役立つ有用作業を重点的に整備するなど,作業体質の改善が図られることになろう。
 なお,昭和50年末現在における刑務作業の就業率は,懲役受刑者は92.7%,禁錮受刑者は93.5%,未決拘禁者は1.6%,労役場留置者は84.9%となっている。

(2) 職業訓練

 受刑者の社会復帰に資するため,適格者に対しては,受刑者職業訓練規則に基づく職業訓練を実施し,公の資格・免許を取得させるように努力が払われている。その実施は,総合訓練,集合訓練及び自所訓練の三つの形態で行われている。総合訓練は,全国各施設から適格者を選定して実施される。このための総合職業訓練施設としては,函館少年刑務所,中野刑務所,川越少年刑務所,奈良少年刑務所,山口刑務所に加えて,昭和50年10月に新たに指定された山形刑務所の6施設があり,受刑者の職業適性に応ずる多様な訓練種目が用意されている。集合訓練及び自所訓練は,それぞれ,矯正管区及び施設ごとに訓練種目を定めて行っている。
 昭和49年度における職業訓練の実施状況及び資格・免許の取得状況は,それぞれ,II-52表及びII-53表のとおりである。その職業訓練人員の増加とともに,社会の職業需要の変化に応ずる訓練種目及びその内容の拡充が,今後の課題と言えよう。

II-52表 職業訓練種目別人員(昭和50年12月31日現在)

II-53表 資格・免許取得状況(昭和50年度)

(3) 構外作業

 構外作業は,刑務所の構外で実施する作業であって,受刑者に社会生活に適応する能力を付与し,その更生復帰を促すうえで,施設内の閉鎖的な環境では得られない利点を持っている。最近においては,単に作業のためというよりは,むしろ,この受刑者処遇の趣旨から構外作業場の運営が図られている。一般に,構外作業場は,半開放ないし開放的施設であって,外塀,鉄格子,かぎ等の逃走防止のための物的設備がなく,その生活環境は一般社会の生活環境に近いものとなっているが,更に,民間の事業所の一部を作業場としているものもある。
 構外作業場の代表的なものとしては,大井造船作業場(松山),各務原作業場(岐阜),神戸鉄工団地作業場(加古川),いずみ寮(和歌山),有井作業場(尾道)などがあり,また,構外作業というよりは,職業訓練に重点を置いたものに,最上農業学園(山形),鱒川酪農伝習所(函館),霧島農場(鹿児島)などがある。昭和50年末現在の構外作業場の数は60箇所,出業者は540人(全就業人員の1.5%)で,良好な成績を収めている。

(4) 就業条件

 刑務作業に従事した者には,作業賞与金が支給されるが,その趣旨は,作業の奨励とともに,釈放後における更生資金として役立たせることにある。原則として,釈放時給与であるが,在所中家族にあてて送金し,所内生活で用いる物品の購入に使用することも許されている。物価の上昇等を考慮して,毎年,その増額が図られているが,昭和50年における賞与金計算高の一人当たり平均月額は,1,715円である。
 作業時間は,1日につき8時間(土曜日は4時間),1週につき44時間で,週休制が採られている。その他作業環境や作業の安全衛生管理については,労働基準法や労働安全衛生法等の趣旨が尊重されている。
 なお,受刑者には,一定の条件の下で,いわば内職的な「自己のためにする労作」も許されている。その収益金は,全額本人の収入となる。昭和51年3月末現在,全国で869人がこの労作に従事し,一人1月平均4,464円の収入を得ている。